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ロミイとティルの対立

2024年9月30日改稿しました。

 

 

 威圧感をまとったティルは俺に向け歩を進める。

 彼女が首を斜めに上げ回すと長い髪が柔らかく舞った。

 

「さあ、始まるわよ! 私が貴方を鍛え指導するわ。そして軍を倒せる神族の最強戦士となってほしい。貴方しかいない」

 プレッシャーをかけ現実を突きつけ俺の気持ちを確める様に彼女は言った。


「最強戦士?」

 俺が最強? さすがに戸惑った。


「あなたは神だから空のエネルギーを取り込んで二倍、大地のエネルギーを取り込んで二倍、合計四倍のスピードで成長出来るのよ。修行の時にこめかみの羽を解放すればそこからエネルギーが得られるわ」


「四倍? そうか混血神にはそう言う効果があるんだ!」


「それを生かせば貴方は短期間で最強戦士になれるわ。それに神術に使うエネルギーを祈りで自然から取り込めるわ。最強だけでなく『最速』でならないとだめ。軍は貴方を追っていて戦いながら神族を助けていかなきゃいけないの」


「最強で最速……」

 またプレッシャーをかけられた。

「出来る?」


「出来るさ! でも祈りでエネルギー取り込めるって親父と修行してる時は知らなかった。俺が軍を皆やっつけるって事?」


「そうね、それが望ましいわ。でも貴方は理想郷へ行くのが最優先目標なんでしょ?」


「そうだね。いくら何でも軍を全滅させるって気が引けるし無茶っぽい。俺は最短距離で理想郷へ行きたい、本音としては。親の敵であってもあまり多くの人を殺したくない」


「最終目標への旅の過程でどこまで軍と戦うかが葛藤になるわね。戦いが嫌いなあなたにとって辛い道になると思う。戦いを全て避ける事は出来ないわ。もう包囲網が敷かれているはず。私が言える事じゃないけど貴方の天命なんだと思う。さらに貴方には太陽の力もある」


「太陽の力?」

「あーっストップ!」

 ロミイはいきなり凄い勢いで割って入った。


「その事は言わないで口止めされてるの」

「分かったわ」

 何の事だ? 太陽?


「じゃあ気を取り直して。木刀を構えて」

「良し」


 ロミイはさらに割り込み聞いた。

「スカーズさんに人殺しをさせるんですか」


 非常に核心を突く質問を。

 ティルはそれに対し努めて冷静に答えた。


「そうね」

 彼女の言い方はきりっとはしていても、一方で申し訳なさもある感じだった。

 

 しかし大人しいロミイが語気強く言った。

「反対です」


 一方、ティルも冷静で引かない。

「いいえ、彼にはやってもらわなければならない。それは彼がそれだけの力を持っているからなのよ。彼が戦いを好きじゃない人だと言う事は十分に承知しているわ。でもだからこそ出来る事もあるのよ。同じような目にあった人達の気持ちが分かるからその人達の為に戦える」


 ロミイが言う。

「でも、戦えば命を落とすかも知れないし危険だし人も殺すし」


 俺はロミイをなだめた。

「まあ、少し彼女の話を聞くよ。僕が凄腕の戦士になればいいの?」


 ティルは答えた。

「ええ」

「分かった。貴方の指導を受けるよ」


「ありがとう。でも中途半端な気持ちじゃだめよ」

「えっ?」


 心を見透かされた様だった。

 最初は「様子を見よう」みたいに思っていた。


 彼女は凄く本気だ。

 命の取り合いや死地を潜り抜けてきたのかも知れない。

 いや確かにそういう雰囲気が漂う。


 よし、彼女の気持ちに応えよう。

 一歩二歩踏み出して決意したんだ。


 変わるんだ。

 自分の意思で決めたんだ。

 ロミイが心配してるの気になるけど。


「じゃあ、早速木刀を構えて」

「わ、分かった」


 彼女は早速指摘した。

「後ニセンチ脇を閉めて。首を少し引いて」


「は、はい」

 この言葉により心も締められた。


 俺のこめかみと右手に羽根、額に大地の紋章が出た。

「スカーズさんが変わって本気になっている」


 少し自信無げに構えた。

「はあ」


 何故自信がないのか。

 それはロミイの心配が正しくもあるから気持ちがぐらついたんだ。 


 でも俺は本気で切りかかった。

 しかし次の瞬間俺と木刀は彼女の体をすり抜けた。


 嫌、すり抜けたと錯覚する程軽くかわされた。

「あ……えっ!」


 彼女にはそよ風のようだった。

 次の返し手で力も入れず打ち払われた。


 見えなかった。

 軽く手首を返した様にしか見えない。


 また足の動きも最小限。

 本当に柔よく剛を制す、を地で行っている。


「木刀は八センチ私の身体から離れてるわよ」

「測らなくても距離が分かるんだ……」

「目がちらちらしてるわ」


 達人感がした。

 ティルは鼓舞する。


「もっと! 全力でかかってきて!」

 いや、本気なんだ。


 戦いが嫌いと言っても。


 ティルは言った。

「いけるはずよ、出来るはずよ」

 今度は優しく励ます感じだった。

 

