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参謀役はわからせたい①

ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい

ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩

リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い

セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意

ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢


アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢

マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役

ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長

カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役


エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる

 ――そこは真っ暗な闇。

 暗い暗い闇の底。

 何も見えない。ただ、話し声が聞こえる。知らない女性達の声。


「だからさー。魔女風情がなにいっちょ前に反抗しちゃってんの? 面白いねー」

「…ふん」

「おー怖ーい。エラーイ魔女様は、こんなものは何とも無いのよね?」


 ザブン!という水の音。

 何かが滴り落ちる音。


「ぐぇっ! …ゴホッ、ゴホッ…!」

「やだー。汚いものまき散らさないでよね。…返してあげる。ホラッ!!」


 どすっ。バキッ。グシャッ。


 ――いいや違う、これは夢だ。私のものでは無い。他の誰かが見ている夢。

 何故か視界には何も見えず、声や音だけが鮮明に頭の中に響いてくる。


(嫌だ、もう、こんなの、聞きたくない――!)

「やめてーーー!」

 そう叫ぶと、漆黒の闇が光に塗り替えられていくような感覚がした。


 ――気が付くと見知らぬ岩肌の天井が眼前にあり、目が覚めたということにようやく気付いた。

(今の夢はいったい…?)

 手は無意識に額を拭い、知らず汗をかいていた自分に気付く。

 私は簡素な木の寝台に寝かされていたらしい。身体の所々が痛む。

 どうやら長い時間眠ってしまっていたようだ。

 あれからどれくらい経ったのか…昼夜もわからない。


 そこはまるで洞窟の中のような、岩肌が剥き出しになった壁に扉が取り付けてあり、寝台やチェストが置かれていた。部屋を照らすのはランタンの灯り一つだけ。

 一人がなんとか寝起き出来るような狭いスペースで、もちろん窓は無い。

 扉は当然のごとく、鍵が掛かっている。


 …と、その扉がノックされた。でも私にはその扉は開けられない。

「はい?」

 と一応返事をしてみる。


「公女様。私です、マリウスです。…助けに参りました」

「マリウスさん!? 一体ここは…」

「話は後です。…こちらへ」


 マリウスに案内されて歩いて行くと、そこは天然の洞窟を利用して作られた住居スペースのようであった。分かれ道にはいくつか扉が設置してある。

 また、洞窟自体が細かく枝分かれしていて、構造の把握には骨が折れそうだ。

 マリウスは、迷うことなく道を進み…一つの大きな扉の向こうへ、私を案内した。


 ぎ、ぎぎぎ…。


 両開きの扉が軋んだ音を立てて開く。

 そこは、ちょっとした教会のようになっていた。

 机や椅子がいくつか並び、壁にはいくつも本棚が立ち並んでいて、奥の中央には小さな女神像が祀られている。

 洞窟の中ということもあって、まるで禁じられた宗教を隠れて信仰しているかのようにも見える。


「ここは…?」

 私の不安そうな表情で察したらしく、彼はこう説明した。

「ああ、怪しい宗教とかでは無いですよ。ここは聖クラウディア教会の、始まりの地です」


 ――聖クラウディア教会。


 聖クラウディア教とは、このエムロード王国中心に信仰されている宗教で、王国が興った際に王を助けた聖女クラウディアの教えが基礎となっている。

 王国建国から1000余年が経過し、現在の王国民ならば誰でも当然のように信仰している教えである。


 …それにしても腑に落ちないことが多い。

 何よりも、落ち着き払ったマリウスの様子が、一番不自然に見えるのだ。


「ここは一体、どこですか? 私たちは、逃げなければいけないのでは…?」

 今の状況がわからない不安と恐怖で、じっとしていられない私は、そう尋ねずにはいられない。

 そんな私を意に介さず、マリウスはにっこりと微笑んだ。


「いいえ公女様。貴女は逃げてはなりませんよ。――魔女の名を汚した責任からはね。

 本当の魔女の責務というものを教え………私が貴女様を助けて差し上げます」


 ――そして気付く。

 口角だけ上げた彼の瞳は、静かな怒りの炎に揺らめいていたことを。


 ――そこで思い至る。

 月長石(ムーンストーン)に居場所を探知する力を付与させてあるのなら、マリウスからはいつでも自分の居場所を把握できていたのだということを。

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