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心のままに  作者: 長津九季
3/8

決意を込めて

その日のうちに3人はグループラインを作った。グループ名は「訳あり軍団A」。いろいろとある3人と名前をイニシャルにするとAから始まるから「訳あり軍団A」となった。

 LINEの最初のやりとりは学校内での過ごし方から始まった。

「まず基本的に学校では関わらないこと。」

「なんで?LINEのグループを作るくらいなんだから喋っても良いんじゃないの?」

「彩、私と明菜が喋ってるの見たことある?」

「ないけど。」

「白い目で見られてる同士がやりとりしてたらもっと面倒なことになるから。学校の外かLINEでやりとりすること。」

「わかった。そうする。」

「それ以外は普通に過ごしても大丈夫だから。」

「もう一個忘れてるよ。他言無用だと思うけど、このグループのことは口外しないこと。」

 次の日から訳あり軍団Aの日常が始まった。LINEで話した通り、挨拶程度しか話さず、どうしても話す時は苗字にさん付けだった。相変わらず3人はクラスで浮いた存在で、休み時間は孤独だった。しかし、そんな腫れ物にやすやすと触れてくる人間がいた。

「悪人同士で仲良くしたらいいじゃない。」

 ある日クラスのリーダー格の女子の矢沢春香が取り巻きと一緒に明菜をからかった。

「なんで?」

 明菜は携帯を触りながらぶっきらぼうに質問した。

「お似合いだから。」

 明菜は睨みながら静かに答えた。

「あっそう。言いたいことはそれだけ?それとも、私ともっとお話ししたいのかな?」

「あんたと話したって耳が腐るだけだわ。ここの空気が悪くなるから、厄介者はとっとと出てってくれない?みんなもそう思うよね?」

 クラスのものは誰も同調はしないが、反論もない。関わりたくないのは明白である。

 彩はどうしようかと考えていると携帯が震えた。LINEの通知で明菜からのメッセージだった。

「2人とも挑発に乗ったらダメ。」

「教室から出た方がいい。」

 明菜は彩と葵に飛び火しないよう避難することを促した。

 メッセージ通りにしたのか葵は教室から出ようとした。

「潔く出てってくれるんだ。助かるわ。」

「トイレに行くだけだから。」

 葵は普通に答えたが拳を強く握り締めているのを彩は見逃さなかった。

 しばらくすると彩は自分に視線が集まっていることに気づいた。

「何?」

「あんたは出るの?出ないの?どっち?」

「いや、どっちって言われても?」

 彩が返答に困っていると矢沢は近づいて胸ぐらを掴んだ。

「あんたのせいでここに死人が出たらどうするの?またどこかに逃げるつもり?そうなる前にさっさと消えろって言ってるの。」

 すると矢沢の頭に水がかけられた。葵が矢沢の頭に水をかけたのだ。

「何するのよ?」

「耳が腐るのが嫌なんでしょ。だから綺麗にしてあげようとしたの。感謝してほしいくらいだわ。それにあなたこそ桐島さんや富永さんや私を晒し者にして死んだら、あなたはどうするつもりかしら?」