 俺は再度攻めた。

「はあ!」


 しかしティルは俺の二手、三手を力を入れずに打ち払ってくる。

 俺の攻撃が当たらないまま息が切れ始めた。

「ぜはっ、はあ……!」


「もっとよ」

 きれいな顔なのに何か語気が強く感じる。

 俺は疲労が増してきた。


「はっ、はっ!」

 しかし彼女には当たらなかった。

「……はあ、はあ」


 ティルは柔軟な動きで俺の剣をいなしていく。

「もっと本気にやりなさい!」

 

 しかし、いくらやっても経験が違う。

 相手はプロって感じだ。

 俺なんか趣味程度かとも思い知らされた。


「無駄な動きを後三十パーセント減らしなさい!」

 疲れも無駄な動きを増す。

「くっ……!」


 彼女はクールな顔なのに声が響きかつその中に情熱が強く込められている。

 そして俺は彼女に打ち負かされた。

 這う這うの体だ。


 ティルは厳しく言った。

「立って……立って……立って!」


「ぜいぜい……」

 冷静な言い方から語気強い言い方に意識的にシフトしてるのを感じる。


「貴方が本気で変わる決意を見せなさい!」

「わかった……」

「出来るはずよ。だから最後まで付き合うわ」


「打ち込みってのはこうやるのよ!」

「わっ!」


「はっはっはっはっはっはっ!」

 彼女は凄まじい十連続撃を浴びせてきた。

 

「あ、あっあっ!」

 あまりの速さに防ぎようもなかった。

 ティルは俺の身体には当てず全て木刀に当てた。


 どさりと俺はうつぶせに倒れた。

「はあっ、はあっ! はあっ、はあ……」

 何十分もやったような汗と息切れ。


 ティルは低い声で冷徹に言った。

 ダウンした俺を見下ろすかの様に。

「休みなしで今度は魔法防御よ。私の光魔法受け止めるか避けて」


「わ、わかった」

 俺は何とか立った。

「はっ!」


 彼女の手から光で作ったブーメラン型魔法が発射された。

 切断系に見える。

「うおうお!」


 ぎりぎりで交わし少し顔をかすめた。

「まだよ」

 二、三発目を撃ってくる。


「はっ!」

 俺は何とかかわしたがブーメランのように戻ってきて当たった。

「油断は禁物よ。じゃあ次はもっと強力な魔法」


 今度はもっと大きな光の塊が発射された。

 今度は球体。


 俺はまともに食い吹っ飛ばされた。

「ぐあ!」


 何とか俺は立つ。

「今度はあなたの技で迎え撃って」

「良し」


 俺は構えた。

「エア・ショット!」

「はっ!」


 ティルも球体型光魔法を発射しぶつかり合った。

 俺の方が押された。

 負けに近い相殺。


「まだもっと磨いて威力を上げられるわ。今度は接近技を見せて!」

「よし! 地熱の拳だ!」


 俺はダッシュしてフックでティルの顔を狙う。

 それをティルはひじで受け止める。

「あつあつ!」


 高熱を受けさすがにティルの腕が焼けた。

「大丈夫?」

「ありがと。でも変な優しさは見せないで。うっ!」


 ティルは崩れそうになった。

「どうしたの?」


「私は地上ではエネルギー消耗が速いの。最後の特訓、丸腰の私に木刀で切りかかって」   


「丸腰の女に武器でって! 俺にもプライドやデリカシーが!」

「甘さは見せないで。私を親の敵だと思って」


 俺の手が震え木刀が汗で滑りそうになっている。

「うう……」

「甘いわね……」


 彼女は目が物凄く真剣だ。

 しかしため息をつき言った。


「本当甘いわねえ」

 気のせいかティルは微笑んだ。


「うーん、仕方ないわ。じゃあ逆で剣を持った私に素手でかかってきて。その前に」

 

 ティルはおもむろに飲み物と注射器を出した。

「え?」


「はっ! くっ」

 ティルは飲み物を飲んだが苦しそうだ。

「何それ」


「超強力な強壮剤よ。きついわ。それと」

 さらにティルは注射針を左の腕に刺した。

「あっ!」


「これも強壮剤、はうっ! 効果が強すぎるわ相変わらず」

「もう止めよう」


「止めたら薬を飲んだ意味がなくなる、もう少しよ」

「な、何て根性とプロ意識だ。そこまで気持ちが強いなんて。俺の為にそこまで」


 ロミイも言った。

「何て強い、そして必死な人」


 ティルは息絶え絶えで言った。

「中途半端な修行で死んだ人を私は見ているわ。貴方にはそうなって欲しくないの。それに貴方のお母様程情の深い方を私は知らない。そして立派な人。私はあの時助けられなかったんだけど。だから私の力不足で教えた人が死んだりお母様の願いを果たせなかったら私はどうしていいか分からない……はあはあ。みんな仕事をする強い理由があるからやれるのよ。上からの指示とかだけでやってるわけじゃないわ」


