第12話 新しい朝
別に婀唯の事が好きだった訳ではない。 可愛いとは思っていたが、それだけだ。
二周目の時もどうせ早々に居なくなる奴だと思って特に何かをしようとも思っていなかった。
ただ、彼女の顔を見る度に死んだという未来が脳裏にチラついたのだ。
――あぁ、こいつは放っておくと死ぬのか。
そう考えると少しぐらいは優しくしても良いのではないかといった考えに至ったのだが、気が付けば婀唯は蓑鋤にべったりとくっ付いて離れなくなってしまった。
何だかんだと彼女は面倒見も良く、周りが離れて行った中でも蓑鋤を見捨てずにいてくれたのだ。
だから、自分だけでもなく彼女の事も守っても良いかもしれない。
そう考えるようになったのだ。 そして訪れた二回目のゲーム開始。
可能な限り前回の状況を再現する為にあの場に居たのだが、想定外が一つ。
記憶遡行が隣にいた婀唯に行った事だ。
どうやら最初に配られる固有スキルはランダムではなく決まった場所に落ちるようになっていたらしい。
代わりに手に入れたのは暴食という外れスキル。 字面だけで見れば相手のスキル簒奪と結構な代物に見えるが、専用の職業との併用がなければ即座に理性が溶ける危険すぎる代物だったのだ。
そうとも知らずに便利だと次から次へとスキルを奪った結果、彼女を手にかける事になってしまった。
結果、彼女から記憶遡行を奪う事になり、死亡した事でこの三週目に突入したのだ。
当初のプランとしては暴食の浸食率とのバランスを取りながらレベリングを行うつもりだったのだが、何故か固有ジョブとして選択肢に出現したバアル・ゼブルのお陰で見直す事になった。
浸食率を無視できる以上、スキルを取り放題だ。
間違いなくチートスキルと言える。 だが、完全無欠とは行かない。
異形度という謎のステータスが追加されたからだ。 これには覚えがあった。
前回に人間を辞めた時に追加された項目で、数値が高ければ高いほどに人間離れした姿、思考に変わっていき、最後には自分で自分がどんな姿をしているのかも分からないぐらいの混沌とした状態になって死んだ。
恐らくはこの数値が増えれば増えるほどに人間からかけ離れていくのだろう。
そして異形度の増加は対象の殺害時となっている点から殺せば殺す程にリスクは増す。
他の効果との兼ね合いで殺さなければ強化もできない。
――つまり俺は長生きできない。
少なくとも人間として理性を保っていられる時間はそう長くないのは確かだ。
二回の死を経験しているだけあって死に対しては多少の心構えは出来てはいたが、予想以上に気持ちは大きく凪いでいた。 もしかするとその時が来れば焦りに突き動かされてみっともなく泣くのだろうか?
分からない。 同じ人生を繰り返すと感情の働きが悪くなるらしく、一周目の自分と比較するとまるで別人のようだった。
ただ、今の所はやるべき事は決まっていた。
彼女が一人で生きて行けるように支えて行こう。
――いつか自分が居なくなる時の為に。
私はうーんと伸びをして身を起こした。
いやー、良く寝たわー。 外を見るとすっかり朝ね。
「……あっれー??」
朝じゃん!? 一晩寝て過ごしたって事!? どういう事!?
「起きたか」
近くに居た蓑鋤が何事もなかったと言わんばかりの様子で近くに居たわ!
「起こしてよ! 交代で見張るっていったじゃん!」
「ん? あぁ、ちょっと色々と試したい事があってな。 起こそうと思ったら既に夜明け前だった」
だからもういいかと放置したと付け加えたんだけど、寝不足は集中力の低下にも繋がるし蓑鋤だって疲れているはず。 私だけ寝るとかありえないわ!
「だったら今からでも少し寝なさいな! ちゃんと見張りぐらいはやるから!」
「いや、いい。 これから帰るんだろう? なら家に着いてからでいい」
蓑鋤はこれ以上は聞かないと言わんばかりに口を閉じた。
性格上、何を言っても意見を曲げないのは知っていたのでここは私が折れるしかなかった。
「うん、分かった。 でも、疲れたりしたら直ぐに言ってね?」
「分かった」
「あ、後、私が寝ている間、何かなかった?」
「ゴブリンとコボルトが少し出たぐらいだな。 派手に暴れたのが良かったのか、寄り付かなくなったようだ」
あ、そうなんだ。
ここって割とモンスターがポップし易いエリアだから結構、エンカウント率高めだと思うんだけど昼間に派手にやったから警戒してこなくなっのかなぁ? うーん、分からん。
ま、考えても分かんない事は考えなくていいか! 取り敢えず、一息つく為にも移動!
私がホームへ降りようとしたら蓑鋤に襟首を掴まれた。 グエ。
「そっちは止めておいた方がいい」
「何で? ホームからの方が広いから――」
「いいから」
よく分からないけど蓑鋤が嫌ならいいか。
蓑鋤が付いて来いと言わんばかりに歩き出したのでそれに続く。
選択したルートは北口から抜けて梅田スカイビルを目指す形になる。
……まぁ、目立つからねー。
一際背が高く、天辺で繋がっているので非常に目を引く建造物だ。
流石に一日経っただけあってあちこちで戦闘の物と思われる音が響いていた。
実際、早い人は半日足らずでシステムの概要を理解してレベリングを始めるわ。
こういった世界で先頭を走ってるプレイヤーっていうのはそういった人間なんでしょうね。
私に言わせるとそれができる人間ってちょっと普通じゃないとは思う。
初見でそこそこ大きな生き物を殺すのとか普通に無理で――あ、殺せる奴居たわ。
――ってか蓑鋤強すぎない?
知ってはいたけどサクサクモンスターをぶっ殺してるわ。
最初は消火器とか金属バットとかの鈍器を使ってたけど遂に素手でゴブリンを粉砕しだした。
流石レベル18戦士やでぇ……。 うーん、高レベルの戦士なのは分かるけどここまでだったかな??
首を捻るが蓑鋤が疲れたと言わんばかりに振り返るので回復スキルを使用して疲労を抜く。
結構な高頻度で使っているだけあって私のレベルの上がりも速いな。
もう上がったぞ。
「うーん、おっかしいなぁ……」
「どうかしたか?」
「やー、そろそろレベルの伸びが悪くなると思うのにスキル使用だけでレベルが上がるんだよね」
「何か問題でもあるのか? レベルは高ければ高いほどいいんだろ?」
うーん。 まぁ、そうなんだけど上手く行き過ぎると不安になるというかなんというか……。
「もしかして蓑鋤なにかした?」
「何かできる事があるのか?」
そう聞き返されてしまうと何も言えなかった。




