第40話 独りである事の自由
鑑定をかけるとステータス、名称が見える。
パラエオフィス。 レベルは66。 ステータスはかなり高い。
スキルに関しては水中適応、毒精製、ステータス強化(水中)等。
強化系に関しては水に浸かっている限り、ステータスに補正がかかる仕様のようだ。
蓑鋤の目の前にいる個体に関しては全ステータスに30%の補正が入る事もあって条件が限られているだけに非常に強力だった。
――毒は喰らえないな。
そんな事を考えながら突っ込んで来たパラエオフィスの頭部を正面から受け止める。
踏ん張ってどうにか耐えて突進を押さえ、創糸で出した糸で頭部を拘束。
現状、危険なのは毒なので牙を使えないように事が重要だ。
物理攻撃に関しては防御力の高さもあって問題はない。
魔法攻撃に関しては注意が必要ではあるが、パラエオフィスのスキル構成的に問題はなさそうだ。
物理に偏重している相手は相性がいい。 問題は欲しいスキルを持っていない点にある。
蓑鋤は一周目は情報収集に徹していた事もあってダンジョンのモンスターの知識はそこそこあったが、踏破したという話を聞いた事がない。
二周目は早々に暴走した事もあってぼんやりとしており、情報は余り仕入れられなかった。
ストリーマーの存在のお陰で基本的な情報の共有は進むが、誰しも重要な情報は秘匿しているプレイヤーが多い事もあって特殊なスキルやジョブの情報は中々手に入らない。
その為、欲しいスキルはこうして地道に探すしかなかった。
巻きつけた糸でそのまま首を落としてやりたかったが、ステータスが足りないようだ。
蓑鋤は諦めて飛び乗ると頭部に何度も拳を叩きこむ。 鑑定で確認すると効いている事が分かる。
そのまま何度も何度も拳を振り上げては下ろす。 パラエオフィスも黙ってやられるつもりはなく、首を振り回して振り落とそうとしていたが、蓑鋤は糸を使って体を固定。
これはいいなと呟いてただひたすらに拳を振り下ろす。
それが致命的だったのか叩きつけられた拳が頭部に深々とめり込み、目玉が飛び出した。
経験値が入った事とスキルの奪取が可能になった事で死亡を確認。
レベルが上昇、持っていたスキルも全て奪い取った。
ステータス強化(水中)に関しては水中――身体の一部が水中に沈んでいるとステータスに30%のプラス補正。
毒精製はMPを使用して毒を生み出す事ができるが、武器か何かに付与しないと使い物にならない。
パラエオフィスは牙に付与する事で使用していたが、蓑鋤が使う場合は剣などを用いずに拳などに付与してしまうと毒の状態異常にかかってしまう事もあって武器は必須だ。
ドロップにもそこまで良い物もなかった事もあってあまり美味しくない相手だった。
経験値は多かったが、今の蓑鋤にとってレベルアップはそこまで重要ではない。
彼のジョブの効果により、モンスター等の撃破でステータスが伸びる以上、強化を狙いたいのなら数を稼ぐ事が重要となる。
現在地は15から20層辺りだろうか?
記憶によればウミヘビ系のモンスターが出るのはその辺りだったはずだ。
そのまま出口を探すのも良いが、十層以上を登るのは中々に面倒だった。
ならここは逆に下へ向かえばいい。 ドロップ、または宝箱から手に入るアイテムで帰還石という物がある。 それを使えばダンジョンの入口付近まで戻れると言った代物だ。
時間をかけて上るよりはモンスターを殺して帰還アイテムを探した方が早い。
――一人で戦うと不思議と気持ちが楽になる。
気持ちが凪ぐ訳ではない。 考える事は多いからだ。
彼女の事。 守ってやりたいとは思うが依存させるのは本意ではない。
恐らくは過剰に守ろうとするのは成長を阻害させる事に繋がりかねない。
レベル的な意味ではない。 精神的な成長をだ。
大切なのは距離感。 適度に距離を取り、彼女が自分の意思で戦えるように見守るのが良いのだが、そこまでしなくても問題なのかもしれないと思っていた。
今回はまだ数日だが、回帰した事による経験値はしっかりと彼女に根付いておりこの世界で強かに生きていけるだろう。
パラエオフィスが現れた。 今度は二体だ。
基本的にこのフロア内を血管のように走っている川に生息しているのだろう。
何処からでも湧いて来る。 一人での戦い方は簡単だ。
基本的に下がりながら迎え撃つようにすればいい。 そうすれば罠にかかる可能性は低くなる。
前に来る相手は運が良ければ罠に引っかかる可能性もあるので前方に置くのは戦い方としては悪くない。
開いた口を糸で縛って開閉を封じて殴る。 物理攻撃に関しては無理に躱さずに受けつつ反撃。
気を付けるべきは状態異常。 毒は勿論、麻痺などの行動を阻害するタイプには要注意だ。
パラエオフィスの脳天に拳を落としながら蓑鋤は思考を続ける。
ステータスを見る。
能力の可視化といえば見方によっては便利ではあるが、蓑鋤から見れば気持ちが悪い数字だった。
特に異形度という正気を失う目安がはっきりしているのだから当然だろう。
増えれば増えるほどに落ち着かない気持ちにはなるが、逆に考えればその数字が維持されている間は正気は保証されるとも取れるが見ていて気持ちの良いものではない。
一周目の時は才能の可視化と数値の増加で自らと相手の力量差を認識できる最高のシステムだと思っていたのだが、こうして二回ほど死んでみてから考えると悍ましいとすら感じる。
どいつもこいつもこの数字とゲームのようなシステムに踊らされて互いに殺し合い自己利益を追求するのだ。 倫理観が麻痺するのも仕方がない。
殴り続けていると相手のHPがゼロになり拳が脳天に沈む。
二匹目の尾による横薙ぎの一撃を喰らって吹き飛び、壁に叩きつけられるが構わずに立ち上がる。
噛みつきに来た所を糸で頭部を縛って封じる。
同じように飛び乗ろうとしたがドロップで面白い物が手に入った。
毒牙の短剣。 武器が丸ごとドロップするのは珍しい。 鑑定するとそこそこの代物だった。
しっかり刺さるのは勿論、元々備わっている毒攻撃に加えて毒精製のスキルを用いれば一撃で複数種類の毒を付与できるのも良い。
鑑定で敵の様子を見ればスタックした毒の効果で一気にHPが減っているのが分かる。
少ない手数で仕留められる事で狩りの効率も上がりる事もあって、今の蓑鋤には扱い易い代物だった。




