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伯爵令嬢は相談したい

ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい

ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩

リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い

セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意

ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢


アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢

マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役

ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長

カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役


エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる

聖クラウディア教:エムロード王国建国の王を支えた聖女クラウディアの教えから生まれた。教会は王国内の各地に存在している。

王立魔術学校:聖女クラウディアが創設した歴史ある魔術学校。王都に存在している。

「皆さん、これで集まりましたね」

 お婆様の家に4人で向かうと、マリウスとお婆様はそこで待っていた。

 昨日と同じように、全員でテーブルを囲む。お婆様が薬草茶(ハーブティー)を淹れてくれた。


「おはようございます。早速色々と話したいことがあるのですが…。

 まずは今後の方針でしょうか」

 と、私が口火を切る。マリウスは頷いてテーブルの上で手を組んだ。


「ええ。…貴女は、本当に伯爵家を出奔…貴族の地位を捨てるつもりでいるのですか?」


 改めてそう問われると、あの時の決心が揺らいでくる…。

 伴ってくる現実問題は山ほどあるので、あまり軽々しく言っていいことでは無さそうだ。

「うう、昨日はそれが良いかなと思ったんです。

 狙われる理由がわからないし、ただの一個人になれば関係なくなるかなって。でも、あの後みんなに反対されちゃって」

 薬草茶(ハーブティー)にハチミツを入れてスプーンでぐるぐるかき混ぜながら答える私。


「だって、一度捨てたものを取り戻すなんて出来ないのよ?」

「ただの一般人がどうやって金を稼いでいるのか知らないだろお前」

 リリアとセラが口をそろえて反対してくる。

 世間の厳しい現実を知らない私には、何も言うことが出来なかった。


「まあ…原因がわからない以上、慌てて地位を捨てるものでもありませんね。

 当面は身分を隠しているだけで様子を見ていても良いかと」

「そうですね。まずはその方針で両親に相談してみます」

(伯爵令嬢としての責務から逃げる私がどう言われるのか不安だけど…)

 不安は置いておいて次の話に行くことにした。


「次に…マリウスさんにお聞きしたいことがあります。

 先日、公爵家から帰宅する途中で私とリリアが馬車の中で襲われた方の事件ですが…。

 あの時捕まえた男たちからは話を聞けましたか?」


 最初に襲われた事件のことを尋ねると、マリウスは表情を曇らせて窓の外を見た。

 外は陰鬱な事件を忘れさせてくれるような緑の景色が広がっている。


「あの事件ですか…報告を受けていますよ。

 馬車の後部座席に座らせて全員帰宅し、公爵邸前で確かめた時には全員死体になっていたと。

 死体には、特に外傷は見られなかったそうです」

「それは…あの時と同じ…!」

「じゃあ最初の事件と、今回の事件は繋がっているってこと?」


 私はリリアと頷き合う。

 そして、セラから聞いた報告についてマリウスに伝えた。セラも一緒に補足してくれた。

 すると、マリウスは合点がいったように頷いた。


「なるほど…思い返してみれば、その話を聞いた時にもカーネギーは貴女の術のせいだと言って、私の疑心を煽っていたような気がします。やはり恐ろしい術を使う魔女だったのだと…」

 マリウスが最初、やけに私への敵意を持っていると感じていた原因が段々とわかってきた気がする。

 こうやって少しずつ悪い噂を立てられていたのか…。


「公爵邸へ行って、カーネギーさんの言動について質しにいくべきでしょうか? アドルフ公子とも相談して」

 そう提案してみると、マリウスはかぶりを振った。

「いえ、少なくとも今はやめておきましょう。

 証拠は無いし、貴女の味方が少なすぎます。せいぜい私がカーネギーに言われた事を証言する程度ですが…下手をすると私も一緒に教会への背信を問われてしまいかねません。

 機を待って、カーネギーがはっきりと悪事を働いている証拠が掴めればいいのですが…。

 襲ってきた男達の自供や目撃情報などの証拠になりそうなものは全部潰されています。

 魔道の力を借りずして、このようなことが出来るとは思えません」


「カーネギーさんは、魔導師(ウィザード)なんですか?」

「いいえ、違いますね。だからこそ不自然なのです。

 公爵家内部の人間で、魔道が使えるのは私くらいだと思っていたのですが…」

「誰かに操られているとか、そういう線はあるか? 魔術使ってさ」

 そう聞いたのはセラだ。

 魔道の力があれば何でも出来そうな気がしてしまうし、そういう想像をしてしまうわよね。

 マリウスも色んな可能性に思いを巡らせているが、結論は見つからないようだ。


「なるほど…不可能では無いかもしれません。

 あまり聞いたことの無い話ですが、誰かがそういう術を編み出していても不思議ではありません。

 …しかし操られているにしては、カーネギーの性格や言動が突然変わったという話は聞きませんね。

 カーネギーは昔から敬虔な聖クラウディア教会の信者で、その教えを守ることに過敏になっていました。今回も、その一環だと思い不自然には思っていませんでした」


 そうやって親身に考えてくれるマリウスを見て、気になっていたことを尋ねた。

「…それにしても、マリウスさんは私の方を信用してくれるのですか?

 あの時は、『これからの私の言動を見て判断する』と仰っていましたが」

「まあ、ね。最初は貴女とカーネギーとどちらを疑うか、両面から見てみようと思っていました。

 …ですがその後の貴女を見ていてわかりました。これは何も考えていない言動だなと」

「オイ」

 セラのツッコミは例のごとくしれっと受け流された。


「半分本当です。…あとの半分は、纏う精霊の雰囲気ですね」

「マリウスさんは精霊の声が聞こえるのですか? それはすごい才能だとお婆様から聞きました!」

「いえ、私も声と言えるほどでは無いです。時々、周囲の精霊の考えていることが何となく分かる程度ですね。

 精霊に好かれている人物というのは、雰囲気でわかるのですよ。貴女のようにね」

 マリウスは、お婆様と同じようなことを言ってくる。

 私もそうなんだとしたら、嬉しいな。

 マリウスの周囲から感じる精霊の気配を感じ、私も答えた。


「きっとマリウスさんも、そうだと思います」

「そうですか? お世辞でも嬉しいものですね」

「本当なのに…」


 と、まだ不安なことがあるので、私は話を切り替えた。

「…それで、この伯爵邸を出るとして、私はこれからどこへ向かうのが良いでしょうか?

 出来れば、移動しながらお金を稼いだり、生活手段も考えていきたいです」

「お嬢様がそのようなことを考えなくても良いように、私が頑張っていきます! ご心配なさらないでください!」

「あ、ありがとう…」

 ジルがそう言ってくれると、とても心強い気持ちになれる。

 一人じゃないということが、とても嬉しい。


「まあ金銭についてはゆっくり考えていきましょう。

 当面行くべき所はこちらで検討してあります。そのためにアドルフ公子に手紙を送りました。

 まずは私の言う場所に向かってください」


 マリウスの意外な言葉に、私は首を傾げた。

(どうしてここでアドルフ公子が…? マリウスさんの上司だから?)

「アドルフ公子が来てくれるでしょうか? 公務もありお忙しいでしょうに。

 婚約破棄したはずの、私のために…?」

「それについては心配ありません。ふふふ…」


 マリウスは、いつになくきらきらとした微笑みを見せた。

(なんだかマリウスさん、また変なことを企んでいる気がするわ…)


 今後のことを思い、私は窓の外を見てため息をついた。

 空は不安な心を知らぬかのように爽やかな青を見せていて、森の木々は日々緑を増してきていた。

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