 葵は彩にハンカチを渡した。

「ごめんなさい。少しかかったよね。私ので良かったら使って。」

「ありがとう。あお、北河さん。」

 咄嗟に名前で言いそうになったが、苗字に直した。

「そろそろ授業が始まるから用意したら?」

 葵がそう言うと全員各々の席に戻った。矢沢は不服そうな顔していたが、何も言わず教室から出た。

 学校から少し離れた河川敷で3人は川を見ながら今日一日を振り返った。

「葵。ありがとう。ハンカチはちゃんと洗って返すね。」

「いつでもいいよ。何なら、もらってくれて全然構わないから。」

「それはダメだよ。しっかり恩は返さないと。」

「律儀だね。彩らしいけど。」

「そういう明菜こそLINEでわざわざあんなメッセージ送って。心配してくれたんだよね。」

「そうよ。悪い?」

 不機嫌な顔をしてそっぽを向いた明菜を見て、葵と彩は笑ってしまった。

「素直じゃないね。」

「心配してくれたならそう言えばいいのに。」

「学校内だから言えなかっただけ。」

 心配してることを否定しなかった為、明菜は彩と葵を大切に思ってることを認めたことになる。

「ねぇ、今度の休み。3人でどこかに出かけない?」

「悪いけどパス。」

「同じく。」

 彩の誘いを2人は速攻で断った。

「えー?なんで?何か予定でもあるの?」

「今こうして会ってるところ、誰かに見られたら嫌なのに。休日にも会ってリスクを増やしたくないから。」

「私も明菜と一緒。気兼ねなく3人でいられたら良いけど、そうはいかないから。」

 2人が断る理由を聞いて彩は理解した。というより最初からわかっている。しかし、せっかくできた友達と仲良くしたい。前の学校でできなかったことをこの学校では実現させたい。

「夏休みになったらどう?」

「夏休み?」

 葵が聞くと彩は目を輝かせながら頷いた。

「うん、夏休み。他のみんなはどうせ受験でしょ。帰省する人も少ないから3人で会うところを見られる心配も少ないよ。」

 葵と明菜は少し考えた。確かに彩の言う通り自分が受験することは考えてなかった。高校は仕方なく通ってるだけだから、この先がどうなるか考えたこともなかった。しばらくすると葵が手を上げた。

「賛成。どうせ大学なんて行かないし。行ってまでやりたいこともないからみんなが忙しくしてる間に3人で楽しもうよ。」

「だったら私も行こうかな。1人だけ行かないっていうのはナシなんじゃない。」

「じゃあ決まり。あと2ヶ月ほどで夏休みだからどこに行くか考えといてね。」

 夏休みに友達と旅行。ついこの間まで仲良くできるとは思ってなかった3人も今では普通の女子高生に戻ったような感覚だ。彩だけではなく、葵も明菜も内心旅行を心待ちにしているみたいだ。

 旅行に行くと決まった1週間後。彩はバイクに乗っていた。前の学校で紗奈の趣味がバイク乗りであり、便乗して免許を取得し、バイクを買ってもらったのだ。パーキングエリアで飲み物を買いながらスマホを触っていると横に黒いバイクが止まった。若干黄色の自分とは違い相対するなと思っていると運転手がヘルメットを取った。なびかせた髪から見えた顔は明菜だった。

「明菜?」

「彩じゃん。もしかしてって思って隣に止めたけど、正解だったみたい。」

 明菜はバイクに乗った彩を見つけてわざと隣に止めたのだ。明菜は彩のバイクをまじまじと見つめていた。

「ホンダのCB400。渋いの乗ってるじゃん。」

「明菜だってハスクバーナのSVARTPILEN401じゃん。かっこいいの乗ってるよ。」

「ご名答。よく乗るの?」

 明菜はウエストポーチからタオルを出し車体を拭きながら彩に聞いた。

「前の学校でバイク好きな子がいて、その子の影響。」

「それって、もしかして自殺させた紗奈ちゃん?」

 彩は静かに頷いた。明菜は軽くため息を吐くと自分のバイクにもたれた。

「ここでも共通点を見つけるなんてね。私のコレも母の影響。私が小さい頃、よく2ケツしていろんなところに連れてってくれた。自分でも行きたいと思って無理言って免許取って、バイトして必死に貯めたお金で買えたんだけど、あいつがコレ売ってお金に換えようとしてたから知り合いにこっそり預けてもらってたんだ。で今日取りに行ったってわけ。」

