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第37話:ペテン師たちの外交勝利

一四二一年、六月。

チャースラフでの熱狂的な会議が閉幕し、我々はターボルへと帰還した。


「見事だったぞ、ジリ、そしてプロコフ」

上座に座るジシュカ総督の労う声は、いつもよりいくぶん柔らかかった。


「血の一滴も流さず、あの傲慢なプラハ軍を黙らせるとはな。

剣を交えるだけが戦ではないと、この隻眼も学んだわ」


斜向かいのバルトシュも、腕組みしながらうんうんと頷く。


私の知る史実では、チャースラフ会議で一時的に結束するものの、

結局フス派は、穏健派プラハと急進派ターボル、そして諸派に分かれ

お互い血で血を洗う内戦へと突入するはずだった。


しかしこの世界では、ターボル側の圧倒的な政治勝利によって

対十字軍の野戦指揮は、ジシュカ総督の下へ統合されることになった。


「だが、まだ油断はできません」私は釘を刺す。


「今はまだ、プラハ市参事会と全面対決する時期ではなかったというだけのこと。

彼らが、相容れぬ敵であることに変わりはありません」


「分かっておる。奴らの自治権を敢えて認めたのは、

次の盤面を整えているのだろう?」ジシュカがニヤリと笑う。


私は頷き、次の段取りを示す。


「最初の一手は、プラハ軍の再編成という名の解体。

丸裸にした後は、我らターボル幹部に、委員会の名による安全通行と身の保証を。

プラハ市参事会が、我らを拘束も裁きもできぬようにして頂きましょうか」


その後はプロクが言葉を継ぐ。


「そして、ターボル軍が扱う『軍需物資』について

軍務に供する限り、入市税と関税の免除を要求します」


「軍需物資、か?」ジシュカが眉を上げる。


「ええ。我々はプラハを守るためにも戦うのです。

そのための食料、武具、資材に税をかけるなど、恥知らずにも程があります」


「フン、理屈だな。だが、もっともだ。命を張って守ってやるのに、

通行料まで取られてはたまらん」 ジシュカは納得したように頷く。


私はプロクを見て、口元を緩めるのを必死に堪える。


何をもって『軍需物資』と定義するか。

その決定権は、王国最高書記官であるプロクと、

兵器廠主監である私が握っているというのに。


麦も布も鉄も、全て『兵站』と言い張れば、

ターボルの商品は、実質無税でプラハ市場へとなだれ込むことになる。


そう、『免税特権』の出来上がりだ。


「じゃがの、そんなに上手く事が運ぶかの?

会議でもそうじゃったが、プラハの連中は総じて気位が高いぞ」


バルトシュは腕組みをしたまま懸念を口にする。


「ええ、ご安心を。ロジュンベルクの時は追い込み過ぎて、

予定よりも早く穴蔵から出てきてしまいましたからね。反省しています。

プラハは牙を一本ずつ爪を一枚ずつ、じっくり時間をかけて剥いでいきますよ」


(治外法権までは押し通せても、免税特権はさすがに砲艦外交となるだろうしな)


ジシュカは大笑いし、アニエは呆れたように首を振る。


「そして腹を満たして、最後に首輪をかけるのよね。

ホント意地が悪いのね、学者先生は」


(もっとも首輪をかけると言っても、思想まで同じ首輪にする気はない)


プラハを経済的に従属させるためには、

彼らに資本主義が残っていなければならないのだから。

ターボルの戦時共産主義は強力だが、平時の経済発展を阻害する。


とはいえ、ジシュカやバルトシュら古参や、ターボルの信徒たちは

過激な共産思想そのものは捨てていないものの、都市や軍の運営においては

私有財産やインセンティブを、暗黙のうちに容認する柔軟さがある。


さすがに、現在の社会構造を維持しようとする穏健派(ウトラキスト)

相容れることはないだろうが、ターボル派の思想自体も

現実的な路線へソフトランディングすることは可能ではないだろうか――


コン、コン。控えめだが、芯のあるノックの音が響いた。


「――入れ」

ジシュカが短く応じると、歩哨が緊張した面持ちで入室してきた。


「総督、ヴェフタ大司教猊下が……至急、ジリ主監にお話があるとのことです」

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