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加護なしでも愛されていました

作者: 羽倉了
掲載日:2026/07/02

「加護を持たないお前とは婚約破棄だ!」

国の建国記念日に王太子は婚約破棄をした。

マリーゼは婚約破棄された婚約者を見る。

凛として美しい。

マリーゼは目を落とす。

「彼女は加護を持っているね。土の加護を」

隣に立つ婚約者にええ、と答える。

「この国の王太子の婚約者は加護を持たないと聞いてきましたが、どうやらそれは間違いのようですわ」

「言っただろう? 加護を持たないのは君しかいないと」

「……」

婚約者は王太子を見る。

腕に男爵令嬢を抱いている。

「光妖精の加護を持つはずの王太子が、光妖精の魅了を受けている。どういうことだろうね?」

「この国の王族も確か、我が国と同じ光妖精の加護を持っているはずです。なのであれば、加護が弱いか、それとも」

王太子の婚約者は美しいカーテシーをすると、立ち去っていく。

王太子はそれが気に入らないようだったが、腕に抱く男爵令嬢が何かを囁き、パーティーの仕切り直しを命じる。

音楽が流れるが、何人かの重鎮は帰っていく。

「あ! 隠しキャラ!」

男爵令嬢がマリーゼたちに声を上げた。

音楽は止まり、王太子を引きずれて男爵令嬢がやってくる。

「やっと出てきた! レオドール!」

マリーゼは目を見開く。

本来ならば王太子に対してカーテシーをしなければならないが、男爵令嬢が婚約者を呼び捨てにしたことで頭から吹き飛んだ。

婚約者であるレオドールは凍てついた眼差しを向ける。だが、男爵令嬢は気にもしない。

「あたし王太子よりも王弟のレオドールの方がいいのよね。あたしを婚約者にしてぇ」

王太子は驚く。

「ななな、何を言っているんだ!?」

「だって、レオドールの方がかっこいいんだもん」

男爵令嬢の目がハートになり、レオドールに向けられる。

「あたしのこと好きよね?」

手を伸ばして近づく男爵令嬢にマリーゼは前に出た。

「レオドール様は渡しません!」

「そこを退け!」

退かないマリーゼに男爵令嬢は眉を寄せる。

「どうして言う通りにならないの!?」

レオドールは人差し指を男爵令嬢に向ける。

強い光が発せられ、男爵令嬢は目を押さえる。

「それは低位の加護に収まらないからだよ。例え上位の妖精だろうと頭を下げる。何故なら彼女は女神の生まれ変わりだからね」

「何よそれ! そんなの知らない! 目が痛いクソ!」

背後から騎士が男爵令嬢の目を布で縛り、素早く拘束する。

「何よ! 離して!」

口も猿ぐつわを嵌める。

王太子も拘束し、猿ぐつわを嵌める。

王太子の元婚約者と陛下が現れた。

マリーゼたちはカーテシーや頭を下げる中で、レオドールは頭を上げている。同じ王族は頭を下げないと同盟国でやりとりで決まっていた。

「頭を上げてよい」

陛下の許可でマリーゼたちは頭をあげる。

陛下は王太子と男爵令嬢を連れていくように騎士に命ずる。騎士は敬礼し、二人を連れていく。

「レオドール殿。親書を受け取ったにも拘わらず、この有様、恥ずかしいと言うしかない」

陛下はマリーゼに顔を向けた。

「そなたを利用したと思われてもいたしかない。怪我はなかったか?」

「大丈夫ですわ」

マリーゼはレオドールを見る。視線に気がついたレオドールはにこりと笑う。

陛下は仕切り直しを宣言して、音楽が何もなかったかのように再開された。


「私陛下に嫁ぎますの」

王太子の元婚約者がバニコニーでワインを飲んでいたマリーゼとレオドールの元にやってきて、爆弾発言をした。

マリーゼはワインを吹き出しそうになる。

「えっ!? えっ!? えっ!? 陛下に!?」

「ええ。王子を生んで立派に育てます」

「王妃は認めましたか?」

レオドールは驚くことはなく、そう聞く。

元婚約者は目をおとす。

「毒杯が決まりました。表向きは病死です」

「誰の子供でした?」

「王弟です」

「なら分からないもの分かりますね」

「陛下は王妃様と王弟殿下を失います。二人に騙されていた陛下を、私が癒してさしあげたいと思いました。多くの王様が側室や妾を持つなかで、陛下は王妃様だけでした。私も王妃様のように愛されたいと思いました」

「我が国は一夫一婦制で、王族もですよ」

「リアネア嬢は確かに優秀だが、私の王妃になる者だ。引き抜きはやめてもらいたい」

陛下がバニコニーに現れた。マリーゼとリアネアはカーテシーをやる。

陛下は頭を上げるように許可を出す。

陛下はリアネアを見る。

「親書を受け取っておきながら、そなたをあの場所に立たせてしまった。前もって知っていようと婚約破棄は辛かったであろう?」

「いいえ。私の意思です。陛下が心を痛めることはないのです」

「リアネア嬢。私のことはアルサーと」

「アルサー様」

見つめ合う二人。

マリーゼとレオドールはバルコニーから出ていった。


リアネアがアルサーの婚約者であると通達された三ヶ月に結婚式が行われた。

前王妃と王弟が病死したため、大々的に行われなかったが、それでも大がかりだった。

そしてその後すぐに懐妊したと発表されることになる。


馬車に乗るマリーゼの隣にはレオドールが座っている。

「本当に加護がないのは、私だけなのでしょうか?」

「そうだよ」

目を落とすマリーゼの手をレオドールは掴む。

「低位の加護は収まらない。例え上位の妖精でも君に頭を下げる。何故なら君は女神の生まれ変わりだからだよ」

手にキスをしようとして、マリーゼはするりと外す。

目を落としたままのマリーゼにレオドールは笑いかける。

「君は加護なしを探しているようだけど、それはどうしてだい?」

「その人があなたにふさわしいか、見るためです」

「ふさわしいって?」

「だって、あなたは女神の生まれ変わりだから、私を婚約者にしているんですよね? 別の、女神の生まれ変わりの人がいるかもしれないじゃないですか。その人があなたにふさわしいかもしれない」

レオドールは手で顔を覆った。

「マリーゼ。私の愛しいマリーゼ」

レオドールはマリーゼの手を掴む。

「ちゃんと言ってなかった私の落ち度だ。私はマリーゼを愛している。愛しているから君の父君に土下座をしたんだよ」

マリーゼは目丸くする。

「君の父君は誰とも婚約させる気がなかった」

「それは、私が加護なしだからでは?」

「それは違う。君の父君が縁談の書簡を千切っては投げていたからだ。私の書簡は私の目の前で暖炉に焼べられたよ」

マリーゼは言葉を失う。

「君のデヒュタントで一目惚れだった。毎日君に書簡を送り、土下座をすることで、ようやく婚約者にしてもらえたんだ。私が婿入りすることでね」

「公爵家だからちょうどいいのかと思っていましたわ」

「元々は王族に残るつもりだった」

「そうでしたの?」

「王族を抜けるのことを条件に出されてね。私が王族を抜けるのは、君を愛しているからなんだ」

マリーゼは涙を流した。

レオドールは涙を拭う。

「愛しているんだ。私のマリーゼ」

「私も、私もお慕いしております。レオドール様」

二人はどちらともなく、キスをした。

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