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放課後倫理学  作者: 紅茶
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デート後日談

1.ミサキの場合:平和な読書会

インフルエンザが完治した放課後。図書室にて。

ミサキは、お土産の「パンダカーのぬいぐるみ」を膝に乗せ、コロコロと笑っていた。

「あはは! すごいね、ケイちゃんとマコトくんがパンダカーに乗って真顔で哲学? 想像しただけでシュールすぎてお腹痛いよ~」

「笑うな。あれは不条理への対抗手段だったんだ」

ケイは少し不貞腐れながらも、ミサキが元気になったことに安堵していた。

ミサキはぬいぐるみの頭を撫でながら、優しく微笑んだ。

「でも、よかった。その日、私が急に行けなくなっちゃって、ケイちゃんが一人ぼっちで寂しい思いをしてたらどうしようって、熱にうなされながら心配してたの」

「……俺は一人でも大丈夫だ。孤独は思考の友だからな」

「ううん。ケイちゃんは寂しがり屋だもん」

ミサキはケイの手を握った。

「マコトくんがいてくれてよかったね。二人は本当に、素敵な『戦友』なんだね」

ミサキの目には、一点の曇りもない。嫉妬どころか、マコトへの感謝すら滲んでいる。

彼女にとって、ケイとマコトの絆は「尊い物語の設定」の一部であり、自分の恋路を邪魔するものではないと、本能的に理解しているのだ。

「……お前、心が広すぎないか?」

「そうかな? だって、ケイちゃんが一番好きなのは私だもん。……でしょ?」

ミサキが小首をかしげる。

その圧倒的な「正妻の余裕」に、ケイは完敗して顔を背けた。

「……当たり前だ。バーカ」

2.セナの場合:弾劾裁判

一方、同時刻の生徒会室。

空気は凍てついていた。

セナは完治していたが、その表情は病み上がりのそれよりも険しかった。

机の上には、マコトが献上したお土産――『日本刀の傘』と『天下布武の扇子』が置かれている。

「……説明なさい、マコト」

セナは扇子を手に取り、パチリと開いて口元を隠した。

その瞳だけが、鋭くマコトを射抜いている。

「私が高熱でうなされている間、貴方はケイと二人で花やしきに行き、あまつさえ『最高に楽しかった』ですって?」

「誤解を招く言い方ですね」

マコトは冷や汗を隠して微笑んだ。

「あくまで君が来られなくなった穴埋めです。チケットを無駄にするのは経済的損失ですから」

「嘘よ」

セナが立ち上がり、マコトに詰め寄る。

「ケイから聞いたわ。『マコトの奴、ローラーコースターでハイデガーを叫んでたぞ』って。……私とのデートの時より、随分とリラックスしていたみたいじゃない?」

セナの声が、悔しさで震えている。

「ズルいわよ。私にはいつも『エスコート役』の顔しか見せないくせに、ケイにはそんな『無防備な顔』を見せるなんて……。私がいないと、そんなに楽しいの?」

それは、怒りというより、純粋な嫉妬だった。

自分という「彼女」がいるのに、ケイという「旧友」にしか見せない表情があることへの焦燥感。

歴史マニアの彼女にとって、自分の知らない領土(マコトの一面)があることは許しがたいのだ。

「……セナ」

マコトはため息をつき、彼女の肩に手を置いた。

「君との時間は『外交』であり『統治』です。緊張感があるからこそ、美しい。……ケイとの時間は、ただの『泥遊び』ですよ。汚れてもいい服で遊んでいるだけです」

「……泥遊びの方が、楽しそうに見える時があるのよ」

セナは俯き、マコトの胸に額を押し付けた。

「……罰則ペナルティを与えるわ。覚悟なさい」

「どのような?」

セナは顔を上げ、潤んだ瞳で睨みつけた。

「次の日曜、ディズニーランドへ行くわよ。開園から閉園までフルコース。……花やしきの記憶なんて吹き飛ぶくらい、私色に塗り替えてやるんだから」

「……御意。女帝陛下の仰せのままに」

マコトは苦笑し、彼女を抱きしめた。

この嫉妬深さもまた、彼女なりの愛の強さ(帝国主義)なのだと受け入れて。

(了)


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