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見習い魔女は吟遊詩人に出会いました

ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい

ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩

リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い

セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意

ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢


アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢

マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役。魔導師

ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長

カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役


エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる

聖クラウディア教:エムロード王国建国の王を支えた聖女クラウディアの教えから生まれた。教会は王国内の各地に存在している。

王立魔術学校:聖女クラウディアが創設した歴史ある魔術学校。王都に存在している。

「私は嘘は()いていません」


 場所は変わり宿屋の部屋の中。

 マリウスは、アドルフに胸倉を掴まれながらいたって冷静な表情で彼を見返している。




 ――あれから。

 最初に泊まった宿の部屋にアドルフを連れて戻り、彼にこれまでの事情を説明した。

 アドルフは納得いかないようで、先程の怒りがまた再燃してしまったらしい。

 マリウスの胸倉を掴み上げて視線を合わせるようにして睨みつける。


「しかしあの手紙では『公女様の命は保証しない』と…」

「私が手を下すなんてどこにも書いていないです。それに、貴方が来ないと彼女の命が保証しにくくなるのは本当のことですから」

「~~~っ」


 しれっとマリウスが述べると、アドルフは悔しそうに歯嚙みした。

 そして更に言い募る。


「俺はてっきり、お前からの果たし状なのだと思って…彼女を守るために…!」

「そのようなことは、どこにも書いていませんね。来てもらう場所を指定しただけですよ」

「お前は…!」


 アドルフは私のことを心配して駆けつけてくれたらしい。

 その気持ちだけで十分だ。

 もうこれ以上争ってほしくない。私は彼の袖を掴んで止めた。


「も、もう止めましょう、アドルフ様。私はご覧の通り大丈夫です。

 …それに、アドルフ様は公務がおありなのですから、私を助けていただかなくても…」


 アドルフは私の顔を見ると、ゆっくりと息を吐いて掴んでいた手を緩めた。

 マリウスは服の首元を整えると、近くの椅子に座って言った。


「…ああ、そのことなのですが。

 助力が欲しいという理由もありますが、それ以上にアドルフ公子に直接来ていただきたい事情があったので、私がお呼びしたのですよ」


 マリウスの出した手紙によりアドルフが助けてくれるにしても、護衛を数名出してくれる程度だと思っていたので、正直驚いた。

 公爵家長男であるアドルフが公爵邸を留守にしてふらふらしていたら、将来の出世にも影響するのではないだろうか。


「マリウスさん、一体どのような言葉でアドルフ公子の助力を要請したのですか?

 まさか、自ら来ていただけるなんて思っていませんでした」

「秘密です」


 などと言ってマリウスは涼しい顔をしているが、アドルフの様子を見ると、穏便に呼び出したようには見えない…。


「全く、マリウスは時々こういうふざけたことをやってくるから油断ならない」

「一応、貴方に知らせずに彼女と旅を続ける選択肢もあったのですがね。

 彼女に命の危険があるのならば…貴方ならば、知らせてほしいだろうと思ったのですよ。アドルフ公子」

「それは…確かにそうだな。事情はわかったよ、感謝する」


 アドルフは、そんなマリウスの言葉で何故か納得できたようだ。

 そんな…もう私は婚約者でも無いのに、ここまでしてもらう義理はさすがに無い。


「アドルフ様、どうして…。私や、私の家から出来るお礼なんてそれほど無いというのに…」

「家など関係ない。俺は…! …いや。

 一度の婚約破棄で、これまでの歴史上の公爵家と伯爵家との繋がりが完全に切れたというわけでも無いだろう? 幼馴染であるお前の命を守れるのならば、これくらい何ともないさ」


 アドルフはやはり優しい方だ。そして、自身の正義に忠実に生きているのだろう。

 私は感激のあまり、思わず目頭を熱くした。


「アドルフ様…! お優しいのですね…」

「ムゥさん。人が行動する理由というのは、大概は下心がどこかにあるものですよ。

 見返りを求めない善意ほど、疑うのが賢明かと」


 マリウスは冷静にツッコミを入れてくる。

 彼は世間に慣れすぎてて、夢が無い発言が多いなぁ…もう。

 しかしアドルフは違うところが引っかかったようだ。


「おい待て。マリウスお前…しばらく見ないうちに何かあったか?」

「いえ? 別に何も」


 マリウスはいつものポーカーフェイスだ。

 何かあったかと言われれば、思い返すと結構色々とあったかもしれない。

 でも、彼のそっけない態度には変わりないはずだが…。


「そうか? 公爵家ではあれほど女嫌いで始終仏頂面か愛想笑いだけのお前が…。今は心なしか生き生きしているように見えるが」

「気のせいです。私は何も変わっていませんよ。

 まあ確かに…息苦しい公爵家での仕事に比べたら、今は少し楽しいかもしれませんね」

「マリウスさんも、あの時のお詫びと言いながら、ここまでずっと手を貸してくださっていますものね。

 お屋敷の仕事の方は………あっ」


 言いかけて、今の状況を思い出してはっと口を噤んだ。


「そう。カーネギーの動向がわからない以上、私も今は屋敷に戻りにくいのですよ。

 状況が落ち着くまでは、このまま手を貸して差し上げましょう」

「なるほど…ありがとうございます」


 そうして話が収まり場が和やかになると、「さて私達はこれからどうしようか?」「買い物に行くか」「ご飯はどこに食べに行こうか?」といった話題になってきた。

 するとやにわに部屋のドアがノックされて、部屋の中が静まり返る。


 宿屋では男性部屋と女性部屋で二部屋取ってあり、今は男性部屋に全員集合していて、若干狭苦しい。

 6人全員の顔を見渡してみても、誰も心当たりは無いようだ。


 お互いに目で合図しながら、代表してジルが前に出てドアを開けてくれた。

 そこにいたのは――


「こんにちは~。朝の噴水広場でショーを見せてくれたのは君たちかい?」


 アドルフに比べると柔らかい色合いの金髪はゆるやかに肩まで伸びて。

 鮮やかな緑の瞳は柔らかな笑みを浮かべていて、いかにも人好きのする雰囲気がある。

 ゆったりしているけど袖が絞ってあり動きやすそうな布の服に、リュートを抱えている若い男性。


(旅の吟遊詩人…?)


 吟遊詩人というのは本で読んだことはあるが、本物を見るのは初めてだ。

 興味深く彼を見つめていると、にっこりとこちらに微笑みかけて挨拶してきた。


「初めまして、お嬢さん。私は名も無き吟遊詩人――まあ、リックとでもお呼びください」

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