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決死の集中と地震 

2024年8月8日改稿しました。

 俺はエアカッターの嵐でほとんどの兵の皮膚を切り裂いて怯ませた。

 次に右手でうちわの様に風を扇ぐ仕草をした。

 

 これが俺の能力の一つ「風を起こす力」だ。

 風と衝撃波が兵達を襲い、切られた痛みが増して呻いていた。


 エグイゼルは怒った。

「こんな風程度で怯みおって! さっさと進め馬鹿!」

 

 しかし兵達は言った。

「し、しかし強風に逆らって前へ出ようとすると切られた傷から血が噴き出して」


「命を捨て敵を倒す掟を忘れたか! 後で俺が教えるぞ! ええい! 俺はほとんど食らってないのに!」


 そう、エグイゼルだけは上手くかわしたり木の陰に隠れてやり過ごしたりかなり被害を減らしていた。


 エグイゼルは部下に見切りを付け、自分で突破口を開こうとしているようだ。

 そして言った。


「俺が奴の懐に飛び込んでやる」

「ぐ」


 この言葉は俺に恐怖を教えた。

 今の自分の体勢で接近戦に持ち込まれると不利だと判断した俺は、素早くバックステップして距離を取り突風攻撃を止め接近戦に備えた。


 俺は拳を構えた。

「俺のもう一つの武器を見せてやる」

 俺はエグイゼルがまだ剣を抜く前に地熱をまとった拳で殴りかかった。 


「うおお!」

 俺は激しい気合いを込めた。


 ところがエグイゼルは「ふん」と言って反撃ではなく防御の姿勢を取った。


 かなりの高熱を帯びた俺の拳だった。

 しかしエグイゼルはひじの少し下で俺の拳をがっちり受け止めて見せた。


 湯気が音を立て昇る。

 熱と圧がエグイゼルのひじと俺の拳にぐぐりと響く。

「うう」


 俺は受け止められた事にかなりの戸惑いと恐怖を感じた。 

 素手で受けられたのは初めてだ。

 予想もしてなかった。


 しかもエグイゼルは痛くなさそうな余裕の笑みを見せている。

 それも恐怖に拍車をかける。

 いや、熱くないはずがない。見せないだけ?


 苦し紛れに俺は素早く右手を引っ込め同じ速さで拳を再度放った。

 ところが今度は素手じゃなく剣の刃ででガシンと受け止められた。

 刃で受けられ俺の拳から血がしたたる。


「あぐぐ」

 俺は素早く拳を引っ込めバックステップし体勢を立て直した。

「ならば」


 俺は素早く剣を鞘から出した。

「ほう?」

 それを見たエグイゼルはにやりとする。 


 俺はつたない構えをした。

 手は震えている。


 はっきり言って剣術は形だけだ。

 エグイゼルからしたらはったりの様な見せかけだと何となく見抜くだろう。

 

 俺が震えているのは戦いの怖さでなく弱さがばれる事なんだ。

 もうばれているかもしれない。


 でも今はこれしかない。

 剣術は親父に習っただけだし騎士団に入っていたわけではない。


 エグイゼルは「素人め」とでも言いたげだった。

 対する彼の構えには隙が無いし余裕も漂う。


 全く勝負にならないかも知れない。

 でも、初めてぶつける時が来たんだ。


 軍の奴らに親父に習った剣術を、いやその気持ちをぶつける時が。  

 めらめら燃える憎しみの炎。


 ロミイは心配そうで、ティルは汗を流しごくりと唾を飲んだ。

「うおお」


 「弱いのがばれても!」と言う気持ちでついに意を決した俺は叫びながら突進した。

 しかし、それはエグイゼルに届かなかった。

 剣も気持ちも。


 一刀目が完全に受け止められた。

 本当にいともあっさり。

 これで俺は心まで防がれた気持ちになった。


 エグイゼルは剣を受け止め、皮肉っぽく言った。

「素晴らしい瞬発力と足の踏み込みだな」

 本気で言っている様に聞こえない。


 それでも俺は剣の隙間からぎらりとエグイゼルを睨んだ。

 それは親父が殺された恨みをぶつけ見せる為だった。

 

 脳裏にあの場面がよぎる。

 耐えられない悔恨。


 しかしエグイゼルは「一部分だけ」を褒めたに過ぎなかった。

 俺はなにくそと、ショックを隠し気を取り直し二刀目を繰り出した。

 

