第15話:性能試験
ジシュカが冷たく言い放つ号令、その刹那――
タァァァァァァァンッ!!
それは、中世の戦場では、決して聞くことのできない未知の銃声だった。
黒色火薬特有の湿った爆発音ではない。硬く鍛え上げられた金属が、
限界ギリギリの圧力に共鳴して悲鳴を上げるような、甲高く鋭利な破壊音。
アニエ率いるピスタラ隊の一斉射撃。
その筒先から吐き出されたのは、従来の鉛玉ではない。
カテジナが調整し、アーセナルが規格を統一して鋳造した真円に近い鋼鉄の弾丸。
初速は、音速を遥かに超える。継ぎ目のない鋼鉄のバレルは、
内部で膨張するガス圧力を逃がすことなく、全て推進力へ変換できている。
「――は?」
オルドジヒ助祭の思考は、そこで断絶した。
彼の意識では、まだ異端者どもは発砲していない。
目に見える火花も、白煙も、まだ網膜には届いていない。
だが、彼の身体には無数の穴が開いている。
ドシュッ!ドパッ!グチャリ
肉が弾け、骨が砕ける不快な音が、自身の体内で響く。
豪奢な祭服に穴が空き、内側から噴き出す赤黒い血で汚される。
衝撃で身体が浮き上がり、背後へと弾き飛ばされる。
その最中、助祭の視界の隅で、遅れてそれが輝く。
ピィィィン――
遅れて発動する黄金色の光の壁――聖蹟サンクチュアリ。
矢弾のみならず、近接攻撃さえも防ぐ絶対防御が、
彼の血飛沫が舞った後の空間に、虚しく展開されたのだ。
まるで、主人の死を悼む墓標のように。
あるいは、通り過ぎた雨の後に、慌てて窓を閉める道化のように。
「あ……が……?」
助祭は血と泥の中に仰向けに倒れる。痛みはない。
あまりの衝撃に、神経が焼き切れている。ただ、理解が追いつかない。
なぜだ。なぜ、サンクチュアリは、神は、私を守らない?
アイギスよりも優れているはずだ。魔力密度も高いはずだ。
貧民の粗末な筒ごとき、数千発浴びようとも傷ひとつ付くはずもないのに。
(なぜ…光る…壁…よりも…先に…弾が……?)
オルドジヒ助祭の瞳から光が消える。彼に従っていた十名の武装神官たちも、
また誰一人として何も理解できぬまま、蜂の巣となって血と泥に沈んだ。
後には漂う硝煙と、季節外れの鉄の匂いだけが残された。静寂が戻る。
ターボル軍の兵士たちから、歓声は一切あがらなかった。
これは戦闘ではない。処刑ですらない。作業だ。
害虫の駆除。汚物の除去。病原の消毒。そのようなものだ。
「――見事だ」ジシュカは満足気に低く呟く。
それは、馬鹿を始末したことに対してではない。
ピスタラ隊の筒は赤く熱を持ってはいるものの、
ひび割れ一つなく、鈍い黒光りを放っている。更新前のピスタラならば、
これほどの速射には耐えられず、いくつかは暴発していただろう。
そう、ジシュカはこの茶番の途中から、
兵器廠長に作らせた新型ピスタラの性能試験としてしか見ていなかった。
ちょうど良い、人肉の的が出てきたな。その程度の認識だった。
(フッ、合格だ。ジリよ)
その時、呼ばれたかのように、川霧の中から巨大な影が姿を現す。
大量の丸太で組んだ特大の筏。
その上に鎮座するのは、常識外れの大きさを持つ黒鉄の塊。
ヴィシェフラド城に鎮座する、巨人を殺すためのハンマーがようやく届いた。
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