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第23話:神に背く者たち

密使から指定された、月夜のない晩――

ジシュカと私は、ポドリーにある水車小屋へと辿り着く。

周りに兵が伏せている気配はない。

それでも用心しつつ、私が先に水車小屋へ踏み入る。


豪奢な法衣に身を包んでいる、

痩せた老人がひとり佇んでいるのを確認してから、ジシュカを招き入れる。


「よく来てくれたな、神に背きし英雄たちよ」プラハ大司教ヴェフタ。

好々爺としているが、その目はどこか黒く濁り、油断ならない光を宿している。


「夜は短い。単刀直入に言おうか。私は君たちと手を組みたい」

「冗談はよせ」ジシュカが鼻で笑う。


「貴様はカトリックの重鎮だ。

我々を異端と罵り、火あぶりにするのが仕事だろう」


「それはローマの仕事だな。私はボヘミアの羊飼いだよ、将軍」

ヴェフタはウンザリとした表情で首を振りつつ、抑揚なく答える。


「たしかに私は、プラハ大司教として君たちを弾圧してきた。

だがね、本心ではやりたくなかったのだよ」


その言葉を聞いて、ジシュカの隻眼が燃え上がる。

傷だらけの拳がテーブルを叩いた。


「ふざけるな!

フス師の破門、両種陪餐の禁止、ウィクリフの焚書。

全て貴様が実行したことだろうが!」


ヴェフタはため息をついて、自分の手のひらを見る。


「その通り、ローマに命じられたからね。だが、言ってみればそれだけだ。

私にできる範囲で、随分と目溢してきたつもりだよ?

ロジュンベルクやジェレズニーのような血に飢えた獣どもとは違ってね。

私は異端の虐殺に手を染めたことなど一度たりともない」


ヴェフタは、その濁った目を私に向ける。


「それにね、兵器廠長。君たちはヴィシェフラドを陥落させたが、

まだ『聖座』には指一本触れられていないだろう?」


聖座――その言葉に、私は息を呑む。


「聖ヴィート大聖堂。

あの地下にある『中枢』を掌握せねば、この国の奇跡は止まらぬよ」


「中枢、だと?」

予想外の言葉に思わず口を挟むと、ヴェフタはニヤリと笑い、

私の方へと歩み寄ってきた。


「兵器廠長、君は気づいているな?

『聖蹟』とは信仰心の発露などではない。

なぜ私たちカトリックのみが聖蹟を使えるのか?

なぜ平民は聖遺物を手に入れても聖蹟が使えないのか?

なぜ破門された異端者は全てから拒絶されるのか?」


ヴェフタは一呼吸おいて続ける。


「その全ては、極めて高次元で論理的な『システマ』と呼ばれているものによって

管理されているのだよ」


ヴェフタは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、私たちの目の前に広げた。

そこには、ボヘミア全土の霊脈と、

各都市にある主要な教会が線で結ばれた図が描かれていた。

その全ての線が一点――プラハ城内の聖ヴィート大聖堂へと繋がっている。


「聖蹟ボヘミアン。

それが大聖堂の地下に眠る、この国すべての奇跡を司る聖母マリアだ」


(やはりクライアント・サーバー方式か――)


おそらく子機クライアントが各種聖遺物、親機サーバーが聖蹟ボヘミアン、

それを繋いでいるネットワークが霊脈。

原理は不明だが、それらを用いて魔法を行使しているということなのだろう。


ヴィートコフで見た光の帰還現象。ヴィシェフラドで見たエネルギーの還流。

あれらはデプロイされたオブジェクトの破棄に過ぎなかったわけだ。


ローマとのネットワーク構造はまだ不明だが、

どちらにせよ聖ヴィート大聖堂という名の

現地のデータセンターへ乗り込む必要があるのは間違いない。


(まさか中世にやって来てまで、iDCへ直行して

メンテナンス作業やらされる羽目になるとはな――)


「猊下は、なぜ我々にこのことを?」

自分には利用価値がある、そう言いたいのだろうか? 私は率直に問う。


「――君たちへの詫びだよ。フス前プラハ大学長の処刑、

あれだけは避けたかったのだがな。私の力では教皇と皇帝に抗いきれなかった。

今でも悔やんでいる」沈痛な面持ちでヴェフタは嘆く。


「フン、今更だがな。で、用件はそれだけか?」

ジシュカは、大司教の後悔など大して興味もなさそうに、先を促す。


「君たちは、これから南ボヘミア平定に動くのだろう?それを急いで欲しくてな」

ジシュカも私も怪訝な顔をする。どういうことだ?


「十字軍がいなくなっても、南からロジュンベルク家に監視されている限り、

私は表立って動けない。だが、あの皇帝の忠実なる下僕がいなくなれば、

私は『プラハ四箇条』を承認するつもりだ」


「正気か?」

驚きのあまり、ジシュカの隻眼が大きく見開く。

ヴェフタはまたウンザリとした表情で答える。


「将軍、まだ私を疑っているのかね? まあいい。

四箇条の承認は、明白なローマへの反逆行為だ。私も後戻りできなくなる。

そこまで踏み込んだのなら、君たちも私を信じられるだろう?

ターボルで保護してもらいたい」


ジシュカはまだ信じられない素振りで、ヴェフタを見ている。

ヴェフタはそれを無視して続ける。


「四箇条を承認した後なら、君たちとプラハ軍が和解できる可能性が広がる。

私がターボル軍に加われば、聖ヴィート大聖堂の無血開城も可能だ。

この国の奇跡を止めることにも協力しよう。

そうすれば、勝勢は一気にターボル軍へと傾くはずだ」


「猊下、失礼を承知でお聞きしますが、なぜそこまで我々に協力を?」

史実とほぼ同じ流れではあるが、さすがに大盤振る舞いすぎないか?

そんな思いで尋ねる。


「――君たちへの弾圧なんて、本心ではやりたくなかったと言ったろう?

それが私の真意を読み解く鍵だな。かつて、フスが夢見た平等なボヘミア。

それこそが主イエスの御心、それこそがあるべき普遍教会の真髄だろうよ。

私は最初からそれが見たかったのだ。今までは教皇と皇帝に抗えず、

諦めかけていた。だが君たちはスドミェルジュ、ヴィートコフ、

そしてヴィシェフラドと、立て続けに十字軍を破ってみせた。

ボヘミアが抗う力を見せてくれたのだ。それが私に勇気と希望を与えた。

あともう一押しで、君たちの革命に全面協力できるようになる。

それでは答えにならないかね?」憂いた表情で、松明の灯りを見つめている。


聖蹟サクラメント。あんなものは不平等の象徴だよ」


ヴェフタは澄んだ目でそう呟いた。

Tips: 史実でフスを破門にしたのは、2代前のズビニェク大司教です。

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