第38話 トラブルが起こった際の取捨選択
「少しだけ下に行きませんか?」
そうして三上は決定的な事を口にした。 周りもやれる、行こうと言った雰囲気を醸し出している。
あーあ、こうなるのが嫌だったから予防線を張ってたんだけど駄目だったかぁ。
本音としてはもうちょっと後に下への通路が見つかってくれれば疲労やストレージのキャパを理由に引き上げようって言えたんだけど、困った事にまだまだ余裕があるのよね。
人数が多いからドロップも宝箱のアイテムもいっぱい持てるのよ。
蓑鋤がいてくれたら少々の無茶もできなくはないけど、何処まで飛ばされたのやら。
何とか助けに行きたい行きたいと脳裏でそんな欲求がムクムク膨れ上がっている事もあって実を言うと下層に向かう事にはそこまで後ろ向きではなかった。
このフロアは全てではないけど半分以上は見ているはずだ。
――にも関わらず蓑鋤と合流できていないという事は間違いなく下層に飛ばされた。
もしかしたら近くまで来ているかもしれない。 降りて迎えに行けば合流できるかもしれない。
中々にあまーい提案だけど、私はなるべく現実的な判断で物事を決めたかった。
そうすれば失敗しても後悔は少なく――場合によっては次に活かせる。
死んでも次があるって考えはあんまり良い物じゃないわ。 少なくともこの世界に於いては蓑鋤も蓑鋤のおばさんにとっての一回限りの現実だ。 私はあの二人と一緒に生きていきたいのよ。
だから、ここは止めておきましょうと踵を返す所。
こいつ等にどれだけ何を言われても知らないで通す。
……それが正解なんだけどねぇ。
これは蓑鋤が請けた仕事だ。 引き継いでいる以上は最低限はしておくべきとも思っていた。
死ぬほど気乗りしないけどやりますか。
「分かりました。 では、一度だけ戦闘を行って引き上げます。 それでも良ければ私も行きましょう。 ただ、しつこいようですが今の私達のレベルではまだ早い相手です。 何が起こっても責任は持ちません。 それだけは主張させて貰うんで、誰か死んでも私の所為にしないでくださいね?」
「わ、分かりました。 皆さんもいいですね」
口々に大丈夫だの行けるだの言っているしいいんじゃない? 知らんけど。
まぁ、何人か死ぬか死にかけるかして下のヤバさを理解しなきゃこいつ等は止まらんでしょ。
次々に下の通路へと足を踏み入れていく。 私もそれに続くべく歩き出した。
――一層は蟻の巣と形容したけど、二層は中々に毛色が違う。
石造りの迷路といった印象が強い場所だ。
当然ながら通路は滅茶苦茶広いから大型のモンスターは普通に動き回ってるわ。
ここはモンスターが部屋で待機しているなんてぬるい事はないから、何処を歩いていても普通に襲って来るわ。 注意するのは罠と遭遇戦。 特に曲がり角は事故率が高いスポットね。
警戒せずに分岐に入ると目の前でモンスターと鉢合わせなんてザラだ。
特にここはこの環境に特化したヤバいのが居る。
ただ、エンカウント率は割と低めだから出くわさない事を祈るしかないわ。
「それは一体、どんなモンスター何ですか?」
質問してきた三上に私は肩を竦めて見せる。
「シャドウスパイダーっていうモンスターで真っ黒で大きな蜘蛛よ。 天井とか壁に張り付いて獲物を待ち伏せする習性があるから待ち伏せを見極められたら逃げるぐらいはできると思うけど、捕捉されたら誰か一人は死ぬと思うから気を付けてね」
勝つのは厳しいから一人が喰われている間に逃げるしかないのよね。
幸いな事に群れるタイプじゃないから一人喰わせればそいつを完食するまでは大丈夫。
その後は知らんけどね。 このフロアからは完全なエンカウント制だ。
出くわすにしてもこちらから発見して先制しなければ厳しいでしょうね。
後は罠に引っかかる事のリスクが上よりも遥かに高い。 ここはあちこちでモンスターが徘徊しているのだ。 そんな環境で罠に引っかかる=大きな音を出すという事が何を意味するのかは馬鹿でも分かる。
「あ、ヤベ――」
そんな事を考えているのが良くなかったのか先頭の前衛が一人罠をガッツリと踏んだ。
空撃ちさせる分には良いんだけど問題は引っかかった事ね。 最悪な事に爆発するタイプだ。
ボンと景気よく爆発したわ。 私は咄嗟に手で顔を庇って衝撃やらをやり過ごす。
ステータスのお陰で吹っ飛ぶ事はなかったけど、踏んずけた馬鹿は足が綺麗に吹っ飛んでいた。
だから口を酸っぱくして罠には気を付けろって言ったのに!
行動不能が一人で済んだのは不幸中の幸いかな? ケガ人に構うより、やる事がある。
「来るから警戒! 急いで!」
シャドウスパイダー以外ならギリギリ犠牲は出ないと思うけどそうだった場合は動けない奴は諦めよう。 カシャカシャと小刻みに動く足音、それが複数。
感じと早さから蜘蛛ではない。 蟻か何かかな?
闇の奥から飛び出してきたのはジャイアントアント。 ビッグアントの上位種でサイズはビッグアントが3~5mに対し、ジャイアントアントアントは5~10mとほぼ倍だ。
当然ながらステータスに関してもベースの時点で格が違う。
「対処は同じだけど大きさとステータスが違うから倍の人数で止めて!」
指示に従ったのは動けない一人を除いた9人中3人。
ビッグアントなら押さえられるけど倍近い大きさのこいつは無理ね。
激突。 ガードに入った3人がボウリングのピンみたいに吹っ飛ぶ。
わぉ、ステータスなかったら即死ね。 残りは棒立ちか罠を踏んだ間抜けを助けに行ったわ。
私は指示に従った奴に回復スキルを使いながら状況を確認。 後衛に関しても前衛が崩壊した事による動揺で固まってる。 安全が担保された状態なら抵抗なく魔法をぶっ放せるけど、目の前に来て明確に敵意を向けられると委縮してまともに動けなると。
だから止めとけって言ったのにー。 こればっかりは経験しないと無理か。
変に調子がいいとこういうのって自覚し辛いからね。 ともあれ、このパーティーはもう駄目か。
「ど、どうすれば、どうすればいいですか!?」
ここに来て三上が慌てだすのはちょっと笑っちゃうじゃない。
引っ張られて前川もあわあわ言い出した。
「うん。 無理だから逃げましょう」
「ですが、あの蟻は追って来るのでは?」
なんだそんな事か。
動けない間抜けが餌になって食い止めてくれるし十数秒は大丈夫よ。




