後輩は、天恵と共に輝かしい道を往く
僕の先輩はすごいんだ!
野球のピッチャーをやっているんだけど、とっても上手なんだ!
僕が野球を始めたのは、小学一年生のころ。
その時、先輩は小学三年生だった。
僕と先輩は幼馴染で、家もすぐ近く。
そんな先輩からキャッチボールに誘われたところから、僕の野球人生は始まった!
先輩はすごく褒め上手で、先輩が褒めてくれるたびに、僕はますます野球にのめり込んでいったんだ。
初めてのキャッチボールに誘われてから一週間も経たないうちに、僕は地元の少年野球チームに入部することを決めた。先輩もそこのチームに入ってたんだ!
できれば僕もピッチャーになりたかったんだけれど、変化球とか投げるのがヘタクソだったから、けっきょくセカンドに落ち着いちゃった。
先輩も褒めてくれて、皆も褒めてくれて、自分で言うのもアレだけれど、僕はますます野球が上手くなっていったよ! 小学四年生の時にはレギュラーに選ばれて、区大会優勝まで行ったんだっけ。
中学校に進学した僕が選んだ部活はもちろん野球部!
僕の先輩もやっぱり、野球部にいたよ!
毎日すごい努力してて、試合でも活躍してるピッチャーだった!
スポーツの強豪高校から、推薦入学の声もかかってるってウワサだった!
先輩の球はものすごく速いんだ!
中学生なのに、球速が138キロも出るんだよ!
僕もいつか強いバッターになって、先輩の球を打ってみたい!
でも……先輩は、その夏の中体連で、ケガをしたんだ。
相手のバッターのピッチャー返しが右肩に直撃して……。
それで先輩の右肩は壊れてしまった。
右投げのピッチャーの先輩にとっては、野球人生が断たれたも同然だったと思う。
先輩は結局、推薦の声がかかってたっていうスポーツ高校にはいかなかったみたい。あの肩じゃ、もうピッチャーどころか、野球を続けるのも厳しかったんだと思う。あの時の先輩、本当に悔しそうで、悲しそうだった……。
先輩は、プロ野球選手になるのが夢だっていつも言ってた。
子供たちが憧れるような、ヒーローみたいなピッチャーになりたいんだって。
僕も同じだった。先輩に憧れて、野球にのめり込んで、いつかプロ野球選手になるのが将来の夢になってた。先輩みたいな、カッコイイ選手に。
でも先輩は、もうその夢を叶えることはできないのだろう。
ケガって、本当に怖いものなんだと思った。たった一回のケガで、築き上げてきた全部が崩れ去ってしまうこともある。怖くて、怖くて、先輩がケガをしてから数日間は、僕もまったく野球ができなくなってしまった。ケガをするのが怖くて。
けれど。
いつまでも僕が怖がっていたら、先輩だってきっと心配するよね。
僕が今、こうして野球をやっているのは、元はと言えば先輩のおかげだ。だからせめて、先輩が夢見たような選手に、僕がなれればと思ったんだ。そして僕が有名な選手になって、球児時代のエピソードとか聞かれたときに、先輩の名前を出してヒーローにしてあげるんだ!
その決意のとおり、僕はそれから、ますます野球を頑張ったよ!
二年生の時には中体連のレギュラーに選ばれた!
三年生の時には、全国大会優勝まで果たしたんだ!
全国大会優勝の後、先輩が入学するはずだったスポーツ強豪高校から、僕に推薦入学の声がかかったんだ。
他にも色々なところからウチに来てくれ、って声がかかってたけれど、先輩の代わりになれればと思って、僕はその強豪高校に入学することに決めた!
その高校は、僕たちが住んでいる県とは遠く離れてる。だから、家族とも、もちろん地元の高校に通ってる先輩とも、離ればなれになっちゃった。
寂しかったけれど、これも僕の、そして先輩の夢のため!
僕は新天地で、頑張ることに決めたんだ!
高校でも僕は頑張ったよ!
ピッチャーの球はだいたいホームランにしてやった!
僕の近くに飛んでくるライナーは、だいたい取ってやった!
活躍を認められて、僕は高校一年生でレギュラーの座を勝ち取ったよ! さすがスポーツ強豪校、実力が全てって感じだったよ!
地方大会も、僕たちの高校は順調に勝ち進んでいったよ!
でもその時、すごく気になることを聞いたんだ。
なんと、あの先輩が、復帰して野球を続けてるんだって!
右肩は回復しなかったから、左投げのピッチャーに転向したんだって!
しかも先輩の高校、今年はすごく強くて、甲子園出場も夢じゃないって!
すごくない!? これってすごくない!?
もしかしたら、先輩と甲子園で戦うって展開もあるかもしれないんだよ!?
僕はますます気合を入れて頑張ったよ!
その結果、地方大会、圧倒的な優勝!
僕たちは、甲子園の切符を手にしたんだ!
甲子園出場高校には、先輩の高校もあったよ!
組み合わせの結果、僕と先輩は、試合するとしたら決勝戦になるみたい!
絶対、先輩と戦いたい!
僕は、それはもうすごい勢いで頑張って、甲子園を勝ち進んでいったよ!
そして、決勝戦!
僕は一番バッター。
そして相手高校の先発投手は、先輩だった!
ああ……こんなことってある……!?
憧れの先輩が、僕の甲子園優勝の最大の宿敵として立ちはだかるなんて!
僕は本当は四番打者なんだけれど、監督に無理を言って、打順を一番にしてもらっちゃった。やっぱり僕が一番最初に、先輩と対決したかったから!
マウントの上の先輩が、鋭い眼光で僕を射抜いてくる。
ああ、ゾクゾクする! 先輩はどんな球を投げてくるんだろう……!
楽しい! 野球ってやっぱり楽しい!
僕、先輩と会えて、野球に出会えてよかった!
さぁ、試合開始だ!
先輩の球、かっ飛ばしてあげるからね!!