プロローグ
名古屋拘置所。桐島彩と富永明菜は面会室にいた。しばらく待っているとアクリル板の奥にあるドアから北河葵が現れた。葵は暗い顔のまま椅子に座った。
「葵、元気?」
彩の問いかけに葵は無言のまま頷いた。
「心配しなくていいよ。裁判が終わるまでの辛抱だから。葵は無罪で外に出れるから。」
葵は無表情で彩を見ると唇の片方だけ上げ、呆れたような笑みを浮かべた。
「そんな慰めはいらないよ。どう励まされても私が人を殺したことに変わりはないし。結局、私も人殺しの血筋だったってわけ。ほら蛙の子は蛙って言うでしょう。それだけのこと。」
葵は自分が実刑の判決が出ることを受け入れるようだ。
「葵。あなたは確かに人を殺した。そのことに変わりはないよ。」
「明菜!」
「でもね、こうなったのは全て私のせい。だから、葵は何も悪くないし、何も背負う必要もない。」
明菜なりの励ましだろうか。葵は数回頷くと明菜の方を見た。
「そうね。明菜が計画した旅だもんね。そう考えたら明菜のせいかもしれない。」
「葵。そんなこと言わないで。」
「でも私が人を殺したことを明菜は望んだ?」
明菜は下を見ながら考えると小さい声で返事をした。
「少なくとも私と彩は助かった。」
「私も葵のおかげでこうして会うことができる。葵が助けてくれたからこうしていられるんだよ。」
葵は何も返さず、看守に面会の終わりを告げる。
「待って!葵!」
彩が葵を呼び止めた。
「私たち待ってるから。葵が出てこれるまでずっと待ってるから。訳あり軍団Aはずっと健在だから。」
彩が言い終わると葵は面会室から退室した。訳あり軍団Aは彩、葵、明菜の3人のグループラインの名前だ。この3人はそれぞれ後ろめたい過去があったのだった。