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参謀役はわからせたい②

ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい

ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩

リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い

セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意

ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢


アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢

マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役

ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長

カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役


エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる

 ――(あつ)き地の精霊ノームの加護を得て、紡ぎ出せ大地の鎖――【束縛(フェッセルン)


 私が状況をつかめず戸惑っているうちに、彼は素早く術を掛けた。

 足の裏が地に張り付いてしまったかのように、そこだけ動かなくなってしまった。


「――さて、少々長いお話になりますので、公女様におかれましてはこちらに掛けていただけますか?

 汚いところで大変恐縮ではございますが」

 と、真後ろに椅子を用意してくれた。…心なしか慇懃無礼だ。

 足が疲れてしまうので、素直にそこに腰かける。


「マリウスさんは…私に怒っているのですね?」

「貴女様の方こそ、ご自分がどれほど罪深いことをなさっているのかご存知ないようだ。

 魔道というものは、そもそも聖女クラウディアとは切っても切れない関係なのですよ。

 魔女の名を汚すことは、聖女の名を汚すことと同義。

 聖女が、当初は魔女と称して迫害されていた歴史はご存知なのですか?」


「あの、ごめんなさい…私、歴史の授業は苦手で…」

 歴史というか、色んな授業をサボってきたツケが回ってきたようだ…。

 マリウスは大きくため息をつくと、片眼鏡の位置を直し、語り始めた。


「はあ…では最初からご説明しましょう。

 時代は約1000年前。エムロード王国建国の頃。

 聖女クラウディアはエムロード王国の初代国王と恋に落ち、彼のために力を尽くしました。

 彼女は精霊や妖精、様々な魔性のものと交信する術を身に付けていて、それにより様々な術を扱うことが出来たといいます。

 そして晩年には、超常なる力を持つ彼女は周囲の畏怖から謂れなき罪を被せられ、様々な方法で苦しめられた…と聖書に残されています」


(聖女様も、魔女のようなことをしていらっしゃったのね)

 ふと、お婆様の家の本棚の隅にある聖書のことを思い出した。

 少しはそんな話を読んだことがあるような気がする。


「彼女は王を愛すると同時に、彼の創った国も愛していました。

 国民を正しい方向に導くべく、学び舎を創り、教典を創り…。土地を開き、井戸を掘って水源を得る方法にも詳しかったといいます」

「きっと精霊の声が聞こえる人だったのですね…」

 非常に稀に、精霊の声が常に聞こえる人も存在するらしい。

 私はお婆様に『精霊の加護』があると言われたが、それでもごくたまに、直感として感じることがあるくらいだ。

 マリウスは頷いて続ける。


「ええ。彼女は持てる力の全てを、惜しみなく国のために尽くしました。

 それにより、確かに王国は栄えました。

 …しかしその常識を超えた力のために、恐れられて迫害される結果となったのです」

「なんてひどい…。彼女の想いは、王様には通じたのですか?」

「…歴史上は、王は違う女性を妃に迎えたとあります」

「そんな…」

「王や貴族の結婚というものに夢はありませんよ。

 当の二人がどのような思いでいたのかは、当事者以外には知る術も無いことです」


 聖女の哀しみを思い俯く私に構わず、マリウスは続けた。

「――王立魔術学校は建国当初に聖女が創設したものです。魔術学校の教育内容は、聖クラウディア教の教えと密接に繋がっています。

 貴女様は王立魔術学校に通っていなかったので知らないのでしょう。

 魔導師、魔女となる者が心得ていなければならないことを」

「それは、一体…?」


『力とは誇示するものではない。威圧するものでもない。ただ、愛を持って人を救うためのものである』


 彼は謳うように告げた。

「聖書にも載っている有名な言葉です。

 ――貴女は、きっとこの言葉も知らないのでしょう。

 だから、人々を脅かしたりするような真似が出来たのだ…。カーネギーから聞きましたよ。

 …魔女の力はいたずらに振るうものではありません。

 それにより生まれる周囲からの畏怖は、関係の無い別の魔導師・魔女を不幸にします。

 魔女には迫害の歴史がある。…決して見過ごせるものではありません」

 真っすぐに怒りに満ちた視線をこちらに向けてくる彼。


 …そこでようやく、私は先日のカーネギーさんとのやり取りを思い出した。

 あの時は、「たとえ誤解があっても、分かってくれる人がいればいい」と思い、必死に誤解を解くことはしなかったのだ。

 それがこのような事態を呼ぶことになるなんて…。


「そ、それは誤解です! 子供の頃に、遊びで魔女ごっこをやっていただけなんです!」

「…それはどういうことですか?」

 …私はすごく恥ずかしいけど、小さい頃にやっていた魔女の遊びを全部彼に伝えた。


「――というわけで、本格的に魔女の勉強を始めたのは最近なんです。

 今回の儀式も、杖の強化のために行っていたものです。

 力で誰かを脅かしたり、力を誇示したいと思ったことなどありません!」

「…なるほど、噂に尾ひれがついて、悪いように伝わってしまったようですね。

 しかし私の立場としては、その話を鵜呑みにするわけにもいきません。

 貴女の行動を見て、これから見極めていこうと思います」


 聞いてもらえないかと思ったけど、話が伝わったようでほっとしたわ…。

 私はこれまでずっと確認したかったことを彼に尋ねた。

「…マリウスさんは、教会の教えの元に、私を粛清しようとして攫ってきたのですか?」

「随分怖がらせてしまいましたね。教会はそんなことはしませんよ。

 たしかに、話し合いも持ちかけずに突然攫ってくるやり方は間違えていました。そこはお詫び致します。

 カーネギーがあまりにも貴女のことを悪く言うものですから、捕縛して投獄する必要があるものと思ってしまいました。

 仮にも魔女を名乗る者が不祥事を起こすとなると、教会の自浄作用の無さを問われてしまいかねませんもので。今回は私が先走ってしまった行いです。

 このお詫びに当分は私の力を――」


 ドガッ!!


 言いかけた彼の言葉は、後ろの扉を破られる音に遮られた。

 そして入ってくる黒服の男。ざっと6人くらい。

「おい、何故まだそいつが生きているんだ? 勝手に逃がそうというのか!?」

「え…??」

「お前たちこそ…私たちは彼女を捕縛すると言われていただろう! 何故殺す必要がある!?」

 彼は女神像を背にして彼らに向き直ると、動揺した様子で彼らに叫ぶ。

 本当に後ろめたいことは何も無いらしい。

 彼の手が私の肩を抱くと、足に掛けられていた術がふっと解けて私は彼の背後に隠された。


「けっ、知らないのかよ! なら…お前も勝手に死にな!!」

「公女様誘拐の実行犯は公女と共に死亡…これで配役はバッチリだな!」

 口々に勝手なことを言う男達。


「そうですか――」

 ゆらりと手を広げ構えの姿勢を取ると、マリウスの長髪が風も無いのにふわりと揺らめいた。

 彼の全身の魔力が活性化している徴候だ。


「本当の背信者はあなた方だったのですね…ならば制裁を下す!」


 その場の空気が彼の魔力に呼応して、ビリっと来る振動が私まで伝わってきた。

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