第19話 近所でレベリング
グシャリと嫌な音がしてゴブリンの頭が弾けとんだ。 まるでトマトか何かの様だったわ。
蓑鋤は来る途中でぶっ殺したゴブリンからドロップした棍棒で次々とモンスターを殴り殺している。
聞けばもうレベルが20を越えているらしいわ。 早くね?
ただそれを聞けば納得の強さではあったわ。 20もあれば低レベルのゴブリン程度なら一発ね。
ただ、経験値の効率的にはあんまり美味しくないのよねぇ。
――あ、またレベルが上がった。
スキルで蓑鋤の疲労を抜いていたら私もガンガンレベルが上がる。
前回、あんなにレベル上げに苦労したのは何だったのよと言いたくなるほどに早い。
もう15だ。 いくら何でも早すぎるわ。 何かしら?
ステータスを確認しても原因と思われる項目はない。
まぁ、良いんだけどこの調子なら私も20越えるのも時間の問題か。
20を超えるならジョブチェンジで「鑑定士」に切り替えるのもアリかも。
――ってか、前回の蓑鋤のレベルが20だった事を考えるとこの上がり幅は異常だわ。
考えても仕方ないし今はいいか。
現在地は公園南側にある野球場の真ん中。
そこでぼーっと立ってるとゴブリンが勝手に寄って来るわ。 そこを返り討ちよ。
開けた場所の方がいいっていうのは蓑鋤の提案でここだと奇襲を受ける心配はないからだって。
後、私を守るのにも都合がいいって! トゥンク! 何かムラムラして来た。
ここがレベリングに適しているのは開けていて奇襲を受け辛い事と、出て来るモンスターがそこまで強力じゃない点ね。
ホブゴブリンに手こずるようなら止めといた方がいいけど、簡単に返り討ちできる蓑鋤なら何の問題もないわ。
ぐるりと見回すとあちこちにゴブリンやらホブゴブリンの死体だらけ。
ほっとくと消えるから放置でいいけど、うーん中々に酷い光景ね。
「――ところで、ここで良いのか?」
「何が?」
一通りゴブリンを返り討ちした蓑鋤が不意にそんな事を聞いてきた。
「いや、ここの連中は雑魚過ぎてお前の言う効率的に良いのかって意味だ」
「あぁ、効率も大事だけどそれよりも安全第一だからね」
単純に経験値がおっきなモンスターなり魔獣なりと戦いたいなら、野生動物の多い場所――この辺でぱっと思いつくのはここから少し北の方にある箕面市辺りなら猿が出るからここよりは稼げるかもね。
「ならそっちでいいんじゃないか?」
「や、確かに経験値的には美味しいのかもしれないし、猿は固有のスキルも持ってるから蓑鋤的には美味しい相手よ。 でも、止めた方がいいと思う」
猿はかなり危険よ。 来る途中に出くわした犬であの凶暴性なのだ。
犬よりも知能が高い猿がステータスシステムで強化されたらどうなるか何て考えるまでもないわ。
前の周回の時もかなり大規模な討伐隊が組まれる程度には迷惑な存在になっていたみたい。
あいつ等飲み物や食べ物を盗む程度ならまだ可愛い物だけど、今なら普通に命を取りに来るからな。
魔獣は本能的にレベルとジョブの概念を理解しているらしく、他の生物――特に人間を殺す事に積極的だ。 全てがそうではないらしいけど、野生動物が魔獣化した個体は高い確率で遭遇したら襲って来る。
人間を殺してレベルを上げる為にだ。
二日でここまで強くなっている蓑鋤なら簡単にやられないとは思うけど、群れでくるケースも多く、これは聞いた話だけど魔獣化したカラスを殺したら翌日に仲間を殺された怒りなのかは不明だけどカラスの群れがそのプレイヤーに襲い掛かって文字通りの鳥葬に近い有様になったなんて事もあったみたい。
蓑鋤の暴食は非常に強力なスキルではあるけど、無敵ではないし、浸食度の関係で無制限に使える訳ではない。 それに目的は生きて行く為の力を得る事であって意味もなくレベルを上げる事ではないわ。
「……そうか」
「あ、納得してないでしょ」
隠しても私には分かるんだぞ! 不満があると間が開くのは昔からだし!
「ほい、何が不満か言ってみ!」
何度も言ってるけど今の段階で20もあれば早々負ける事もない。
浸食度もコントロールできている。 焦る理由は何もない。
これからは緩やかにレベルを上げていってドロップを売れば食うにも困らないわ。
後は金をかけて安全な場所に引っ越して守りを固めれば私と蓑鋤におばさんの三人で充分にやって行ける。 蓑鋤のスキル獲得が進めば海を越える事もできるかもしれない。
そしたら私の両親や蓑鋤のお父さんを探しに行くことだってできるわ。
でも、焦って死んでしまったら目も当てられない。
ベストなのは時間はかかっても勝てる相手を選んで戦ってレベル上げ。
蓑鋤は何といっていいのかといった様子だったが、明らかに言葉を探していた。
「……あー、実は俺もレベル上げる快感に目覚めてな。 さっさと50に上げてジョブチェンジを試してみたいんだ」
「はい嘘! 私の目を見てはっきりといいなさい!」
観念したのか蓑鋤は私の目をじっと見る。 トゥンク、蓑鋤ってば格好いい。
そんなに見つめられると照れちまうゼ☆
「お前を守りたいんだ」
ふぁ!? マジで言ってんの!? お、おいおい、困っちまうなぁ。
嬉しいけど、まぁ、嬉しいけどぉ! でも、私の為に無理するのはノーサンキュー。
顔が赤くなっている自覚はあったけど、無理は厳禁と今日はお開きとなった。
――時間がない。
蓑鋤は平静を装っていたが、内心ではかなり焦っていた。
レベルは上がっている。 スキルによって経験値を振り分ける事で婀唯の強化も進んでいる。
何の問題もない。 少なくとも彼女から見ればそうだろう。
だが、蓑鋤からすればそうでもなかった。 ベルゼブブの効果でステータスの伸びも驚異的だ。
特に撃破時に確率でステータスが伸びるのが大きい。 デザインとしては婀唯の言う通り雑魚を殺しまくってステータスを伸ばしているのが最も賢いビルドなのだろう。
それは分かるんのだが、このジョブには致命的な落とし穴がある。
異形度の存在だ。 他のステータスならいいが、これが上がり過ぎると蓑鋤は蓑鋤のままでいられない。 それは不味いのだ。
少なくとも彼女が一人で生きていけるようになるまで、狂う訳には行かない。
魔獣化した猿を仕留めたいと思ったのはもしかしたらプレイヤー扱いの魔獣ならこの状態を何とかできるスキルを持っているかもしれないと思ったからだ。




