参謀役は伯爵令嬢とお近づきになりたい
ムーン・レナ・シュヴァルツリヒト:今作の主人公でシュヴァルツリヒト伯爵令嬢。魔女になりたい
ソフィア・ルーン・シュヴァルツリヒト:ソフィお婆様。主人公・ムーンの祖母で、尊敬すべき魔女の先輩
リリア・クライスラー:主人公の乳兄弟で姉のような存在。伯爵家の次期メイド長となるべく修行中。実は剣が扱えて強い
セラ:シュヴァルツリヒト伯爵家に仕える下男。黒猫に変身出来る。隠密が得意
ジルヴェスター・ファーレンハイト:シュヴァルツリヒト伯爵家騎士団の第一部隊長。熱血漢
アドルフ・ノア・ヴァイスシュタイン:ヴァイスシュタイン公爵家長男で主人公の元婚約者。正義漢
マリウス・リースベルク:ヴァイスシュタイン公爵家の参謀役
ルドルフ:ヴァイスシュタイン公爵家の騎士団長
カーネギー:ヴァイスシュタイン公爵家の相談役
エムロード王国:今作の舞台となる国。王子が3人、王女が2人いる
マリウスに促されて、私とリリアは応接室の席につき、挨拶をした。
「初めまして。ムーン・レナ・シュヴァルツリヒトと申します。
――マリウスさんも、カーネギーさんのようなお仕事をしていらっしゃるんですか? アドルフ公子のご親戚かと思ってしまいました」
「いえいえ私などそのような血筋では…。両親は商売で稼いだ者です。私が今の仕事に就くまでには学業や魔術を修め、様々な努力を致しましたが」
「魔術!?」
魔術という言葉にはつい反応してしまう。
「ええ、王都にある、王立魔術学校。あちらを卒業しました」
「すごい…私も、そこに通ってみたかったなあ」
私の生き方は親に決められていたので、専門的に魔術を修める道に入ることは出来なかったのだ。
「どのような魔術を学んでこられたのですか?」
「精霊魔法における四大精霊の基礎魔術は学びましたが、それよりも魔女術式を専攻していました」
「すごい…色んなお話を聞きたいです!」
ついそちらの話に夢中になってしまいそうな私を、アドルフ公子の不満そうな声が遮った。
「あー…自己紹介はそれくらいにして、そろそろ本題に入ってもいいか?」
「あっ…ごめんなさいア………アルさん」
つい先ほど、マリウスに決められた通称を初めて使ってみると、アドルフは不満そうに眉間にしわを寄せた。
「お前は…いや、いい。本題は、先日のお前の襲撃事件のことだ。
まずはその時の状況を詳しく聴きたい。帰還した護衛からの報告で大体把握しているが、一応な」
「ええ」
私は、分かる範囲で詳しく状況を報告した。
撃退に魔術を使用したことを伝えると、マリウスは驚きで目を見開いていた。
「【眠り】を…? しかしあれは…とすると…」
片眼鏡に手をかけて、なにやらブツブツと呟いている。
アドルフは、私の話を聞いた後にこう告げた。
「なるほど。お前の話を聞いてやはり確信したよ。
この事件はただの窃盗目的の襲撃じゃない。狙われているのはお前だと思う」
「やっぱり…。…狙われているのは、私が、公子の婚約者だと思われているから?」
言うと、アドルフは苦しそうな表情になった。
「わからない…今まで、公爵家の婚姻相手が狙われる事件なんて起きたことは無かった。
でも、それ以外に原因が思い当たらないんだ。
それに、原因はどうあれ、お前がまた狙われる可能性があるということだ。
早いうちに、婚約破棄のことは周囲に伝わるように手配しておく。
公爵領だけでなく、国内全体に伝わるように。…それでも、お前の身に何が起こるかもわからない。
――どうか、くれぐれも気を付けてほしい。それを伝えたかった」
「ええ、私ももしやとは思っていましたが、公子のお言葉ではっきりと理解しました。
身辺に気を付けて行動していきます。ありがとうございます」
そう伝えると、二人は立ち上がって帰宅の準備を始めた。
ふと、マリウスがこちらを振り返った。
「――ああ、そうでした。公女様、こちらのお守りをお持ちください。
特殊な波動を持っている石です。あなたの身に何かあった時には、石の波動を頼りに居場所を割り出すことが出来るでしょう」
と差し出した石は白く、柔らかく青白い光を出しているように見える。
ネックレスに出来るように鎖が取り付けてあった。
「綺麗…ありがとう。…何の石かしら?」
「月長石…貴女に、月の力の加護がありますように」
彼は居住まいを正して一礼すると、優雅にその場を辞していった…。
(貴族じゃないと言ってたけど…なんとなく育ちのいい雰囲気のある人だわ…)
彼の後姿を見送っていると、アドルフもその後に続いた。
「それではな。――なあ、ムーン」
「はい?」
「俺は、まだ俺の道を諦めてはいない。…いつか、お前にもそれを認めてもらえるように頑張るよ」
と、顔を上げて言った。その顔は、いつになく清々しく見えた。
こちらの返事も待たず、彼はさっと振り向いて背中を向け、歩き出した。
二人は、私のことを心配してわざわざ来てくれたんだ…。
感謝の気持ちでいっぱいになり、彼らの後姿を見送った。




