【閑話】魔道教室②
ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい
ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩
リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い
セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意
ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢
アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢
マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役
ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長
カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役
エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる
聖クラウディア教:エムロード王国建国の王を支えた聖女クラウディアの教えから生まれた。教会は王国内の各地に存在している。
王立魔術学校:聖女クラウディアが創設した歴史ある魔術学校。王都に存在している。
「――なるほど、貴女にとっての相性の良い精霊はおそらく…。
水、光、闇…といったところですかね」
マリウスは、瞑想中の私の様子から、精霊との相性を読み取ることが出来たようだ。
どうやっているのかわからないけど…周囲の精霊の雰囲気かな?
その結果が予想とは少し違っていたので驚いた。
「光と闇の両方ですか。ちょっと意外ですね」
「火と水とか、光と闇だとか、正反対の属性であるというイメージが根付いていますが、それぞれの精霊と貴女との相性がある、と言う話に過ぎませんからね。一方が相性良いなら、もう一方は悪いと決まっているものでもありません。
…貴女は精霊魔法よりも魔女術式を優先して学びたいとのことでしたが、基礎くらいは同時に学んでおいて損はありませんよ。魔女術式の儀式でも、精霊の力を請う場面は多くありますからね」
確かに、魔女・魔導師が精霊魔法も使える人が多い気がしていたが、そういう理由だったのね。
総合的に学ぶことで、魔女術式への理解も深められるということか…。
「なるほど…光の精霊魔法なら、【治癒】や支援系の術を覚えてみたいです。
実践で少しでも役に立てそうですから」
私も一応【火炎】を覚えてはいるが、先日の事件の時も、役立てる機会は全く見つからなかった。
支援系の術なら、すぐに皆の役に立てそうだ。
「そうですか…私は光の精霊の治癒魔術は覚えていませんね。あまり得意では無くて。
【治癒】の習得については、お役に立てそうに無いです」
「へえ…。マリウスさんと相性が良い精霊は何でしょうか」
「以前調べてもらった結果だと、地と闇と…少しですが火、だと思います」
先日の事件で、マリウスが使っていた術を思い返してみると、なるほどとなった。
「ふむふむ。個人差があるもんなんですね…」
「【治癒】くらいなら、今のうちに覚えておくと役立つだろうね。私が教えてあげよう」
「ソフィお婆様…ありがとう!」
「これからも役立てるように、うちの魔術書をいくつか持っていくといいさ。
攻撃するような術が載っているものでなければ、誰かに悪用されたりもしないだろう」
(お婆様の家の蔵書を貸してくれるなんて…)
お婆様からのこれ以上ない厚意に、私は感激した。
本は、読んで擦り減らしてしまってお終いにならないように、適宜書き写して保存していくしかない。
非常に貴重なものだ。旅の途中で無くしたり壊れたりしないように、大事にしなければ…。
これからの旅のことを思い、決意を新たにした。
「――では、次は基礎魔術の実践ですね。【治癒】を実際に出来るように練習していきます。
私の頬の傷が完治していないので、丁度いいからこれで試してみましょう」
「はい!」
「私も手伝うよ」
そうしているうちに、窓の外の陽はどんどんと傾き、差し込む西日が作る影は長さを増していった…。
「――はぁー、つかれたーー!」
…気が付けば、日はすっかり落ちていた。外はもう真っ暗だ。
「マリウスさん、ありがとうございます! こんな遅くまで…」
「いえいえ、私の指導によく付いてこれましたね」
「そんな…『手加減無し』って言うからどれだけしごかれるかとビクビクしていましたが…。
とても分かりやすくて面白くて、時間があっという間でした!」
実際、マリウスの教え方はすごく的確だった。
知識豊富な魔導師ということから、彼に対してやや偏屈なイメージを勝手に持っていたが、そういえばアドルフ公子の下で対外交渉の仕事も行っているんだったっけ。
「出来ないことを強要するのは指導とは違いますからね。貴女のやる気があるところを伸ばしてあげただけですよ。ちょっと教えたいことが多くて時間がかかってしまいましたが」
マリウスはふっと笑ってこちらを見た。
「貴女は元々精霊に好かれる才能がありますからね。努力次第で伸びしろは大きいことでしょう」
そんな風に褒めて伸ばしてくれると、なんだか自信が出てくる。
私がまだまだなのはよくわかっているし、これからも頑張ろう!
「二人とも、お疲れ様。このまま3人で夕食も食べていくかい?」
お婆様は、時折キッチンに出入りしながら、食事の準備も行っていたようだった。
奥からいい匂いが漂ってくる。
「いいの? ありがとうお婆様!」
「それも悪くはありませんが…」
マリウスが呟くようにそう言うと、やにわに家のドアを開けた。
「うわっ!?」
「どわ!? いててて…」
目の前のドアが無くなり、重なるようにこちらに倒れ込んで来たのはジルとセラだ。
「二人とも…ずっとそこにいたの?」
尋ねると、玄関口で倒れ込んだままでセラが答える。
「いや…さすがにそこまで暇じゃねえよ。
でも、暗くなっても部屋に戻ってこなかったら心配するじゃん。そしたらジルがそこにいてさ」
「ジルは…?」
「私は…お嬢様の護衛ですから」
ジルはどうやらずっとそこで控えていたらしい。気づかずに申し訳ない気持ちになった。
「そうだったの。ごめんね、一言言っておけばよかったわね」
「いえそんな…お嬢様の邪魔をせずにお守りしたかっただけですので…」
「まあ皆遠慮しないでお入り。夕食にするから、分けるのを手伝っておくれ」
「はーい!」
お婆様の一声で一斉に皆が動く。
皆で食卓を囲み、にぎやかな夜が更けていくのであった。