 ロミイは言った。

「そんなにまでスカーズさんに使命を完遂してほしいんだ……」


「君がこの仕事をしたり選んだ理由は?」

「私の力がほんの少し他者より優れているのならそれを他人と世の中のために使いたいから。昔は親に愛されたかったからだけど」


「え? どう言う事? まあいいや。で? 最後の特訓殴るの?」

「寸止めでいいわ」

「よし」


 ティルは目をつぶった。

 俺は寸止めのつもりだが全力で行った。


 しかし……

 軽くかわされた。

 

 ティルもぜいぜい言ってるが。

 ちょっと心配。


 で俺の二発目は動かずまるで片手間に木刀で受け止められた。

 必死で出した三、四発目も。


 ティルは目をつぶったまま。  

 俺は聞いた。


「何故動きがわかるんだ」

「音や気配や匂い」


「匂いまで?」

「後あなたは無駄な動きが多いから察知しやすいの。さっきは三十パーセントって言ったけど五十五パーセント落として。後あなたは空の神だから動く時気流をまとってるの。だから風の触覚で」


「すごいね君って。同じ年とは思えない」

「ありがとう。おだてはいいけど。ちょっと努力しただけ」


「おだてじゃないよ。すごいよ」

「ありがと」

 ティルは今までにない表情を見せた。


「何故トレーナーになろうと思ったの?」

「それは……」 


 しかしロミイは止めた。

「やめて下さい! 私はスカーズさんが危険なだけでなく人殺しをしてほしくないんです!」


「貴方の気持ちも分かるわ。でも私も考えを変えるつもりはない」


「私も考えを変えません」

 何かやばい雰囲気になってきたな。


「私も使命があるのよ」

「貴方は勝手よ、スカーズさんの人格も考慮せず」


「分かっているわ。でも彼は凄い潜在能力があるし彼しかしないのよ」

「そんな!」


「すこしきついけど、貴方は神族じゃないでしょ? 口を挟まないで」


「え?」

 どう言う意味だ? 聞きたいけど。


 ロミイは叫ぶ。

「戦わせたくない事もそうだけど最大の理由はスカーズさんの命はご両親が命をかけて守ったものだからよ!」


 ティルは沈黙してから少し話をそらし聞いた。

「やっぱり軍を全滅させるって気が引ける?」


「うん、母さんはまず逃げる事を第一に言った。仇を討ってくれと言ってない」

「貴方に幸せになってほしいのね」


「父さんは言葉を発せず死んだ。両親とも理想郷へ行くだけじゃなく無念を本当は晴らして欲しいんじゃないかと言う疑問があるんだ。普通はそうだよね」


「逃げ優先の旅にするか復讐の戦いの旅にするかって事よね。どちらに比重を置くか」


「俺だって仇を討ちたいさ。気も狂いそうになる。母さんが良いって言っても。でも軍の中にも真面目な人はいるし実行犯だけじゃなくボスが悪いんだろうし。俺の手で軍の人大勢殺すなんてエゴだし」


「ともかく、二人ともいい友達になってね」

 とティルはウインクした。 


 意外な表情に俺は少しどきっとした。

 ロミイも

「女の私でも吸い込まれそうになった……」

 

 ティルはいきなり話題を変えた。

「一日ごとにレベルを二つ上げなさい」

「えっ⁉️」


「それ位のペースでないと間に合わないわ、やりなさい!」 

「げ、現実を突きつけてくるな」


「ゴールの理想郷にたどり着くまでの時間から逆算して日程を決めているのよ。今日から朝起きたら特訓、昼御飯食べたら特訓夜は夜中まで移動しながら特訓」

「……」


 ティルは今度は微笑んで言った。

「ファイトよスカーズ」

「ああ、ファイトするよ」


「じゃあ二人は休憩とって。私は今日の記録と明日の予定まとめるから。変更点も柔軟に取り入れる。地図を元にコース決めも」


「そんな、君も疲れてるじゃないか。すごいね」

「仕事や勉強を頑張ったきっかけは親の機嫌取ったり期待に応える為だったんだけど」


「さっきも言ってたよねそれ。良ければ聞かせて」

「うん、後で話すわ。ロミイさん、私も親を亡くした人の気持ち出来る限り理解するよう努力するわ」


「尊敬する人は?」

「天界に一杯いるわ。色々な人に影響受けてるわ」


「天界には立派な人一杯いそうだね。ボーイフレンドは?」

「え⁉️ 何でそんな事聞くの⁉️」

 

「もてそうだし、それに優しいし」

「わ、私が優しい……⁉️」

 ティルは頬を押さえた。


 その会話は突如ある男に破られた。 

 ロミイが言った。

「邪悪な気配が迫っています!」


 エクスド軍のあんまり強そうじゃない猫背でチャラチャラした二十歳位の騎士三人組が現れた。

「へへっ!」


「みーっけ!」

「あいつ倒せば出世出来るんだろ?」


 三人はロベイアンの様な風格がなかった。

 でも、何か…………

 

 目が恐いんだ。

 上手く言えないけど。

 その不安は現実になり嫌と言う程思い知らされる。

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