献血鬼
とある病院で一人の女声が声をあげる。
「献血にご協力お願いします〜」
その声を聞いて、幾人かのお人好しが近づいてくる。
彼らが献血をする理由は様々だ。
献血後に貰えるお菓子やジュースを目的とするもの。
単純に献血をすることで誰かの役に立ちたいもの。
中には献血推進キャンペーンにより貰えるグッズを欲しがっているもの。
いずれにせよ、献血をするために多くの人が女性の声に従い車の中に入っていく。
「ご協力ありがとうございました!」
心底嬉しそうな女性に見送られ恍惚な顔をした人々はそこを後にしていく。
さて、ところ変わって病院内。
「また献血の時間じゃないのに献血があったの!?」
そう。
ここのところ、献血募集の時間以外に勝手に誰かが献血しているのだ。
当然、提供していただいた血の行方は分かっていない。
「一体誰なんだ!? こんな勝手なことするやつは!」
「そもそも献血バスじゃないのに何で皆入っていくんだ!?」
そんな病院関係者の言葉は今日も院内に響き渡るのだ。
さて、さらに所変わって車の中。
「あ〜! 美味しかった!」
女吸血鬼が満足そうな顔をして車を運転していた。
「献血って言えばみーんな血をくれるんだもん。良い時代だよ本当に」
この女吸血鬼は今日も捕まらない。
何故なら献血を受ける人々の協力により、病院が気付かない絶妙な時間と場所を選んでいるのだから。
「私に血を吸われると気持ちいいらしいけど……これのおかげでお互いでWin-Winってやつだね」
誰もいない車の中で彼女は今日も満ち足りていた。