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豆腐メンタル

作者: てこ/ひかり

 むかしむかしあるところに、とてもおくびょうで()()なとうふがいました。おくびょうなとうふはとても怖がりで、いつも何かにビクビクおびえていました。


「やぁい、お前のメンタル、とうふ!」

「メンタルとうふ!」


 友だちのとうふたちがそう言って彼をからかいます。ほかのとうふより小さくて、まっ白なとうふは、体をプルプルふるわせながらなげきました。


「どうしてぼくはこんなにおくびょうなんだろう。もっと強くなりたい」


 そう思ったとうふは、強くなるためにしゅぎょうの旅に出ることにしました。

「行ってきます」

 にもつをまとめ、いざ旅に出発です。小さおとうふが、とうふ屋を飛び出し、商店街をひとり歩いていると、目の前にパン屋さんがあらわれました。パン屋さんをのぞくと、それはそれは大きな大きなフランスパンが胸をはって歌っていました。


「フランスパンいかがですか〜♪」

「まぁ大きい。それにとてもかたそう」


 メンタルがフランスパンだったらどんなにすばらしいだろう。ちいさなおとうふは目をかがやかせました。


「フランスパンさんフランスパンさん。どうしたらあなたのようになれますか?」

「Oh ! là, là ! キミはこむぎ粉かい?」

 フランスパンは肩をすくめ、とうふにたずねました。


「いえ……大豆です」

「Hélas.じゃあダメだ。ぼくがこんなすがたなのは、生まれつき決まっているんだよ。原材料(生まれつき)ばかりは、どうしようもないからねぇ」


 とうふはがっかりしました。自分はフランスパンにはなれないんだ。


 でも、ほかの食べ物にならなれるかも……気をとりなおして歩いていると、こんどはやお屋が見えてきました。やお屋をのぞくと、それはそれはりっぱなヒゲを生やした、玉ねぎ紳士がこう茶をかた手に、ゆうがに座っていました。


「玉ねぎいかがですか〜」

「わぁ……!」


 なんてりっぱなおヒゲ。メンタルが玉ねぎだったら……きっとみんなをうんと泣かせる、かんどう的な食べ物になれるにちがいない。き弱なおとうふは目をかがやかせました。


「玉ねぎさん玉ねぎさん。どうしたらあなたのようになれますか?」

「そもそも君は土の中で育ったのかい?」

 玉ねぎ紳士がこう茶を一口飲み、とうふにたずねました。


「いえ……水の中です。でも原材料(うまれ)は、大豆の時は土の中に……」

「じゃあダメだ。けっきょく、育ってきた環境がものを言うからねえ。私のようにりっぱになるには、土の中で、りっぱな環境で育たないとダメなんだ」


 とうふはがっかりしました。自分は玉ねぎにもなれそうもない。


 いっそ食べ物以外になってしまおうか……そんなふうに思いながら小さなおとうふが歩いていると、目の前にぶんぼうぐ屋があらわれました。とうふはぶんぼうぐ屋に入り、同じように小さく、白く、なのにかたい消しゴムを見つけて、ショックを受けました。


「良いなぁ。消しゴムは」


 メンタルが消しゴムだったら、イヤなことはすっかり消してしまえるのに。キラキラした目で消しゴムを見つめていると、それに気づいた消しゴムがとうふにたずねました。


「どうしてとうふがぶんぼうぐ屋に?」

「ぼく……ぼく、消しゴムになりたいんです。強くなりたいんです」

「とうふじゃ無理だよ。食べ物は食べ物。ぶんぼうぐはぶんぼうぐ。そればっかりは変えられないんだよ」


 消しゴムは笑いました。それはそう。消しゴムの代わりにとうふを使ったら、ノートがビシャビシャになってしまいます。とうふはがっかりしました。


「あぁ……けっきょくぼくは、とうふのままなんだなぁ」


 小さなおとうふが、トボトボととうふ屋に戻ると、おつかいに来ていた子どもが、帰ってきたとうふを指差して言いました。


「このとうふ、ください!」

「え?」


 とうふはびっくりしました。今まで、自分を買ってくれる人がいるなんて思いもしませんでした。自分は小さくて、柔らかくて、フランスパンにも玉ねぎにも、ましてや消しゴムにもなれない、この世で一番ダメなやつだと思っていたからです。

 

「何言ってんの。柔らかいからとうふなんでしょ」


 子どもはそう言って笑いました。柔らかいところが良いと言ってくれて、自分がダメだと思っていたところが良いと言ってくれて、とうふはうれしくて、あったかくて、ポロポロ涙を流しました。とうふは子どもの家で麻婆豆腐になりました。それから自分のことをからかって来る友だちがいても、とうふは、前ほど気にならなくなりましたとさ。おしまい。

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