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【閑話】魔道教室③

ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい

ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩

リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い

セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意

ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢


アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢

マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役

ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長

カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役


エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる

聖クラウディア教:エムロード王国建国の王を支えた聖女クラウディアの教えから生まれた。教会は王国内の各地に存在している。

王立魔術学校:聖女クラウディアが創設した歴史ある魔術学校。王都に存在している。

 今夜のお婆様の夕食は、パンとサラダと野菜たっぷりのポトフだ。

 野菜に染みこんだお肉のうまみが、疲れた体に染みていくわ…。


 …と、魔術に関してはまだまだ気になることが多いので、更にマリウスに尋ねてみる。


「あの…私、まだまだマリウスさんに教えてほしいことがいっぱいあるんです。

 私を助けてくれた時に使っていた魔術品(マジック・アイテム)の作り方や、使い方とか…」


 マリウスはポトフのお肉をパンに乗せながらなだめるように答えた。

「昨日も言ったでしょう? 焦りすぎですよ。

 …それに、貴女は貴女の得意とする魔術や技を磨いていけばいいのだと思いますよ。

 私の真似をするのでは無くてね」


 得意なことと言われても…それすら分からない段階かなあ。

「うーん…私の得意かぁ…。何だろうなあ…」

「そこはまあ、追々とわかってくるものですよ。

 …ああでも、一つだけ、私と共有して欲しい魔術品(マジック・アイテム)があります」

「何でしょうか?」

「先日の事件でもお見せしたものですよ。詳しくは食後にお伝えします」


 ――皆が食事を終えて、テーブルの上が片付いた頃を見計らって、マリウスは件のアイテムを見せてくれた。


「ほら、これのことです」

「あっ、あの時の…」


 マリウスがテーブルの上に出したそれは、事件の時に役立った木製の鳥。

 様々な色の違う木を組み合わせた細工が施された、小さな鳥のオブジェが二つ。

 ころんと可愛らしい姿をしていて、『小夜啼鳥(ナイチンゲール)』という鳥なのだと教えてくれた。


「『伝声鳥』と勝手に名付けました。ある町で購入したこの鳥に、私の自己流で儀式を施したものです。

 この二羽で一対となっていて、魔力を込めて力を解放することで、もう一方の鳥へ声を届けることが出来ます。

 先日はあのような使い方をしましたが、魔力を込めることが出来る人間同士で分けあうことで、任意のタイミングで相手と会話が出来るようになります。遠く離れた場所でもね。

 相手が魔力を使えない人間の場合は、一方的に私の声を届けることだけなら可能です」


 そんな便利な道具、今まで聞いたことも無い。

 改めて説明してもらっても、仕組みが全く分からない。

「聞くほどに凄いアイテムですよね、それ。一体どうやって作ったのですか…」

手品師(マジシャン)のタネも、魔導師(ウィザード)のネタも、企業秘密という奴です。聞くのは野暮ですよ」


 やっぱり魔道の世界にはまだまだ謎が多い…。

 私は魔道の道の、あまりの先の見えなさに長い溜息をついた。

「なんだかずるいなぁー…。私も自分だけのアイテムを作れるようになりたいわ」

「まあ少しずつ理解を深めていけば、出来るようになるでしょう。

 このアイテムの『力の解放』を知ることも一つのヒントですよ」

「そうなんですか?」


『力の解放』という、耳慣れない言葉に思わず瞬きをする。

 マリウスは丁寧に解説してくれた。

魔術品(マジック・アイテム)の力を解放することは、術者以外にとっては些か困難なのです。

 儀式により魔術の力を込める時にどのような手法を用いているかというのは、術者しかわからないことですからね。術者の解説を受けたり、アイテムを詳しく調べて術の構成を読み取ることで、他人でも解放することが出来るようになりますが…基本的に『力の解放』は術者が行うものです。

