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閑話、例えば。

作者: セロリ

彼女に捨てられてからというもの、喫煙量が目に見えて増える日々だった。気がつけば紅白の箱が行儀よくテーブルに並んでいる、なんてことがよくあった。未だにベランダに出て吸う癖が抜けきらずにいるが、これはこれで部屋が汚れずに済むからいいか、とも思う。

そんな俺だが、煙草の他に最近はドラマにハマっている。中でも、

ブスクで配信されているものがとても面白くてついつい観てしまう。題材は、主人公である平凡な男女の性別が突然反転してしまう、という一昔前に流行ったアニメ映画の影響か、最近はありとあらゆる場所で見れる題材になっているのだが、演者の技術が素晴らしく、また、性別が反転していることは本人たちにしか分かっておらず、周囲の人間は、「人間関係は変わらないが、主人公が元々その性別であった」かのように接してくるのだ。まるで主人公がパラレルワールドに飛ばされるかのようなこの設定のお陰で、男性の知らない女性の部分を男性の視点で見れるという楽しさがある。また、その逆も然りで、女性視点はなんともリアリティのある"おっさん"が見れると評判だ。

このドラマを観ている間はベランダにもいかず、煙を吐き出すこともない。喫煙者にとっては短いながらも健康的な時間だ。

「俺がもし、女だったらどうなってるんだろうな」

その独り言が自分以外誰もいない部屋に零れたのは、第十話が始まってから七度目のCMが流れているときだった。いよいよドラマは佳境に入るといったタイミングで、無駄に回数ばかりを稼ぐ広告が邪魔になったのもあってそう考えた。

もし自分が女だったら。男を好きになっていただろうか?

いやいや、こんな下半身に脳がある獣が多くいる動物を好きになれというのは無理があるんじゃないか?いやまあ、俺はそんなことなかったはずだが。

では、女のことを好きになるんだろうか?

いや、それこそ女の嫌なところばかりを見ては「女ってクソだわ!」と吐き捨てるのではないだろうか。今の俺のように。

好きになる対象以外にもいろいろと「俺が女だったらどうなっていただろう」と考えるところがある。例えば、服。例えば、趣味。例えば、職業。例えば……煙草。

「いや、どうせ」

と言ったところでドラマが再開した。俺にとって今は何よりも優先したいこと。どうせ性別が変わっていても吸わずにはいられず、辞めることも出来ない煙草よりも、優先したいこと。俺の目は、雨に濡れる俳優のみに向けられる。視界の端で触っていないにも関わらず、赤と白の模様が入った箱がぱたりと倒れたことには気が付かなかった。

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