第38話:スタンドアローン
ヴェフタ大司教の電撃来訪。
ターボル市庁舎の最上階、地図と書類が積み上げられた作戦会議室に
この国のカトリックのトップが座っている光景は、
どうにも拭いきれない違和感があった。
窓の外では鍛冶の槌音が絶えず響いている。
「――直截に言おう、魔法殺しの主監よ。
君には、聖蹟ボヘミアンとローマの繋がりを断ち切ってもらいたくてね」
それが、ヴェフタの口から出た最初の言葉だった。
「繋がり、ですか?
聖蹟ボヘミアンの管理権限は、既に我々へ移譲されたはずでは?」
隣にいるプロクが、率直な疑問をぶつける。
「それは法的な話だな。私が言っているのは、もっと器としての……
いや霊的な繋がりの話だよ」ヴェフタは薄く笑った。
「回りくどいことをせず、サーバーを叩き壊してしまえば良いのでは?
そうすれば、ボヘミア全土の聖蹟は停止する。
それが最も確実で、我々の望む『魔法なき世界』への第一歩につながるはずです」
私の提案に、ヴェフタはゆっくりと首を横に振った。
その表情は、愚かな子供を諭す教師のように。
「聖蹟ボヘミアンは、聖遺物ではないのだよ。聖蹟だ。
ローマの『向こう側』と繋がっている聖蹟なのだよ。
祈りをこちらから送れば、向こうから応えが返ってくる。こちらで器を砕いても、
向こうから新たな器が用意され、次の朝には中身ごと元の形に戻っているだろう」
(――ああ、なるほど。クラウドからリカバリされる構造になっているのか)
ヴェフタの神秘に満ちた説明を、私は前世の概念で理解する。
リージョンサーバーを物理破壊したところで、
クラウド側とリアルタイムで同期している以上、
ハードウェアごと即座に再構築されてしまうのだろう。
ボヘミア地域を統括させているサーバーだけあって、
なんとも厄介な冗長性を持たせているな――
「なので、まずはローマとの繋がりを断ち切ってスタンドアローン化
――いや失礼、聖蹟ボヘミアンを『孤立化』させろ、ということですね?」
ヴェフタはようやく満足気に何度も頷く。
「そうだ、さすがは魔法殺しの主監だな。理解が早い。
聖蹟ボヘミアンが孤立すれば、ローマからの祈りは届かなくなる。
そうすれば君たちの望む、聖蹟ボヘミアンの破壊も可能となるだろう」
ヴェフタは私を真っ直ぐに見る。
「そして遮断の儀式を執り行えるのは、
聖蹟の理をよく知り、聖蹟を恐れぬ、君しかおるまい」
ヴェフタの瞳には、打算と純粋な好奇心のような光が宿っているように見えた。
私は少し考え、頷いた。
「――なるほど、状況は理解いたしました。
しかし、実物を見ないことには対策を立てようがありません。
猊下、まずは現地調査させていただけますか?」
ジシュカへ目線をやると、『行って来い』と軽く頷き返された。
「もちろんだとも。そのため、わざわざターボルへ足を運んだのだ。
行こうか、聖ヴィート大聖堂へ。神の寝所へ案内しよう」
プラハ軍はまだ解体されてはいないが、
猊下を連れ立って歩く以上、無体なこともされないはずだ。
もっとも徒に刺激しないよう、私とカテジナ、ギルド長、
あとは護衛だけの最少人数で、プラハへ行くことにする――