 しかし、魔法店(マジック・ショップ)に売っているようなアイテムなら、誰でもその力が使える仕組みにしている物がほとんどですね」

「なるほど…」


 たしかに、お店に売っているものはお守りやお香、薬草茶(ハーブティー)の類だとお婆様も言っていたっけ。誰にでも使えそうなものばかりだ。


「…ということで、この『伝声鳥』の『力の解放』については私がお教えしましょう。

 解放の仕方の中に、『このアイテムにどのような手法で術を掛けたか』についてのヒントが隠されています。良ければ読み取ってみてくださいね。ふふふ…」


 マリウスはそんな無茶なことを言ってくる。

 彼もそれを理解しているのか、笑い方がなんだか意地悪だ。


「そんな、今の私には無理ですよ…」

「今はそうかもしれませんね。ですが、こういう経験が後に生きてくるものですよ。

 さあ、こちらへ」


 そう言うとマリウスは、私にその鳥を手に持たせて『力の解放』の手順について教えてくれた。

 それはやや複雑で…上手く説明も出来ない。


(確かにこれは…術者じゃない者が正解までたどり着くのは困難だわ…)

「…これで良いですね。あとは、この鳥に金具を付けてネックレスかブローチにでもしておくと便利かと思います。

 胸元に付けたまま、私と会話が出来るようになるでしょう」


 …と、セラは先ほどから何か気になることがあるようだ。

 手を挙げると、不安そうに尋ねてきた。

「なあ、それって…コイツと誰かが会話しているのを、お前がこっそり聞き取れるようになるのか…?」


 マリウスはかぶりを振って答える。

「いいえ。私が彼女と会話したい時には、まず私が『力の解放』をして声を彼女に届けます。

 それに応じて、彼女からも『力の解放』を行うことで、初めて彼女側の声が私に聞こえるようになります。

 彼女から私と会話したい時には、彼女の方から先に『力の解放』を行って私に声を届けていただければ、私がそれに応じます。

 会話を終了したい時の手順についても、彼女に教えておきました。それにより、双方の音や声を届かなくすることが出来ます。

 例えばですが、近くに敵がいると思った時には、すぐに会話終了させて話し声を聞かれないようにした方が良いでしょうね」


 すごい精密なシステム…。

 聞けば聞くほど、どれだけの手間暇や時間、苦労を重ねて作成したのかが気になる…。


「それは…すごく貴重なアイテムなんですね…。量産出来るものでは無いのですよね?」

「当然です。あの時も絶対に無くすまいと、使用後すぐに回収しました」

「そんな大事なものを私に…。あの、もし、無くしたりしたら…?」

「………」


 マリウスは、無言できらきらとした微笑みを見せた。

 その笑顔にかつて無い凄味を感じ、私は掠れた声で答えた。


「絶対に、無くしません…」

「そう願いますよ。貴女は今、命を狙われているという状況です。

 このアイテムが何かの役に立つこともあるかもしれません。

 ――まあ、無くした時にどのような代償を頂くかについては、ゆっくり考えておくことにしましょう」

 マリウスは冗談めかして笑いながらそう言ったが、実際そうなったら冗談では済まない事態になりそうだ…。


「ひええ…」

「大丈夫です! お嬢様が攫われたりしないように、私がお守り致しますから!」

 無くしてしまった時のことを思い恐れおののいていると、ジルが励ましてくれた。


「ありがとう…そんな事態にならないことを願うわ…」

 私を守るために貴重なアイテムまで預けてくれるってことだものね。

 私も自分の身を守る手段をもっと考えていこう!


 ありがたいやらプレッシャーやらで複雑な心境になりつつ、私は貴重なアイテムを預かって帰宅することにした。

 ブローチにして、胸元に付けておくことにしよう。


 帰り道で、セラが何やらブツブツとこぼしてくる。

「あいつがお前とおそろいの飾りを身に付けてるのって…何か癪だな」

「何言ってるのセラ…必要なアイテムなんだってば」


 今までの説明をずっと一緒に聞いていたというのに、セラは何を言っているのだろう。

 みんなそういうことを意識しすぎな気がするのだけど…。


「んなこと言って実はあいつも、内心喜んでたりして」

「そんな訳ないでしょ…早く帰って寝ましょう」


 そんなことを言い合いながら、マリウスの素っ気ない顔を思い浮かべた。

 彼がおそろいの飾りで喜ぶとか…無い無い。想像つかないわ。

 …でもこの小鳥は、なんだか丸っこくて可愛いのよね。

 そこは純粋に嬉しいかな。

 小鳥を見つめていると、自然に笑みが出てきてしまう。


(それにしても今後は、このアイテムでマリウスさんから必要な連絡が来るようになるのかな…?)

 これだけ便利なアイテムなんだから、使いこなせるようにならないとね。

 そんなことを色々考えながら、帰り道の月を見上げるのだった。

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