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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

きょう初夢を見ました

作者: 壱原 一

きょう初夢を見ました。


年が明けてからこの日まで夢を見た記憶がありませんから、きょう見た夢が初夢だろうと勝手に了見しています。


自宅2階の8畳の和室で、押し入れの襖を見ていました。


右手に掃き出し窓があり、窓はベランダに続いています。


ありがたい冬の晴れ間、ここぞと恩恵に与るべく、家人を見送った後えっちらおっちら洗濯かごを運び上げた折。


掃除を怠りがちなベランダの、砂ぼこりにざらつく柵の一部に覚えのない歪みを見付け、やおら訝しく観察するや押し入れで音がしたのでした。


こそっ


それなりに奥行のある物が、奥の方の一点を支えに素早く僅かに移動した、瞬発力のある音でした。


厚着して屈んだ大きな人の、膝を抱えた肘から前腕が、不随意に跳ねてしまった音。


そう聞き留めて手からかごが落ち、同時に襖が開きました。


こちらの動きを見落とさぬよう目を大開きに血走らせ、歯を食いしばって顎を怒らせ、もうこうなっては互いのために手早く片をつけようと狙いを定めて握った刃物を振り上げる人が力強く跳び出して天を覆い、耳元で隙間風のように高く悲しげな鳥の声がしたと思ったら階段を転げ落ちていました。


痛いのなんの。感じた痛みに相応の青黒い内出血が待ってましたと言わんばかりに各所へ大輪を咲かせます。


火事場の力がすんでに死地を回避し、狼狽が足をもつれさせ、興奮が痛みを黙らせつつ未だ危機に瀕する己を台所のテーブル下へ滑り込ませました。


踏み板をぶち抜くのではと思われる勢いで厚着した人が下りてきます。


下りたところで佇んで、しっかり重心を制御した決意に満ち油断ない身のこなしで足をにじり、衣擦れの音は密やかに、呼吸は細く深く、冷静に澄まされた耳は重ねて抑えた両手から吹く荒く乱れた息の騒音をすぐに捉えたようでした。


下りた正面に続く廊下を真っ直ぐに進むと台所。開け放しのすりガラスの引き戸を通って左側を覗き込めば獲物が隠れているテーブルです。


息を吸おうと頑張る肺に息をさせぬよう頑張ると、肺は戸惑って異常を察し、息を止めるべき場面だと頭が理解していても、それとはまた別のルートで凄い警鐘を鳴らすものですね。


テーブルの天板の下、がら空きの頼りない隠れ家で、ガラスの引き戸の向こうからぬっと現れて歩み来る足をわなわなぶるぶると見詰めます。


息が苦しく、しかし潜めねばならず、頭の理解と肺の警鐘がせめぎ合って意識を朦朧とさせ、弛んだ(たが)の隙間から痛みと恐怖がはみ出して、ついに立ち止まり屈む予備動作にきゅっと強張る靴先を、靴を包むビニルのヘアキャップの皺や汚れや反射の映り込みまで見て取れるほど鮮明に覚知させます。


こんな初夢を見ました。


*


はっと目覚めるといつもより日が高く、いささか寝過ぎてしまったようで、階下で先に起きた家人が卵とベーコンとパンを焼きコーヒーを淹れてくれている香りと音が穏やかに柔らかく漂っています。


背伸びして起き出しカーテンを開け、寒さに身震いしながら気に入りのルームガウンを羽織ってベッドメイキングを済ませ、そそくさと階下へ下ります。


朗らかな朝日が満ちる中、良く寝ていたねと家人が笑い、みずみずしいサラダを添えた湯気の立つおいしそうな朝ご飯を食べようと示してくれました。


*


これが夢なら良かったのに。


顔が覗き込み手を伸ばしてきます。



終.

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