字が書けません
10代最後の年に突然起きた現象。
「書痙」
最初は何のことやら分からずにいた。ただただ人前で字が書けない。書こうとすると、自分でもドン引きするぐらいに手が震えた。文字は文字ではなく、もはや脅されて遺書でも書かされ、自殺と見せかけられて殺されるのか?的な状況のような震えた文字。
他人から見れば、「この人、大丈夫?」と思うのが当然だろうが、もちろん本人は大丈夫ではない。一度経験すると次がコワイ。単純に考えて「ただ書く」ことだけがコワイという、普通の人には全く理解できないのが書痙。
「書く」ということは普段の生活では欠かせない。いくらパソコンやスマホが普及してきたところで、簡単なメモやサインは「書く」。今でこそタッチパネルが世に出てきてくれて助かってはいるが、当時はまだスマホこそなかった。だから逃げ道がなかった。
最初に自分の異変に気づいたのは、不動産で住所、名前を書いたとき。どこにでもある、何度でも経験している光景。
なのに、字を書くのにひどく時間がかかってしまった。住所と名前など書くのに数分もいらない。だが、そのとき手が動かず、字が上手く書けなかった。奇妙なぐらいに手に力が入り、震えて書けない。焦ると余計に緊張して震えた。目の前にいた窓口の人はそんな自分の手元を容赦なく見ていた。どんな気持ちで見ていたかは知らない。何も気づいていなかったかもしれない。
だけど、手が震えてなかなか書けなかった自分がとても恥ずかしい存在に思えてかなり落ち込んだ。