「じゃあ、実質試運転?」

「というよりかはメンテナンス明けの試し乗りかな。結構経ってたけど、まだまだ動かせるよ。」

 他にも共通点が見つかって彩は少し嬉しかった。あと1人ここにいれば勢揃いなのに。

「あと葵も持ってたら、夏休みはバイクで旅行しようとか言えたのになぁ。」

「葵。バイク持ってるよ。」

「え?葵持ってるの?」

「うん。なんなら引越しの初日、葵だけバイクで来たところ見てるよ。」

 これで3人勢揃いだ。夏休みは3人でバイク旅行が計画できる。そう思った彩はLINEで計画を持ち上げたが葵の返信は。

「嫌だ。バイク旅行なんて私は却下。」

「えー。せっかく3人揃ってるんだよ。」

「彩の言う通り、ここまで揃ってるのはなかなかないと思うけど。」

「どうしてもバイクでって言うなら私はパス。だいいち私の持ってるバイク、もう動かないし。」

「どういうこと?」

「どうもこうも、もう動かしてないからバッテリー上がっちゃってるの。だいぶ古いタイプだからちょうど捨てどきだったかもね。」

「バッテリーくらいだったら私直せるけど。」

「結構。明菜の気持ちだけ貰っとくよ。」

 こうして3人でのバイク旅行はトンズラになったはずだった。

 翌日の深夜。一台のバイクが空いている道路を走っていた。そのバイクが十字路をそのまま突っ切ると別のバイクが追いかけてきた。運転手も気づいたらしくミラーで確認するも顔はメットで覆っていて見えなかった。煽ってくる様子はないが、ずっとつけられて気分が悪い、仕方なくバイクを路肩に停めると追いかけてたバイクも追い越して目の前で停まった。

「こんな夜更けに人の尾行?良い趣味とは言えないけど。」

「ツンデレさんの本音を聞くにはこれしかないと思って。」

 お互いにメットを取るとやっぱりと思うような表情をした。

「もしかして夕方のLINEの件で追いかけたの?明菜。」

「彩の気持ちを考えたら推し進めたいとは思わない?葵。」

 明菜は葵が運転するとわかっていた。ロイヤルエンフィールドMeteor350Stellarで葵が今の家に来たのを明菜は見ていた。

「あの時と変わらない。多少ボロくはなってるけど、まだまだ走れるじゃない。」

 葵はメットを持ちながらバイクを見ていた。そしてぼそっと呟いた。

「メンテなんてできないよ。免許は持ってても、これお父さんのお下がりだし。」

 葵は自分の父親がバイクに乗ってる姿を見て免許を取りたいと思った。

 無事免許を取ると倉本稔は自分のバイクを彩に上げた。喜んだ葵だったが、その2ヶ月後、まさか今の所に避難するための手段に使うとは思ってもいなかった。

「だったらメンテしてくれるところに行って頼めばいいじゃない。」

「そんなお金ない。今走らせているのも昨日の話を聞いて、無事かどうかの試運転。問題ないからって行く気にもならない。」

「そう。残念だわ。」

 明菜は呆れるとバイクに跨ってメットを被った。

「そうそうひとつ言い忘れたけど、」

 被ろうとしたメットを置いて葵の方を向いた。

「明日の放課後。私と彩の2人で名神高速を少し流すつもり。気になったら来てね。16時、最初のパーキングエリアで待ち合わせ。じゃあおやすみ。」

 そう言うと明菜はそそくさと帰ってしまった。葵の返事も聞かずに。

 翌日。この日は目立った嫌がらせもなく平和な1日だった。授業が終わると彩はそそくさと足早に帰って行った。

「ただいまー。」

 そう言って返事をしてくれる人はいない。両親は共働き、と言っても父は地元の中小企業に転職し、母はコールセンターの仕事をして帰ってくるのは夜遅くになることもザラである。しかし今の彩にとってはそんなことは気にしてはいない。自分のせいでこんなことになってもちろん申し訳ない気持ちでいっぱいである。ただ、転校して初めてできた繋がりを大事にしたい。

 バイク用の服に着替えてキーを差し込むとエンジンの音が聞こえる。

「よし。行くか。」

 彩は名神高速に向かってバイクを走らせた。

 15時52分。彩はバイクを止めたがまだ明菜のバイクは停まってなかった。LINEでは20分くらい前に今から行くとメッセージが来ていた。相変わらず葵は既読スルーして返信もしてくれなかった。

 (やっぱり葵は来ないのかな?)

