第30話 断る時は重い条件を付ける方がいい
三上は言葉を探すように何かを考えているがそうですかと諦める気はさらさらないようだ。
「仰りたい事は分かります。 我々も命を懸けるに値する見返りはご用意できればと思いますが死んでは元も子もない。 分かってはいるのです。 ですが、この現状を見てください。 モンスターが街を跋扈し、無法者達が幅を利かせる世界。 こんな有様が正しい在り方でしょうか? この状況を生み出した者達が何を考えているのかは分かりませんが、ダンジョンを攻略する事で何らかの突破口が開けるのは間違いありません!」
だから何だよ。 顔も知らねー奴の為に命かけろって?
そりゃ、お前らからすれば賭けのテーブルに乗せるのは自分の命じゃないから気軽に言えるよね。
ぶっちゃけるとこいつの話には一考する価値すらないわ。
私は死にたくないし、蓑鋤にも死んでほしくない。
仮に万博記念公園のダンジョンを処理しても世界にはまだまだ腐るほど似たような代物が転がっているのだ。 一つ攻略した所で大勢に影響はない。 誰かがやってくれるなんて思っていないのよ。
何故かって? 私はこの世界から抜け出す事を諦めているから。
なら、この変わった世界に適応できるように生きて行こうって考えるのはそこまでおかしい事かな?
「波食さん! あなたには力がある。 その力を我々に貸して欲しいのです。 彼女の考えは分かりましたが、あなた自身はどう思っているのかをお聞かせください」
この野郎。 私じゃ話にならないからって蓑鋤を直接頷かせようって事かよ。
蓑鋤は黙って水を飲んでいたけど話を振られて小さく息を吐くとコップをテーブルに置いた。
「必死なのは分かるが、そのやり方は違うんじゃないか? ――さっきから俺に使ってるスキルを解け。 鬱陶しい」
蓑鋤の返しに三上は目を見開いた。 明らかに動揺している。
おいおい、洗脳――じゃないわね。 低レベルじゃそんな強力なスキルは使えない。
精々、その気にさせる事ぐらいか。 全然気づかなかったわ。
やっぱり、鑑定を取っておけばよかったかしら? 今更ながらに少し後悔してしまう。
「それとそっちの女。 俺にスキルを使うつもりなら止めておけ、仮に成功しても解けた瞬間に殺すし、レジストに成功したらその瞬間に殺す。 それでもいいなら試してみろ」
蓑鋤が睨むと女――前川はひっと小さく悲鳴を上げた。
ここまで強く言うって事はあ、分かった。 こいつ魅了系のスキルをもってやがるな。
だから私と話している間は黙ってたのか。 確か低レベルだと異性にしか効かないとか縛りがあったはず。 道理で断っても余裕なわけだ。
最終的にはスキル使って言う事を聞かせるつもりだったんじゃない。
なーにが世界を元に戻すよ。
都合が悪くなればスキルを悪用ってそこらのチンピラと大差ないじゃないの。
「も、申し訳ありません。 スキルは今、解除しました。 ですが、誓って我々は――」
「その前に私達に何をしたのかを教えて貰っても良いですか?」
「いえ、それは――」
「蓑鋤、帰ろっか?」
立ち上がって見せると観念したのか三上は分かりましたと俯いた。
思考誘導。 これが三上の配布された固有スキルだ。
MP消費ゼロのアクティブで相手の思考をある程度、誘導する事が可能ではあるのだけど対象とのステータス差で効果が変動する事と誘導する余地がなければ効果がないという欠点がある。
つまり最初から頷く気がなかった私には効果がなかったって訳ね。
そして前川のスキルは魅了(異性)。 こちらはMP消費ありのアクティブスキル。
異性に魅了の状態異常を付与するといった物で、レベル差で成功率が変わるが成功すれば効果終了まで対象を操る事ができる。
「操るって言っても言う事を聞いてくれ易くなるだけで、無茶なお願いは聞いてくれません」
本当かよ。 まぁ、何もなかったから今はいいか。
取り敢えず、色々と確認はしておこっか。
「レベルは?」
「私は5で、三上は3です」
「ジョブ」
「二人とも『交渉人』です」
ふーん。 所謂、ネゴシエーターって奴ね。
本当かどうかは怪しいけど、このレベルだとこいつ等は絶対にダンジョンに潜らないわね。
スキル的にもスカウトマンって所かしら。 調子の良い事言って面倒になったらスキルで洗脳とか思った以上にしょうもない連中ね。
「で? 私達――っていうか蓑鋤を適当に言いくるめてダンジョンで金目の物を拾って来いって話するつもりなんでしょ。 そう言えば見返りの話は聞いてなかったけど、報酬ってどれぐらいを設定してたの?」
「現状、何が手に入るか分からない以上、持ち帰られた物を鑑定士に査定させて適正価格で買い取らせて頂くといった形になります」
そこから経費とか言ってピンハネするって訳ね。
正直、話にならないわ。
私は水をゴクゴクと飲み干すとやや強めにコップをテーブルに叩きつけ、怒ってますアピール。
「悪いんですけどあなた達は信用できない上、洗脳までしてくる相手は無理です。 ほら、蓑鋤もなんとか言って!」
「俺の出す条件を全て呑めば行ってやってもいい」
ほら、蓑鋤も嫌だって――はい??
「蓑鋤さん?」
ちょっと!? 折角、話が纏まりそうだったのに何で混ぜっ返してるのよ!?
まさかとは思うけど魅了を喰らった?
私が前川を睨みつけると視線の意味を察して違う違うと首を横にブンブンと振る。
三上も驚いているのか目を見開いていた。
「一つ。 ダンジョンで得た取得物に関しては権利はこちらで貰う。 欲しい場合はこちらの言い値で買って貰う。 二つ。 パーティーの指揮権は俺が貰う。 メンバーは全員、俺の指示に従え。 三つ。 今出した条件のどれかを破った場合、俺は好きにさせて貰う。 つまり、場合によってはお前らを八つ裂きにする。 最後にお前ら二人も参加しろ」
最後のを聞いて納得した。 あぁ、この条件ならこいつ等は頷かないわね。
無茶な条件を出して断らせればもう来なくなるって事か。 流石は蓑鋤! 賢い!
ここで半端に断るとまた来そうだから逆に条件を出す事で相手の行動を制限したって事ね!
再度、交渉に入りたいなら自分達がダンジョンへ向かうって言うリスクが伸し掛かる。
どうせ命かけるとか無理だろ? ほれほれ諦めろ~。
三上は額から汗を滲ませながら何かを考えているようだったけど――




