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伯爵令嬢はいよいよ儀式を行います

ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい

ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩

リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い

セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意

ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢


アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢

マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役

ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長

カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役


エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる

 今夜はついに満月の日。


 儀式の場所は前もってお婆様と相談した結果――

 近くの森の中でも視界が開けていて、小高い丘のようになっている場所を選んだ。

 ここならば、月が夜空の頂点にかかる頃には光が真っすぐ魔法陣に降り注ぐことだろう。


 魔法陣を描いたり、蠟燭を配置したり…。

 前もってやることが多いので昼間のうちに準備しておいた。

 後はお婆様から分けてもらったお香を焚いて、魔術書を参考に準備した呪文を唱えていくだけ。

「だけ」といっても…その長さは精霊魔法(ソーサリアン)の比ではない。

『杖』の儀式は比較的簡単なものだそうだが、それでも四半刻(さんじゅっぷん)くらいはかかりそうだ。


 …いや、精霊魔法(ソーサリアン)でも最高位の術にはそれくらい長いものがあるらしいと、話には聞いたことがある。

 あまりに長すぎて、実用に耐えるものでは無いだとか、魔力の消費が物凄いので唱え終わる前に倒れてしまうだとか…。


(いやいや、今はその話は関係ない。儀式に集中しよう)

「――ジル、セラ。こんな時間につき合ってくれてありがとう」

「私に遠慮など必要ございません。何なりとご用命ください!」

「もちろん付き合うぜ。こんな夜更けだし、近くの森とはいえここまで来たら、はぐれ魔物がいてもおかしくないくらいだ」

 今回は初めての儀式ということで、お婆様と、護衛としてジルとセラに来てもらっている。

 リリアは…この夜中に来てもらうのはさすがに申し訳なくてやめておいた。


「君はセラというのか。よろしく。…どこかで聞いたような名前の気が…」

「気のせいだな。よろしく頼む、ジルヴェスター」

 そんな彼らのやり取りには知らんぷりをしておいた…。


「魔物かあ…この森の辺りには出るの? お婆様」

 森にはちょくちょく出入りしているが、昼間の時間に、お婆様の家の近くだけにしているためか、危険な生き物には遭ったことは無い。

 …まあ、蛇くらいなら見たかな。


「野犬や狼なら時々見かけるよ。近所とはいえ、油断は禁物さね。

 夜中は、魔物や野生動物は気が立っていることが多い。夜行性の生き物は獰猛な奴らが多い。――満月の日は特にね。

 まあでも、お前は今回は儀式に集中しなさい。そんなに時間はかからないし、必要であれば私も護衛の彼らの援護をするさ」


「わかったわ…! ありがとう、皆。

 じゃあ、始めるわね…!」


 ――夜の静寂の中、遠くから野鳥の鳴く声が一声高く響いた。


 小高い丘の真ん中に描かれた魔法陣の端には蠟燭が立ち、小さな火が揺らめいている。

 月は、あと少しで頂点に差し掛かろうとしていた。


「―――…δɤζφ …δɤζ ɤζφ …εδɤεφ」

 魔術書を開き呪文を唱え始めると、うっすらと、魔法陣の文字が光を帯びてきた。

 さっきまで蝋燭が吹き飛んでしまいそうな風が吹いていたのに、魔法陣の周辺だけは何故か静まり、この丘周辺が「違う空気を纏った」ことに気付く。


(お婆様が言ってた『力の流れ』というのはこういうことなの…?)

 まるで、周辺の風の精霊たちが、息をひそめてこちらを見守っているかのようだ。


 呪文が上手く発音出来ているのかもわからない。唱えるのにも思ったより時間が掛かっている。

 でも、周囲の精霊たちにメッセージが伝わるように、真っすぐ前を見て集中しようと思った。


 長いようで短いような、永遠にも似た時間が過ぎ、用意していた呪文はようやく最後のページまで読み上げることが出来た。


「εδɤ εδɤεφ… … δɤζφ!」

 見えない力が、中央に集中してきているのがよくわかる。

 魔法陣の文字に光が満ち、杖が月の光と魔法陣の光とに包まれていった。


 ―――と、次の瞬間。

 フッと、蠟燭の火が一斉に消えたかと思うと、魔法陣全体を濃い霧のようなものが包んだ。

(!?)

 予想外の出来事に固まってしまう。

 魔法陣の光も消えて、周囲を照らすのは月の光だけ。

「セラ! ジル! どこ!?」

 私が叫んだことで、ようやく二人は異常事態に気付いたらしい。

「何だ…!?」「お嬢様っ!?」


 ――しかし、それは既に遅かったようで。

 私の口が柔らかい布に覆われると、どこかで嗅いだようないい匂いがしてきて…。

 私の意識はあっという間に闇の世界に沈んでいった…。

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