 少し寂しいと感じていた彩だった。気がつくと隣に渋めのバイクが停まっていた。運転手がこちらをじっと見ている。停まっているバイクは明菜のではない。彩が固まっているとメットの中から笑い声が聞こえた。

「その顔。転校初日以来だよ。」

 そう言うと被っていたメットを脱いだ。その人は葵だった。

「葵?なんで?」

「何でって、しつこく誘ってきたでしょう。3人のグループでいつ出発したかもご丁寧に送ってきて。それに、」

 葵が後ろを振り返るとバイクが1台停まった。明菜のバイクだ。

「しつこく付き纏ってくるから乗ってあげただけ。」

「バイクだけに?」

 メットを脱いだ明菜はニヤニヤしながら冗談を言った。

「明菜。馴れない冗談は言わない方がいいよ。」

「ひどいな。せっかく場を和ませようとしたのに。」

「クラスで1番静かな人が変なシャレを言うと余計に気持ち悪いわ。」

 明菜と葵が軽口を言い合ってるのを見て彩は2人の間に飛び込んだ。2人は驚いたが彩が笑顔なのを見て自然と微笑んだ。

「これで3人揃ったね。」

「次は夏休みかな?」

「そんなに空けなくていいんじゃない。」

 3人は笑いながらお互いのバイクについて語っていた。その瞬間をカメラに撮られていると気付かずに。

 彩、葵、明菜の3人は名神高速を流して途中で折り返して帰路に着く。

「明日から普通に通うこと。今日のことは3人の秘密ね。」

「言われなくてもわかってるよ。」

「せっかく共通の趣味ができたのに。なんだか寂しいな。」

 彩がそう言うと葵と明菜は笑顔で去っていた。言葉にはしないが今日が楽しかったのは一緒なのだろう。彩はそう思うことにして家に向かった。

 翌朝、学校に着くと教室の前に人だかりができていた。なにやらざわついていた。

「本当なの?黒板に書いていること。」

「らしいよ。類は友を呼ぶってのはこのことなんだな。」

「似たもの同士でお似合いじゃない。」

 人だかりが彩に気づくとモーゼの十戒のように道を開けてくれた。少し気まずい思いをしながら教室に入ると黒板を見て絶句する。

 黒板には彩と葵と明菜が集まっている写真が大量に貼られていた。

「何これ?」

「何って、あなたたちでしょう、これ。」

 振り返ると矢沢が笑いながら近づいた。

「私たちを晒しものにして楽しい?」

「ええ。これで退学になる口実ができたでしょう。感謝してほしいくらいだわ。」

「私たちがあなたたちに何かした?後ろめたいことがあるのは事実だけど、やり直したくてここに来たの。それの何がいけないの?」

「ここは問題児の更生施設じゃない。厄介者は去ってほしいの。わかる?」

 すると葵が来て黒板に貼ってある写真を必死に剥がしている。

「北河さん。」

「わかったでしょう。会ってることがバレたらどういう目に遭うか。私たちの関係は今日でお終い。」

 葵は彩に向かって微笑むと残ってる写真を剥がしに行った。

「葵、」

 気づくと葵が届かない写真を明菜が剥がしていた。

「よく撮れてるじゃん。コソコソせずに堂々と撮ったらいいのに。」

 明菜は写真を見ながら軽口を叩いた。彩が来る前からクラスにいた2人は慣れっこのようだ。

「何で?何でこんな仕打ちを受けるの?」

「桐島さん。それは愚問だよ。私たちは、」

「後ろめたいことがあるのはわかってる!でもだからって仲良くしたらダメなの?」

 彩はクラスメイトに泣きながら訴えた。

「私と葵と明菜が曰く付きだから?人から白い目で見られるのは当然だから?SNSでバレたくないことバラされて、散々叩かれて、マスコミの格好の餌食にされて、それなのにまだこんな思いをするなんて、もううんざりだよ。」

