表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/44

公爵令息は怒っているようです

ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい

ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩

リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い

セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意

ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢


アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢

マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役。魔導師

ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長

カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役


エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる

聖クラウディア教:エムロード王国建国の王を支えた聖女クラウディアの教えから生まれた。教会は王国内の各地に存在している。

王立魔術学校:聖女クラウディアが創設した歴史ある魔術学校。王都に存在している。

 ――噴水広場の前で、対峙するアドルフとマリウス。

 周囲を野次馬達に取り囲まれ、それでも二人は言い争いを止める気は無いようだ。

 どちらかと言うと怒っているのはアドルフで、マリウスは冷静に諭しているように見える。


「マリウス…お前は昔から食えない奴だと思っていた。

 しかしこのような卑怯な真似をする奴だとは思っていなかったぞ!」


「ア………いえ、周囲の目もあるので、ここではアル殿と呼ばせてください。

 アル殿。貴方は、もう少し人の話を最後まで聞いた方が良いのでは無いでしょうか?

 私があのような手紙を送った事情というものを…。

 まさか、あの手紙の言葉を全て信じ込んでしまったのですか? 裏の意味を読み取れませんでしたか?」


「ええい! そういう回りくどいことをしてくるお前が、前から気に入らなかったんだ!

 それも今回は、寄りにもよって彼女を巻き込んでまで…!

 今度ばかりは許せん!

 良いから武器を取れ、ここで決着を付けてやる! 話はその後だ!」


 アドルフが剣をマリウスの方へ突きつけると、周囲から「いいぞ~!」「やれやれー!」などのヤジが飛んできた。

 この町の人々は、何でもいいから暇つぶしできるものが好きなのかしら?

 誰も騒ぎを止めようとしないことに、一人戸惑っていた。

 どうすればいいものかとおろおろしている私に、リリアがこっそりと耳打ちしてきた。


(なるほど、二人の諍いを止めるためには…。

 ここからじゃ人混みが壁になって声が届きにくいし、やってみる価値はありそうね!)


 私は人混みからいったん抜け出し、やや開けた場所を探した。

 その間にも、二人の会話は聞こえてくる。


「やれやれ…。私は、貴方を問答無用であの屋敷から引きずり出したかったのですよ。

 その理由が上手く説明出来ないものでしたし、時間も足りなかったもので。

 …そのために、彼女の名前を利用する必要があったのです。

 彼女に危害を加えるつもりはありません。

 それに…私は魔導師(ウィザード)ですからね。武器は持っていませんよ」


「何をごちゃごちゃ言っているのか分からんが…お前の武器はこれだろう?

 …ほら! お前の部屋に置いてあったから持って来た。これで正々堂々だな!」


 とマリウスに向かって投げた、布にくるまれた長いもの。

 反射的にそれをキャッチしたマリウスは、布を剥がすと瞠目してそれを見直した。


「これは…!?」


 布が落ちて出てきたものは、杖。

 年季の入った長い黒樫で出来たそれは、定期的に手入れをされているためか光沢がある。

 中心に大ぶりの翡翠が埋め込まれ、いくつもの蔦が絡みついている。

 存在感のあるその杖は、おそらくマリウスのものなのだろう。

 それを手にしたマリウスの表情に光が差す。


「アル殿………ファインプレーです。

 私はずっとこれが欲しかったのですよ…。お礼に、貴方の要望に応えて本気で闘って見せましょうか!」


 と薄く笑みを浮かべ、杖を手にして構え直すマリウス。

 彼の表情の変化に気圧され、アドルフも戸惑った様子を見せた。

 しかし、すぐに剣を構えて間合いを取る。…どちらも、今にも飛びかかりそうだ。


(もう一触即発だ…何とか止めないと!)


 胸元の木製の小鳥に触れ、『力の解放』を行う。

 すると、頭の中に閃く言葉が…!

(これは、あの時と同じ、『精霊の加護』…!?

 いや、迷っている場合ではない!)


 ――(はや)き風の精霊シルフィードの加護を受け、届かしめよ我が歌を――【拡声(ラウドヘイラー)


 そして私は叫んだ。

 その声が、マリウスの首元から提げているもう一つの小鳥から発声される。

 術の影響を受け、通常よりも大きな声で!


『お願いっ、私のために、争わないで!!』


 アドルフは、驚いてその場を飛び退く。声の出所がわからず、視線をあちこちに巡らしている。

 突然の大きな声に驚いたマリウスも後ろに飛びすさるが、次第に状況を把握できたようだ。

 彼にしては珍しく大きな声で笑った。

 そこで緊張の空気が解け、二人ともやる気を無くしたかのように武器を置いた。


(でもリリア…なんで、こんな恥ずかしいセリフにしなきゃいけなかったの?)


 周囲からどっと笑いが起きて私達も注目を浴び、一緒になってヤジを飛ばされる。

 そこでようやくアドルフは私の姿を見つけ、ポカンとした表情を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