 しかしこれも難なく、まるで蚊でも払う様に児戯のごとく切り払われた。

「ぐあ!」 


 俺は後方にダウンした。

「一か所くらいしか褒めるところはないな」

 この台詞が俺とエグイゼルの実力差を表していた。


 でも俺はなりふり構わず即座に起き上がりさらに気合いを込めて切りかかった。

「今度こそ!」

 

「勝つため」「少年を救う為」それ以上に気持ちをぶつけたかった。

 粗い攻めだと分かってたけど。


 勿論両親のあの世からの恨み、そして何も出来ず逃げた事。

 それら全てを払しょくしたかった。


 しかしそれはかなわなかった。

 エグイゼルの無情な反撃が来た。

 

 俺にはそれが見えなかった。

 エグイゼルの剣でぐさりと俺の腿が切られた。

 

 血がザシュっと飛ぶ。

 しかもエグイゼルはぶつけようとした俺の気持ちなどまるで感じず余裕綽々だ。


「スカーズさん!」

 ロミイが叫んだ。


 ティルも言った。

「もう無理よ! 私に交代して!」

「……」


「頼む、交代させてくれ」

 俺はさっきまでの覇気が嘘の様に懇願した。


「ほう……」

 エグイゼルは心から見下す様に「やっと身の程を知ったか」とばかりに俺を蹴り飛ばした。


 屈辱だった。

 ああ、負けたよゼッツリオンに続いて。

 

 ティルは俺に駆け寄った。

「大丈夫?」


「小声で話す。俺はもう踏ん張りが効かなくて接近戦は無理だ。でも遠距離攻撃の技がまだある。時間を稼いでくれ」


 ティルは代わりに剣でエグイゼルと戦った。

「ほう!」


 俺より遥かに慣れた剣さばきにエグイゼルは感心した。

 まだ余裕はあるのかも知れないが。

 ティルの動きはエグイゼルにひけを取っていない。


 しかし目に余裕がなく、汗が多い。

「どうした? 余裕がなさそうだな」


 どうしたんだ? 

 確かこう言ってた。


「私は地上では激しく体力を消耗するのよ」

 急がないと!


 俺はエグイゼルをじっと見つめかつティルに当たらないようあらん限りの全ての集中力を手先に集めた。


 いや同時に気持ちも。

 逃げなければならなかった悔しさ。

 何も守れなかった事。


 あの少年を守りたい。

 でも戦いが嫌いなロミイや母さんの考えも決して否定はしない!

 俺は戦いが嫌いなままでもいいんだ。

 

 それに今は仲間がいる。

 ならば力を借りて勝つんだ。


 プライドを捨てて。

 なりふり構わずどんな手を使っても。


 ここで決めなきゃ殺される。ティルも。

 でも命まで取りたくない矛盾した感情をいりまぜ両立もさせようと言う図々しい願い?

 

 そして子供を守るためと負けたらティルとロミイも殺されるからと言うエゴで理由を付ける身勝手な気持ち。


 俺は大興奮状態で発射した。

「はあ! 大型空気弾ストロングショット!」


 威力自体は上がっていない。

 でも気持ちは今までで最高にこもった。

 気持ちがこもったから威力もこれまでで最高と勝手に思う。

 

 渾身の思いを込めた空気の約十五センチの塊は高速でエグイゼルの腹に当たった。

「あ、あぐぐ……」


「もう一発! もう一発!」 

 俺はさらに興奮した。


 俺が倒れるかエグイゼルが倒れるか。

「これで決める! これで決める!」


 それは相手への恐怖、殺す罪、そして怒りが複雑混沌と入り混じった感情だ。

 初めての殺人行為かも知れない。


 でもチャンスは今だけ。

 そしてティルの願いにも応えたんだ。

 

 海で溺れる者が必死に岸に手を伸ばすあがきと生きる為の本能からの踏ん張り。


 エグゼイルは痛む腹を押さえ血を吐く。

「がああ!」


 この図も怖かった。

 そして吐き終わるとまるで役を終えたかのように膝を突き倒れた。

 

 ティルは聞いた。

「死んだの?」


「とどめは刺してない。気を失っただけだ。早くここを離れよう」


「待て!」

 ところがまだエグイゼルは立った。

 鬼気迫る表情だ。


「まだ我々もだ!」 

 しかも兵士達も立った。


 俺は絶望した。

「もう手がない!」


「ぐっ!」

 ティルも汗をかいている。

 

