特訓の成果 新技エア・カッターの嵐
2024年8月4日改稿しました。
「待てっ!」
森の中で遂に神族の少年を見つけた俺はワグナー宰相の部下らしき連中を止めた。
少年二人が連れ去られようとしている。
手下兵は十人、ボスらしき男が真ん中にいる。
父親は安堵と悲鳴が混じった叫びをあげた。
「トーボ!」
「パパ!」
子供も親に会えた安堵と殺されそうな恐怖が混じった声を出す。
俺は言った。
「その子を放せ」
ボスらしき男は言った。
「ほう? 誰 かと思えば殺し損ねた神族のガキが自分からやって来たか。ゼッツリオンに殺されたと思っていたが懲りないやつだな」
「今度は負けんぞ」
「スカーズさん、無理しないで……」
ロミイは辛そうだった。
俺は前に出た。
「その子は殺させないぞ」
俺はゼッツリオンに全く歯が立たなかった事を思い出した。
そして両親が殺された時に何も出来なかった。
ロミイの前で見せない様にしたけどとても悔しく辛かった。
だからロミイが反対するのを承知した上でティルにトレーニングを頼んだんだ。
戦いは嫌いだ。
ロミイが言う様に戦いを避けられたらどんなにいいか。
彼女にも心配かけないで済むし。
でもそう言ってられない。
ロミイは気にしてるけど。
俺を戦わせたくない彼女の表情がずっと辛かった。
ティルが言った。
「私が先制するわ」
しかし俺は制した。
「いや、俺が出る」
ティルは戸惑った。
「そんな、貴方は修行を始めたばかりじゃない」
「やりたいんだ」
ティルは何か言いたそうだったが俺の意を汲み引いてくれた。
俺はお礼を言った。
「ありがとう」
ロミイは不安そうだ。
ボスの男は言った。
「お前はこれまで何度も逃げ出したそうだな。逃げ足だけが取り柄か?」
「……」
俺は何も言い返さなかった。
ボスが言った。
「こいつは言い返す事も出来んらしい。おい、さっさと殺してやれ」
「はい!」
手下兵達が身構えた。
「よし!」
それに対し俺は体に思い切り力を入れた。
俺の額の左右に空と大地のマークがそれぞれ現れ、耳の後ろ上方と右手の甲に羽根が出来た。
「なっ!」
「あの羽根や紋章が出た時稲妻を降らせたと言う報告があります! 警戒した方が!」
これには敵兵たちも驚いた。
しかしボスは言った。
「構わん、やれ!」
「しかし」
「しかし何だ!」
「あのガキは雷を落とす能力を持っているとか!」
「構わんやれ!」
十人の手下に向け俺は指を前に出した。
「特訓の成果を見せる! エア・カッターの強化連射版を出す!」
渾身の力を込める。
ティルは止めた。
「ぶっつけ本番じゃない!」
「分かってる。失敗したら非常に不利になる。でもやるしかないんだ」
ティルはきゅんとしたような顔をした。
何だろう。
失敗したら力がなくなり兵に袋叩きにされる。
勝つとしたらこの技だけ。
だから全てを賭けてやる!
まぐれでも良いから成功してくれ!
「エアカッター・シャワー!」
正直全てをこれにかけた。
自分の命がなくなっても。
次の瞬間、ロミイと初めて特訓した時とは比べ物にならない無数の刃が手から生み出され発射され兵達を襲った。
刃の雨だ。
現世で言うシャワーみたいにつまり出口を小さく無数にするような原理なんだ。
一つ一つの刃は単発式より小さいけど。
「出来た!」
自分でも出来たのがびっくりする。
まぐれかもしれない。
兵達は騒いだ。
「何だありゃ、ぐわっ!」
無数の刃はあられのように兵の皮膚を切り裂いた。
鎧を切るのは無理なので皮膚を狙う。
まだ狙い撃ちは無理なので数で勝負する。
一発一発が凄く強いわけではないけど。
ティルが言った混血神は成長が四倍と言うのを初めて実感した。
ティルも驚いた。
「凄い。 特訓はしたけど予想をはるかに上回る力だわ」
兵達は毒の雨が降って来た様にわめいた。
ティルが特訓を遥かに上回っていると言ったけど、この力は厳密に言うと数日の彼女との訓練の成果ではない。
それは能力の伸びだけでなく覚えるスピードも四倍と言う事だ。
実感できた。
でもすごいエネルギーを使うんだ。
倒れるかも。
シャワーみたいな勢いで体の力が抜ける。
死ぬかも。
俺がずっと葛藤してきた事。
逃げるのが正しいのか。
逃げるしか出来ない無力さ。
ロミイとティルどちらの意見が正しいのかの葛藤。
正解はまだ出てない事。
ゼッツリオンに大敗した事。
ここ数日の苦しみ悩みを全て攻撃にぶつけているんだ。だから大量のエネルギーを消費してるのに苦しみが緩和された。
今度はあの子を守る。
そして同様に迫害されている神族を理想郷に連れて行く。
ティルは喜んだ。
「やったじゃない!」
しかし俺はもう疲労困憊だった。
撃ち終わり疲れがどっと出た。
俺はティルに言った。
「だがもうエネルギーがなくなった。立ってるのもぼろぼろだ。君のエネルギーを分けてくれ」




