第17話 魔獣
犬は口を大きく開けると口腔内に巨大な炎が発生。
吼えると同時に発射。 結構な速度で火球が飛んで近くの建物に命中して爆発。
飲食店っぽい感じの建物の壁面が高熱でドロッと溶けた後、派手に燃え上がったわ。
「うわぁ、これまた凄いのが出たなぁ」
「あれが前に話していた魔獣って奴か?」
その通り。 その辺の動物がステータスシステムで凶暴化した存在ね。
何で人間ですらしっかり確認しないと理解できない面倒な操作が要求される代物を知能の低い動物が操れるのかは不明だけど、もしかしたら生物によって仕様が異なっており、使えるように最適化さてているのではないかって話は聞いた事ある。
まぁ、どっちにしろ使えているんだからしようがないわよねー。
蓑鋤は私を抱えると跳躍。 ほわ!? 10メートルぐらい跳んだ!?
やっぱレベル上がるとこんな漫画みたいな挙動ができるのは知ってるけどなれないわー。
近くの建物の上へ。 高所に移動したのはこの状況を俯瞰する為かな?
上からならよく見えるしね! 魔獣は口から火球を吐き出しながらその辺の人を犬パンチでぶっ飛ばしたり、噛みつきで攻撃しているわ。
鑑定使えないから詳細までは分からないけど、魔法使い系のジョブかな?
体が不自然に大きいから初期配布は肉体を操作する系のスキルかしら?
「どうする?」
「んー? 倒すかどうかって話?」
蓑鋤が頷くけど私の中の答えは決まっていた。 無視でいいかな?
「いいのか?」
「うん。 まぁ、魔獣は経験値いっぱい持ってるから殺せるなら殺しても良いとは思うけど、ちょっとここは目立ちすぎるわ」
私の中では蓑鋤と自分の安全がトップで後は二の次三の次。
悪いんだけど名前も知らない連中が何人死のうが知った事じゃないのよ。
あんまり他人に対して優しくしても見返りがない世界だからね。
変に正義感発揮して後ろから刺される何て話も割とよく聞く。
そんな事で蓑鋤に万が一があれば私は自分で自分を許せそうにない。
レベルを上げ力を付ける事は必須だけど、必要以上に目立つのはノーサンキューだ。
ストリーマーやるなら話は別だけど、この世界で名前が売れていい事なんてほとんどないからね。
それに前に私がここを通った時、魔獣が派手に暴れているなんて話は聞かなかった。
つまり、放っておいてもあの犬は誰かが殺処分するわ。 可哀そうだけど、あれはどうにもならない。
見てよあの犬の目。 世界の全てを憎んでいますって感じだわ。
千切れた首輪が引っ掛かっている点からも飼い犬だった事は間違いないけど、これだけ凶暴なら碌な飼い主じゃなかったんじゃない? 知らんけど。
「分かった。 なら、離れて――」
蓑鋤が言い切る前に咄嗟に私を抱きかかえて飛び降りる。 直後に火球が真上を通り過ぎた。
ひぇ!? 何で!? 犬は私達の何が気に入らないのか威嚇するようにこちらに向けて唸る。
めっちゃ睨まれてるー!? 特に気に障ることした覚えはないんだけどー!?
パンパンと銃声が響き、犬の体から血飛沫が飛ぶ。 おぉ! お巡りさんが助けに来てくれた!
お巡りさんが一人慌てて駆け付けたのか周囲に逃げてくださいと叫びながら拳銃を発砲。
犬は身を縮めると回避。 銃弾が地面に着弾して爆発したみたいに砕け散る。
やっぱりステータスシステムの恩恵は凄いわ。
アスファルトにおっきな穴を開けてるのと犬の体を少し抉ったのが同じ銃とは思えないでしょ?
地面を砕いたのが本来の威力なんだけど、犬に対してそこまで効いていないのは犬の防御力が高いからでしょうね。 あんまり効いてないからかなりレベル差がある感じだわ。
お巡りさんがどれぐらいのレベルかは分からないけど、あんまり戦い慣れてる感じはしないし10行ってればいい方? 対する犬は魔法の威力も高いし、15ぐらいは行ってそう。
蓑鋤のレベルなら戦えるとは思うけど、見られるの嫌だしここはお巡りさんに任せてさっさと退散しましょ。
「分かった。 なら早くここから離れて――」
蓑鋤が私を抱えて移動しようとしたけど、それよりも早くお巡りさんの悲鳴が響く。
あー、首から肩にかけてガッツリ噛まれてるわ。 派手に血が噴いてるしあれは死ぬわね。
一瞬、回復を使うか迷ったけど決める前に首が食い千切られた。 あちこちで悲鳴が上がる。
犬はお巡りさんの死体を首を振って無造作に投げ捨てると次のターゲットを探すように首を巡らせるけどエンジン音と共に突っ込んで来た乗用車に跳ねられて吹っ飛んでいった。
おー、車が動いてる。 今だと割と珍しいドライバー系のジョブに就いてる人ね。
フロント部分を大きく凹ませながら乗用車は一気にバック。
離れた所でアクセルを全開にして犬に突っ込んで行った。 同時にドアが開いて運転手が飛び降りる。
凄い! 映画みたい! でも、そのやり方はあんまりよくないわ。
何故かというと車がピタリと止まったからだ。 降りたと同時に不自然なほどだった。
システム上、車両はプレイヤーの制御下にないと動かない、つまりはドライバーが居ないとピクリとも動かないわ。
車から飛び降りたおじさんはえ?と信じがたい物を見たといった様子だったけど、次の瞬間には吐き出された火球を喰らって車諸共爆散。 あちゃー、あれは即死ね。
焼けた燃料やらが飛び散ってあちこちに飛び火して悲鳴や混乱が更に加速。
素直に逃げとけばいいのに皆、気になって仕方ないから野次馬の数が凄いわ。
お陰で道が埋まって押し合いへし合いとえらい事になっていて、犬はこれ幸いと飛び込んで行った。
始まったのは食べ放題のビュッフェスタイルって所かしら?
犬が爪を振るい牙を突き立てる度に誰かが死んでいく。
殺せば殺す程にレベルが上がるのでどんどん手が付けられなくなる。
お陰で蓑鋤は私を抱えて逃げる隙が出来たのはラッキーね。
まぁ、喰われている人達は可哀そうだけどごめんね?
他人を助けなきゃなんて発想は私の中にはないのよ。 大事なのは蓑鋤と自分の安全だけだから。
近くの建物の上に着地。 蓑鋤はそのまま別の建物に飛び移ろうとしていたけど不意に足を止めた。
「蓑鋤?」
「……婀唯。 目を閉じて耳を塞げ」
おっふ。 耳元で囁かないで!? なんかムラムラしちゃうからぁ!
でも、いう通りにしちゃう。 私は目をぎゅっと閉じて耳を塞いだ。