 彩は膝を着いて顔を伏せてしまう。それでも涙が溢れているのはわかった。

「彩。大丈夫だよ。」

 葵が背中をさすってくれる。いつのまにか苗字ではなく名前で呼んでいた。

「人殺しておいて被害者面?何それ?ウザいんだけど。」

 矢沢が彩に向かって吐き捨てると葵は睨んできた。

「それ以上はやめて。彩は私や明菜みたいに心が強くない。」

「は?」

「彩は心が強くないから過ちを犯した。反省しているのは十分伝わってる。私や明菜はひと足先にこんな仕打ちを受けているけど、彩は転校してまだ日が浅い。だからこれ以上、彩を傷つけるのはやめて。」

 葵の必死の訴えも矢沢には効かないようだ。それどころか周りのクラスメイトはみんな矢沢の味方をしてるように見えた。

「どうこれがこのクラスの意見。それでも文句があるなら言ってみなよ。」

 するとパシッと乾いた音がした。明菜が矢沢の顔をビンタした。

「何するのよ!」

「文句があるからしたの。彩のおかげで目が覚めたわ。私たち3人が仲良くしちゃいけないなんてルール、どこにもないもの。」

 明菜は剥がした写真を堂々と見せつけて宣言した。

「私たちは、この写真に写っているとおり、大の仲良しだから。ここに写ってるのは真実だからバカにしたければどうぞ。でも、私の友達を傷つけるならそれ相応の覚悟を決めておいてね。私は彩と違って加減ができないから。」

「私も。彩と明菜にひどいことをする人間は誰であろうと許さないから。」

 明菜と葵が強く宣言すると彩は立ち上がってクラスメイトに強く言い放った。

「私たちはどんなことがあっても絶対に負けない。何度踏まれても絶対に折れない。訳あり軍団Aを舐めないでよね。」

 彩の宣言にクラスは笑っていたが、今の3人には痛くも痒くもなかった。

 この日から3人は学校内でも行動を共にするようになった。白い目で見られるのは変わらないが、もう気にする必要もない。批判の目にも負けない程の強い絆を彼女たちは持っているのだから。

 そして季節はあっという間に夏休み直前となった。

 3人はバイク旅行の打ち合わせをしていた。

「どこがいいかな?せっかくだから東京とかにしない?」

「だったら私、夢の国に行きたいな。」

「いいね。そうする?」

 彩と葵が盛り上がってるのをよそに明菜は黙っていた。

「明菜はどこに行きたいとかある?バイクで行ける範囲がいいんだけど。」

「東京。」

「東京?」

 明菜は頷くとスマホの画面を2人に見せた。

「地球信仰の会、解散か?だって。」

 地球信仰の会は明菜の母親が幹部をやっている宗教団体である。霊感商法の裁判中のはずだが。

「裁判に負けそうになるから証拠を揉み消そうとしているのかも。そうなる前に潔く罪を認めるように説得がしたい。」

 明菜は2人に頭を下げた。

「私のわがままに2人を巻き込む訳にはいかない。せっかく企画してくれたのに申し訳ないけど、夏休みの旅行はまた別日に埋め合わせするから。」

 すると彩が明菜の肩に優しく手を置いた。

「どこにいたって私たちはずっと一緒だよ。」

「彩、」

「それに東京に行くなら私もケジメをつけなきゃいけないと思う。」

「もしかして謝りに行く気?イジメで自殺させちゃった子の家族に。」

「うん。前々から考えてたんだ。自分だけ逃げてのうのうと暮らしているなんておかしいって。明菜が母親とケリをつけるなら私も自分の罪に向き合わないとダメなんだって思ったの。だから決めた。私も東京に行く。」

 彩は明菜に握手を求めた。明菜は困った顔をしてたが、彩の曇りのない笑顔に安堵したのか握手を交わした。

 するとその上から葵が手を重ねた。

「なら私も。留置所にいるお父さんに会いに行く。」

「会ってどうするの?」

「どうもしないよ。近況報告とか2人のこととか。でもやっぱり1番は自分のことだけ考えてかな?お父さん、捕まる直前まで私のこと心配してたから。」

 3人は頷きあった。互いの目的が決まりそれぞれの抱えてるものに向き合う覚悟を決めた。3人は新たな決意を胸に、旅を始める。


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