初めての戦いと挫折
2024年10月6日改稿しました。
怪しい三人組はざっざっと靴音を鳴らし現れた。
ロミイが警戒する。
それは紛れもなくエクスド軍の鎧。
若く柄の悪そうな連中だ。
俺は聞いた。
「誰だ」
チャラそうに三人は答えた。
「軍の命でお前を殺しに来たぜ」
「俺達はエクスド軍の『切り込み三兄弟だ』」
「切り込み三兄弟?」
何か変な名前だと感じた。
しかも油断がこの時俺の心にあった。
二十歳程の三人組のリーダーらしき男がにやにやして言った。
「と言う事で殺してやるよ。この、ウー、ガルス、ファイダの三人がな」
どう見てもあんまり強そうに見えない……
下っ端って感じ。
ところがティルはいきなり泣き叫んだ。
「きゃあっ! 怖いわ! スカーズ助けて!」
「え?」
先程までの律とした彼女が嘘のようだ。
怖がり?
「よし、俺が相手する。敵討ちの第一歩だ」
俺は毅然と前に出た。
そして決意を胸に。
敵討ちの第一歩。
負けられない。
俺は接近戦は苦手だから遠距離戦で挑もうと思った。
一番真ん中のウー目掛け構えた。
ウーは舐めているのかにやりとした。
舐めた態度は取らせない!
俺は気合を込めた。そして叫んだ。
「受けろ、エアカッター!」
エアカッターは高速で俺の手から飛びウーの頬をスパッと切り通過した。
血が滲んだ。
「ぐあ!」
俺は効いてると思った。
ウーは大げさなまでに顔を押さえ痛がった。
彼は全身で痛みを表現する。そして叫んだ。
「き、効いた!」
しかしウーは態度を変え笑った。
「とでも言うと思ったかバーカ」
「え?」
「こんな小さなナイフがかすめた程度で相手を殺せるとでも思ってんのか? 俺達は命の取り合いをしてるんだぜ」
俺はぞっとした。
自分の弱い部分を見られた事とこいつら実は恐ろしい奴らなんじゃって。
ガルスがまるで俺の心を見透かす様に言った。
「行くぜ?」
「くそ、今度はエアショットだ!」
力の限りのエアショットを今度はガルス目掛けて撃った。
ところがドンと言う音と共にガルスは筋肉の発達した胸で受けた。
そこにはシュワっと煙が舞っただけ。
「え?」
「効かねーな!」
また俺の心に恐怖が生まれた。
ガルスとファイダが言った。
「ひよっとしてお前戦った事ないんじゃないか? 敵討ちとか笑わせるな」
「今度はこっちから行くぜ」
ファイダが突っ込んで来た。
俺も覚悟を決めパンチで迎え撃つ。
そう思った次の瞬間俺の体は後方三メートル程吹っ飛ばされていた。
「ぐあ!」
凄いパンチだ。
ただの柄の悪い喧嘩好きレベルじゃない。
軍で相当鍛えられてる。
「ぐ、ぐぐ」
俺は無様に地面を舐めるような体勢だった。
ファイダは笑い見下した。
「何だこいつ? てんで弱いじゃないか」
さらにウーとガルスも来た。
俺を掴み起き上がらせようとする。
そして顔を殴った。
凄まじく重い。そして深くめり込む。
本当に下っ端なのか?
