第4話 初めてのエンカウント
「なるべく音を立てて居場所をアピールする感じでお願い」
「分かった」
蓑鋤は歩きながら金属バットで地面を擦りながら歩く。
静かな街にカラカラと金属がアスファルトとこすれる音が響く。
しばらくそうしているとペタペタと無数の足音が近寄って来るのが聞こえた。
「来たか。 下がってろ」
蓑鋤は金属バットを肩に担ぎ、足音の方へと視線を向ける。
道の角からひょっこりと顔を出したのは緑の肌に130センチぐらいの低身長の人型の異形。
やや肥大化した頭部とポッコリと出た腹、やや太い腕。 服装は腰布のみという原始人スタイル。
手には街路樹の枝や、その辺の工務店からパクって来たのかハンマーを持っている。
ゴブリンだ。 前回ではそこそこの数、殴り殺した顔なじみよ。
――蓑鋤がだけど! ちなみに私は見てただけです。 ごめん、大きい生き物を殴り殺すの無理!
いや、分かってはいるんだけど、ちょっと1メートル以上の大きな生き物殺すのはちょっと……。
ファンタジーの定番って奴には疎い私としてはアレがゴブリンのスタンダードかはちょっと疑問だけど、アレであってるのかなぁ?
蓑鋤はふぅとやや大きめの呼吸をしたと同時に僅かに身を低くする。
ゴブリンの数は五体。 ちょっと多いか。
どうしよう、足はあんまり速くないから走って適当にバラけさせた後に一体ずつ仕留める?
「蓑――」
私が声をかける前に蓑鋤は既に走り出していた。 鍛えているだけあって速い。
瞬く間に10メートルはあった距離をゼロにして先頭の一体の脳天にバットを振り下ろす。
鈍い音が響いた。 わぉ、普段から冷静なタイプだけど、覚悟決まり過ぎじゃない?
ゴブリンは脳天に受けた衝撃によって頭から地面に突っ込んでピクリとも動かない。
うーん。 良いのが入ったからあれは即死ね。
街路樹の枝を持った奴が殴りかかろうとしていたけど、身長が違いすぎる。
170後半はある蓑鋤とはリーチの差が顕著だ。 つまり蓑鋤の方が遠くから攻撃できるって訳よ。
両手でバットをしっかりと握るとフルスイング。 街路樹の枝を圧し折ってそのままゴブリンの顔面を捉える。 カキーン。 ちょっといい音したなぁ。
――ってか蓑鋤ちょっと容赦なさすぎない??
前回もそうだったから驚かないけど欠片の躊躇なくゴブリンをぶち殺してるけど、倫理観大丈夫?
私はそんな蓑鋤でも受け入れるしバッチこいだし、この殺伐とした世界で生き残る分には頼もしいけど色々大丈夫かと心配になってしまうわー。
そんな事を考えている間に蓑鋤はあれよあれよとゴブリンを片付けてしまった。
「終わったぞ」
「変化はあった?」
「あぁ、レベルが上がった。 後、スキル奪取の選択肢があったが、これは無視でいいんだな?」
「うん。 さっきも言ったけど、蓑鋤のレベルがある程度上がるまでは気軽に盗らない方がいい」
どーせ1レベで倒せるようなゴブリンは大したスキルは持ってない。
微妙な奴ばっかりだからそういった意味でもリスクを負ってでも欲しい物じゃないのよね。
――どうしても強力なスキルが欲しいなら人間を狙わないといけない。
流石に初日からそこまでかっとばしたくはないし、実行するのは蓑鋤だ。
本人の覚悟もなしにそんな真似はさせられない。
ちなみに死んだゴブリンの死体はそのままだけど、しばらくしたら消えるので放置でオッケー。
ゲーム的に剥ぎ取りとかできるんじゃない?とか思うじゃん?
その辺は大丈夫。 何故なら殺したらドロップとして蓑鋤の方に行ってるはずだから!
いちいち、耳を千切ったり腹を掻っ捌いてモツを漁ったりとかは要らないのよ! 便利!
この世界に於いてモンスターは何処からともなく湧いて来る謎生物で、今はいいけどあんまり舐めても居られない。 何故ならこいつ等は無限に湧くけど、湧いた後はプレイヤーと同じ扱いになるのよ。
要はレベルを上げて進化してゴブリンなんとかになってパワーアップするって訳。
当然ながらジョブにも就くしスキルも覚えるから、弱い内に間引くのは治安的な意味でも悪い事じゃないの。 ただ、前回ではそれを利用してファーミング――要は捕まえたモンスターを隔離して殺し合わせ、レベル上げをさせた所で美味しくいただくなんて真似をする連中もいたわ。
最終的にはモンスター闘技場とか言って賭博場まで作ってた。
実際に見た事ないから詳しくは知らんけど。
何よりもヤバいのはこの状況になってから三か月も経たない内にこの状況に順応して商売まで始めちゃうヤベー奴がいっぱい現れる事ね。
やー、未来知識あっても真似とか無理っすわー。
私は蓑鋤と慎ましやかに生きて行くだけで精一杯なのよ。
有能なブレーンとして蓑鋤を支えつつ、頑張ってこの世紀末を生きて行くわ!
「――で? レベルアップに関しては実感できた。 これからどうする?」
「今は3ぐらいよね?」
「あぁ、3だな」
「ゴブリンじゃ頑張っても簡単に上がるのは5ぐらいまでだから移動しながら出くわしたのを片付けてく感じでいこう」
「何処へ行くんだ?」
「家に帰るのよ。 ウチは両親ともにアメリカだからいいけど、蓑鋤はお母さんが家にいるでしょ。 不安だろうから行って安心させてあげなきゃ」
両親は仕事の都合で日本とアメリカを行ったり来たりしている関係で向こうにも家があるのだ。
今の時期は向こうに行っているのでどうにもならない。
蓑鋤のお父さんも似た理由で北海道なので同様だ。 それに――
スマートフォンを取り出してホーム画面を呼び出すと圏外の文字が表示される。
既存の連絡手段は使えない。
スマートフォンは無用の長物ではあるけど、実は特定のジョブに就くかスキルを取得すると使えるようになるらしい。 そんな理由で一応は持ってた方がいいのよ。
電車も今は使えない。 どうもこの世界がゲームのルールに支配されており、交通機関だけでなく車などの移動手段もスキルかジョブがないと動かせなくなっている。
一応、自転車は問題ないみたい。 どうやら動力を備えた乗り物は駄目らしいわ。
電動自転車はギリオッケーだったみたいだけど。 そんな理由でさっさと歩かないといけないのよ。
流石に1レベで何駅も歩くのは怖いからこうして時間を取って蓑鋤に覚悟を決めて貰う流れなんだけど、ぶっちゃけ要らなかったかもしれない。




