加護なしでも愛されていました
「加護を持たないお前とは婚約破棄だ!」
国の建国記念日に王太子は婚約破棄をした。
マリーゼは婚約破棄された婚約者を見る。
凛として美しい。
マリーゼは目を落とす。
「彼女は加護を持っているね。土の加護を」
隣に立つ婚約者にええ、と答える。
「この国の王太子の婚約者は加護を持たないと聞いてきましたが、どうやらそれは間違いのようですわ」
「言っただろう? 加護を持たないのは君しかいないと」
「……」
婚約者は王太子を見る。
腕に男爵令嬢を抱いている。
「光妖精の加護を持つはずの王太子が、光妖精の魅了を受けている。どういうことだろうね?」
「この国の王族も確か、我が国と同じ光妖精の加護を持っているはずです。なのであれば、加護が弱いか、それとも」
王太子の婚約者は美しいカーテシーをすると、立ち去っていく。
王太子はそれが気に入らないようだったが、腕に抱く男爵令嬢が何かを囁き、パーティーの仕切り直しを命じる。
音楽が流れるが、何人かの重鎮は帰っていく。
「あ! 隠しキャラ!」
男爵令嬢がマリーゼたちに声を上げた。
音楽は止まり、王太子を引きずれて男爵令嬢がやってくる。
「やっと出てきた! レオドール!」
マリーゼは目を見開く。
本来ならば王太子に対してカーテシーをしなければならないが、男爵令嬢が婚約者を呼び捨てにしたことで頭から吹き飛んだ。
婚約者であるレオドールは凍てついた眼差しを向ける。だが、男爵令嬢は気にもしない。
「あたし王太子よりも王弟のレオドールの方がいいのよね。あたしを婚約者にしてぇ」
王太子は驚く。
「ななな、何を言っているんだ!?」
「だって、レオドールの方がかっこいいんだもん」
男爵令嬢の目がハートになり、レオドールに向けられる。
「あたしのこと好きよね?」
手を伸ばして近づく男爵令嬢にマリーゼは前に出た。
「レオドール様は渡しません!」
「そこを退け!」
退かないマリーゼに男爵令嬢は眉を寄せる。
「どうして言う通りにならないの!?」
レオドールは人差し指を男爵令嬢に向ける。
強い光が発せられ、男爵令嬢は目を押さえる。
「それは低位の加護に収まらないからだよ。例え上位の妖精だろうと頭を下げる。何故なら彼女は女神の生まれ変わりだからね」
「何よそれ! そんなの知らない! 目が痛いクソ!」
背後から騎士が男爵令嬢の目を布で縛り、素早く拘束する。
「何よ! 離して!」
口も猿ぐつわを嵌める。
王太子も拘束し、猿ぐつわを嵌める。
王太子の元婚約者と陛下が現れた。
マリーゼたちはカーテシーや頭を下げる中で、レオドールは頭を上げている。同じ王族は頭を下げないと同盟国でやりとりで決まっていた。
「頭を上げてよい」
陛下の許可でマリーゼたちは頭をあげる。
陛下は王太子と男爵令嬢を連れていくように騎士に命ずる。騎士は敬礼し、二人を連れていく。
「レオドール殿。親書を受け取ったにも拘わらず、この有様、恥ずかしいと言うしかない」
陛下はマリーゼに顔を向けた。
「そなたを利用したと思われてもいたしかない。怪我はなかったか?」
「大丈夫ですわ」
マリーゼはレオドールを見る。視線に気がついたレオドールはにこりと笑う。
陛下は仕切り直しを宣言して、音楽が何もなかったかのように再開された。
「私陛下に嫁ぎますの」
王太子の元婚約者がバニコニーでワインを飲んでいたマリーゼとレオドールの元にやってきて、爆弾発言をした。
マリーゼはワインを吹き出しそうになる。
「えっ!? えっ!? えっ!? 陛下に!?」
「ええ。王子を生んで立派に育てます」
「王妃は認めましたか?」
レオドールは驚くことはなく、そう聞く。
元婚約者は目をおとす。
「毒杯が決まりました。表向きは病死です」
「誰の子供でした?」
「王弟です」
「なら分からないもの分かりますね」
「陛下は王妃様と王弟殿下を失います。二人に騙されていた陛下を、私が癒してさしあげたいと思いました。多くの王様が側室や妾を持つなかで、陛下は王妃様だけでした。私も王妃様のように愛されたいと思いました」
「我が国は一夫一婦制で、王族もですよ」
「リアネア嬢は確かに優秀だが、私の王妃になる者だ。引き抜きはやめてもらいたい」
陛下がバニコニーに現れた。マリーゼとリアネアはカーテシーをやる。
陛下は頭を上げるように許可を出す。
陛下はリアネアを見る。
「親書を受け取っておきながら、そなたをあの場所に立たせてしまった。前もって知っていようと婚約破棄は辛かったであろう?」
「いいえ。私の意思です。陛下が心を痛めることはないのです」
「リアネア嬢。私のことはアルサーと」
「アルサー様」
見つめ合う二人。
マリーゼとレオドールはバルコニーから出ていった。
リアネアがアルサーの婚約者であると通達された三ヶ月に結婚式が行われた。
前王妃と王弟が病死したため、大々的に行われなかったが、それでも大がかりだった。
そしてその後すぐに懐妊したと発表されることになる。
馬車に乗るマリーゼの隣にはレオドールが座っている。
「本当に加護がないのは、私だけなのでしょうか?」
「そうだよ」
目を落とすマリーゼの手をレオドールは掴む。
「低位の加護は収まらない。例え上位の妖精でも君に頭を下げる。何故なら君は女神の生まれ変わりだからだよ」
手にキスをしようとして、マリーゼはするりと外す。
目を落としたままのマリーゼにレオドールは笑いかける。
「君は加護なしを探しているようだけど、それはどうしてだい?」
「その人があなたにふさわしいか、見るためです」
「ふさわしいって?」
「だって、あなたは女神の生まれ変わりだから、私を婚約者にしているんですよね? 別の、女神の生まれ変わりの人がいるかもしれないじゃないですか。その人があなたにふさわしいかもしれない」
レオドールは手で顔を覆った。
「マリーゼ。私の愛しいマリーゼ」
レオドールはマリーゼの手を掴む。
「ちゃんと言ってなかった私の落ち度だ。私はマリーゼを愛している。愛しているから君の父君に土下座をしたんだよ」
マリーゼは目丸くする。
「君の父君は誰とも婚約させる気がなかった」
「それは、私が加護なしだからでは?」
「それは違う。君の父君が縁談の書簡を千切っては投げていたからだ。私の書簡は私の目の前で暖炉に焼べられたよ」
マリーゼは言葉を失う。
「君のデヒュタントで一目惚れだった。毎日君に書簡を送り、土下座をすることで、ようやく婚約者にしてもらえたんだ。私が婿入りすることでね」
「公爵家だからちょうどいいのかと思っていましたわ」
「元々は王族に残るつもりだった」
「そうでしたの?」
「王族を抜けるのことを条件に出されてね。私が王族を抜けるのは、君を愛しているからなんだ」
マリーゼは涙を流した。
レオドールは涙を拭う。
「愛しているんだ。私のマリーゼ」
「私も、私もお慕いしております。レオドール様」
二人はどちらともなく、キスをした。