 兵士達はダメージの大きいエグイゼルを残し立ち尽くしている俺に一斉に襲いかかってきた。

「うおお!」


 そして俺を掴み殴って蹴った。

「剣は使うな、たっぷりいたぶれ!」

「きゃあーっ!」


 ティルまで悲鳴を上げた。

 俺は意識がなくなりかけた。


 その時声が聞こえた。

「エネルギーを全て地面に注入するんだ」

「父さん⁉️」


 俺は僅かに動く右手を地面に着けエネルギーを流した。

 すると地面が揺れた。生命を得たかのように震えた。

 あたり一面が激しく揺れる。

 え⁉️


 ティルは言った。

「大地の神の力⁉️」


 立っていられない程凄まじい震度だ。

 俺の手が光り音を立てひびは入り地面は割れた。

 

 地盤沈下だ。

「バカな! 神の怒りか!」

 しかもエグイゼルと兵だけを飲み込んだ。


 深い穴に呑まれて行った。

 もう後は分からなかった。

 

 少し休憩し何とか立った。

「稲妻だけでなく地震まで起こすなんて」


「ありがとうございます」

 神族親子の感謝を得て俺は町に帰った。

 一緒にいたよく分からない少年もついてきた。


 でこれから皆で帰ろうと言う時にその少年に気が付いた。

 トーボと一緒にいた子だ。


 俺は気軽に聞いた。

「君はトーボの友人?」


 少年は首を横に振る。

 言葉はない。


 俺は恐る恐る再度聞こうとした。

「あ、あの」

「友達じゃないよ」


 俺はがっくりした。

「あっそう」

 

 逆にロミイは笑顔で聞いた。

「森の中で何してたの?」

「あ、地図つくりの為の散策」


「へえ、地図が書けるの? 凄いじゃない」

「あ、あーああ」


 少年の返答はたどたどしい。

 人間嫌いと緊張が混ざった雰囲気だ。

 しかし女が相手だからか少し照れている。


 俺はまた聞いた。

「君リンゲの町の子?」


「……う、うん」

 何でワンテンポ返答が遅れるんだ。

 友達いないんだろうな。


 トーボは言った。

「お兄ちゃんは迷った僕を案内してくれたんだ」

「え、ああそんなつもりじゃ」


 マットさんはそれを聞き喜んだ。

「そうなのですか! ではお礼に食事を」

「あーあああ」


 何故あーがいつも先に出るんだ。

「勿論皆さんも。スカーズさんの旅の相談をしましょう」


 無事リンゲの町に帰った俺達は美味しい食事を食べる事になった。

「いただきます」


 ロミイはケビンに聞いた。

「おいしい?」

「あー」


「笑いながら食べるともっと美味しくなるわ」

「はい」

 赤くなってる。よく分からん奴。


 マットさんは切り出した。

「スカーズさん、目的地は」

「勿論理想郷ですが、次にここから近いのはアンクックの町です」


 ロミイは言った。

「この地図に大体神族がおられる場所が書いてあります」


 エレカーンさんは言った。

「しかし、軍に追われながらだと大変な旅になるでしょう?」


「はい。でも俺は母が言った目的を何としても完遂したいんです」


 エレカーンさんとマットさんは言った。

「スルーナ様は立派なご子息を持ちましたね」

「王子じゃないですか」


「あ、俺王子だったんだ。でももし天界にいたら混血だから迫害されるかも」

「地上では辛い目にあったんですか?」


 俺は答えた。

「いえ、誰もその事を知らないんです。食料を買いに町に言ったりして店の人には顔覚えられてるかなみたいで」


 エレカーンさんは心配した。

「でも軍はひどい。憎いでしょ?」

「あ、ああ」


 マットさんも

「貴方の憎しみの力がどんどん大きくならなければいいが」

「俺は、人間とも他の神族とも仲良くしたいです」


 ロミイは笑顔で言った。

「まあ、優しい」

「ロミイ、貴方、なんでそんなにスカーズを褒めるの?」


 何かティルの言い方はとげがあった。

 そして食事を終え俺達は次の町に行く事になった。


 しかしケビンは冷めた口調で言った。

「アンクックの町なら近道知ってますよ」

「え?」


 また冷めている。

「俺は自分の足で調べたから。良ければ同行しますけど。いやずっと」

「……」


 俺は迷った。

 ティルは言った。

「いいわ。お別れ。貴方コミュニケーションが難しそうだから」


「あーすみません! 僕が悪かったです連れて行ってください!」

 急に態度変わったな。

 でも親何やってんだ?

 危険な旅だし。


「俺は大体の道は分かってる」

 ケビンは暗いが自信満々に言った。



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