【ソフィ視点】「新訳・魔術体系」より
――この世界に存在する魔術は、大きく分けて二つ。
言葉で呪文を操り、そこに魔力を乗せることで精霊から力を借りる精霊魔法。
草木やそこから抽出された物質、鉱物や杖といったアイテムに魔力を乗せて、時には魔法陣の補助を受けながら、精霊や魔性の存在から力を借りる魔女術式。
どちらも使用者の性別を選んでいるわけではなく、魔女術式を使役する男性魔導士も存在していて、彼等のことは魔導師と呼ばれている。女性なら魔女。
精霊魔法の術士のことは、男女関係なく精霊術士と呼ばれる――
「どちらの魔術が良い…というのは無いが、その人ごとの相性はあるね。
精霊魔法は、精霊に嫌われたらもう使うことは出来ない。
精霊に好かれにくい人が、好かれそうなアイテムを身に着けて精霊術士になることもあるね。翡翠のネックレスを身に着けると、土の精霊に好かれやすくなったりね。
…まあ、お前ならどちらの魔術も使いこなせそうだね。精霊もお前のことを気に入っているみたいだ」
そう言ってムゥを見つめると、彼女はきらきらした瞳でこちらを見返してきた。
「でもお婆様。私はやっぱり、お婆様のような魔女になりたいわ!」
「…ムゥや。魔女というのは確かに、世間が忌み嫌うようなものでは無いが、かと言ってそこまで美化するようなものでもないんだよ。つまり、ただの魔術の体系の一つということさ。
どちらにする、と決めつけるものでも無いし、どちらも習得している者も少なくない。
お前も、可能性を自分で狭めるようなことはしないで、色々試してみたらいいんじゃないかい」
「なるほど…そうね」
ムゥは自分に言い聞かせるように両手を握りしめて、何かを考え込んでいるようだった。
「わかったわ! お婆様ありがとう!」
再びこちらを見て笑いかける彼女の瞳には、もう迷いは見られなかった。
…それで、私の説得は成功したと思っていたんだよ。
でも彼女の覚悟は、私の思いとは違う方向に向かっていたようだね…。
私はお気に入りの薬草茶を一口すすると、思わずため息をついた。
薬草茶の水面は静かに波をうち、そこに映った私の顔をかき消していった。