「これが蹴りだ」
「ぐあ!」
ファイダは俺の腹を蹴り上げた。
パンチと違い重さだけでなく鋭さ、えぐるようなえげつなさもある。
三人は俺をいたぶり腹と顔を何発も殴った。
いたぶりを楽しんでいる。
こんな重い攻撃は受けた事がない。
倒れた俺を更に三人は殴った。
エンドレスに。
ロミイは叫ぶ。
「止めてえ!」
俺が何か聞こうとしてるのを三人は気づいた。
「どうした?」
「あんたらは軍の差し向けた精鋭?」
三人は心の底から笑った。
「はーっはっは! 俺達は正真正銘の下っ端よ! 生意気なガキがいるから殺せ、そうしたら階級上げると言われた下っ端三人組よ!」
下っ端でこれ程強いのか、攻撃も効かないしパンチもすさまじく重い。
て言うより本気で命を取りに来てる。
攻撃も目も。
これが戦いか。軍の強さ。
俺は何も知らなかったのか、怖さも厳しさも挫折も。
それに相手が弱そうだと判断した。
それも恥ずかしい。
何も知らない世間知らず。
「さーてそろそろ殺す」
そこへティルがいきなり助けに入った。
「後は任せて」
「何だ? さっき泣き出した女か? しかも丸腰で男三人を相手だと?」
しかしティルは眉一つ動かさない。
「死ね!」
襲い掛かったファイダのパンチをかわしすさまじく重く響く肘打ちを叩き込む。
食らったファイダの体が震える。
「がっ! ががっ!」
ファイダはばっと血を吐いた。
結構吐いてる。
まるでジュース吐いてるみたい。
怖かった。
さらにティルは肘打ちした場所にボディパンチを高速で何発も何発も撃ち込む。
「がはっ!」
無機質な攻撃が怖い。
「野郎!」
今度はティルはガルスを回し蹴りで倒した。
顔面をえぐった。
ティルは圧し掛かって気絶させるぐらい何発も殴る。
「女あ!」
最後にウーは動揺を隠しながら剣で襲い掛かったが今度はティルは短剣で受けた。
「え?」
どういう事だ?
丸腰の女の姿で油断させたのか?
凄い。後、長剣でなく短剣で受けるのか?
ティルは短剣で長剣とのリーチの差を動きと腕で補い追い込む。
そしてウーの剣が弾かれ飛ぶ。
回りこんだティルはウーの腕を掴み捕えた。
そのままティルはウーの腕を折った。
「ぎゃあああ!」
ボキッて音したぞ!
凄まじい叫び。
これが本当の戦い。
いや殺しあい。
あいつらだけでなくティルも。
何て事だ。
俺とあいつらじゃ剣道をかじった少年と殺し屋だ。
それにさっきのあいつらの目。
あれは命を取りに来る人を殺す目だ。
ティルも。
ティルはウーを押さえつけ言った。
「貴方が止めを刺すのよ」
「え?」
「エアショットで!」
う、うおお。
ここでやらなければやられる。
この先も戦えない。
仕方ない。
人の命を取りたくない気持ちと戦う。
「くっ!」
狙いを定めて
神力を込めて集中して。
狙うは顔しかない。
外したら後がない。
当たるか。当てないと。
手が震える。
羽根と空の紋章が出た。
「わああっ!」
当たってほしい、当たってほしくない。
その二つの考えが行き交う。
大きく振りかぶり野球のピッチャーみたいに力と心の全てを賭けた渾身のエアショットを撃った。
でも、やっぱりちょっと当たらないで欲しかった。
特大弾がウーの顎に当たった。
「ぐわ!」
ウーはかくりと首を下げた。
俺は走りよった。
「死んだの」
「首の骨が折れてるわ」
「助からない?」
「助かっても相当の傷ね。駄目よ相手の心配したら」
「これほどまでに戦いって凄まじい物だったのか」
「これから教えるわ」
「何で短剣使ったの? 不利じゃない?」
「軽い装備でエネルギー消耗を減らすため。私疲れやすいのよ」
「スカーズさーん!」
「ロミイ」
ティルは嫌な顔をした。
「貴方は今頃何? 何もしてないじゃない」
ロミイは怒った。
「何でそんな言い方」
「おいやめろよ」
ところが離れて木陰に座ったティルは寂しそうに何か言っていた。
「私またシビアな事言っちゃった。二人に嫌われるかな」
ところがこれから更なる恐怖が待っていた。
比較にならない程の。