第16話 犬が出た!
駅構内はかなりの数の人が避難しており、武装した人達が睨みを利かせるように歩いている。
分かり易く剣や槍、斧などで武装している。
ホームでは人が集まって何かをしていた。
よくよく見るとどうやらステータスについての情報共有を行っているみたいね。
ホワイトボードにステータスウインドウからジョブ変更の手順がデカデカと書かれているわ。
後は段ボールの簡易ハウスがあちこちに作られており、毛布にくるまっている人が多い。
「どうもこんにちはー」
不意に声をかけられたので振り返ると駅員の格好をした女の人が笑顔で近寄って来た。
胸に付いている名札には『八木』と記されている。
「こんにちは」
私がそう返事し、蓑鋤は小さく会釈。
「ごめんなさい。 ちょっと見かけない顔だったから声をかけさせてもらいました」
「あぁ、梅田の方から来たばかりなんでここには来たばかりですよ」
見慣れない顔がうろうろしてたら声をかけるのも無理ないわと思ってたら、駅員――八木さんは小さく驚いた表情を浮かべた。
何だろうとは思ったけど、来る途中に出くわしたクソガキ共の事を考えると何となく察せられる。
「その言い難いのなら答えなくても良いのですが来る途中、誰かに襲われたりとかはしませんでしたか?」
少し悩む。 当然惚ける事は可能だ。 ただ、あのクソガキ共は橋の上に陣取っていた。
つまり、あそこを通るモンスターなり人なりを襲って色々と稼ごうとしていたのだ。
偶々、遭遇しませんでしたは少し苦しい。
「十三小橋の辺りで複数の中高生ぐらいの集団に絡まれました」
「……やっぱり。 最近、あっちの方に向かった人が何人か被害に遭ってあまり近寄らないようにって話していた所なんです。 よくご無事でしたね」
「はい、彼のお陰で何とかなりました」
私は蓑鋤の活躍をアピール。 見なよ、私の蓑鋤を!
強くて格好いい私の彼ぴっぴ(予定)だゼ☆ まぁ、嘘は吐いてないわ。
「そうなんですか。 という事は随分とレベルが高いんですね」
「ま、まぁ、そこそこですよ!」
私が15行ったから蓑鋤はもう20越えているはずだ。 二日目でこれはかなり高い部類に入る。
ただ、あんまりひけらかすと面倒な事になるし、知らん顔しとこ。
「実は彼等はここでも随分と暴れてまして――」
八木さんの話によればあのクソガキ共はここで老人や子供を殺して経験値を稼いでレベリングしていたらしいわ。 マジかよ、あのクソガキ共思った以上にとんでもない事してたな。
結局、駅員や他の人に囲まれて逃げ出したんだけど、近くで人やモンスターを殺してどんどん強くなっていたので対処に困っていたみたいね。
ジョブに就く前の人間だったらかなり楽に殺せたでしょうし、アイツ等にとってステータスシステムは他人を経験値と認識して殺人に対する抵抗を消す為の免罪符に近かったのかしら?
「その様子だと何とかされたようですが、彼等はどうなりましたか?」
「痛い目に遭わせたのでしばらくは出てこないかと」
まぁ、しばらくどころか永遠に出て来れないけどね。 蓑鋤がきっちりと地獄に落としたし。
それを聞いて八木さんは露骨にほっとした様子を見せていた。 かなり困っていたみたいね。
やっぱり世の中、死んで当然の奴って居るわ。
「我々としても困っていたので助かりました。 ああいったタガの外れた事をするのは彼等だけではないのですが、少しの間でもそういった人間が大人しくなってくれるなら被害に遭う人も減るので――あ、すいません長々と。 ところでお二人はこれからどうされるおつもりですか?」
「これから家に帰る所です。 家族も心配してると思し、私達も心配してるので早く顔を見て安心したいんですよ」
「ご自宅はどちらですか?」
「江坂です」
「吹田の方ですか。 少し距離がありますが大丈夫ですか?」
私は彼が居るのでと蓑鋤の腕を掴む。
蓑鋤は空気を読んだのか「彼女は俺が守ります」と無表情で口にして力強く頷いた。
トゥンク! 私を一生守る? プロポーズかな??
予定としては今日中に家に帰るつもりだった事もあって早々に十三駅を後にした私と蓑鋤はやや早足に進む。 十三駅に人が集まっている事もあって人の往来が増えてきている。
「市内から離れると人が増えたように感じる」
「そう見えるだけで実際は避難したから出くわさなかったってだけだと思うよ」
単純に状況に対する理解が追い付いていなかったから皆、逃げて隠れて息を潜めたんじゃないかな?
で、ステータスシステムへの理解が追い付いて、状況に対する対処が可能になったから徐々に動き出して今は活発になって来たって感じじゃない?
少なくとも私の見て来た前の世界もそんな感じで逞しく復興していったわ。
ちらりと視線をやるとコンビニで食べ物を漁っていたゴブリンが自警団らしき人達と戦っていた。
そのままぐるりと巡らせるとコボルトを殴りつける学生風の少年。 魔法を放つスーツ姿の男。
負傷者を治療するおばさん。 ドロップ品らしい武器を手に入れて天に掲げて浸っている人。
世界が変わり、人々が徐々に、そして確実に適応していく過程がそこにあった。
蓑鋤は特に興味がないのかあんまりキョロキョロしないなぁ。 ひゅう! クールだぜ!
でも、この様子だと思った以上に楽に家に帰れそう。
うーん。 前の時はかなりダラダラしていたから初動が早いとこんな感じなのねー。
そんな事を考えていると不意に蓑鋤が足を止めた。 どうしたんだろ?
「蓑――」
私が何か言いかける前に蓑鋤が襟首を掴んで引くと何かが前を横切った。
僅かに遅れて何かが壁に激突したらしいべしゃりといった音。
前の世界でも割と聞いた音だわ。
漫画とかみたいに派手な衝撃音じゃなくてグシャとかベシャって感じなのよね。
何かって? 人体があり得ない速度で壁とか地面に激突した時の音よ。
頭とか固い部分だとゴッとかかな? 潰れると水っぽい音って印象。
何だろうと先に吹っ飛ばされた方を見るとビルの壁面に原型を留めない赤い何かが飛び散ってたわ。
まぁ、人体ね。 で、吹っ飛ばした方を見ると――あー、もう出たのかぁ。
思ったより早かったわ。 私の視線の先に居たのは巨大な犬。
土佐犬っていうのかしら全体的にダルってした感じの顔は愛嬌があってちょっと好きだけど、1.5メートル越えのデカブツはちょっと怖いわ。 どっかで飼われてたのがスキルで凶暴化したって感じね。




