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98 対面


「あ、やっと来た。お前のクラス、ホームルームおせえのです。さっさとバイト行きますよ」


「......今日、バイトだったっけ」


 冗長な校長の長話と知らない奴ばかりが表彰されている部活の表彰式。それに耐え、やっとのことで始業式から解放された俺は下駄箱で俺を待っていたらしいソレンヌの言葉を聞き、そう言葉を漏らした。


「困るのだけど。これから、ペットショップに行くんでしょう」


 同じく、ペットショップへ行くために下駄箱で俺を待っていてくれたアーデルがそう言った。


「ペットショップって、何ですかお前ら。子供でも出来たんですか。おめでたなのです」


「子供が出来たらベビーショップだろ。何で犬用か何かで済ませようとしてんだよ。怖いわお前の発想」


「まあ、確かに子供みたいな子が初めて出来たのは事実かもしれないわね」


「いや、他人の子だし。ウチにはちゃんと、お前が夏祭りですくったコンピエーニュとアルデンヌとバルバロッサがいるし。後、アイツのことを子供と思いたくない。教育失敗したみたいだから」


 俺は淡々とアーデルの発言に異論を述べる。すると、ソ連はそんな俺とアーデルをジトーって睨んだかと思うと何かを察した様子で溜息を吐いた。


「よく分かりませんが、話の流れからして捨て猫でも拾いましたか」


「惜しい。正確には迷いインコ」


「めんどくさっ。捨てインコじゃなくて迷いインコですか。飼い主探さないといけないじゃないですか」


「捨てインコって何よ」


「いやこう、拾って下さいって書いた段ボールの中に捨てられてるインコですよ」


「その捨て方は羽物のインコには通用しないわよ」


 お前もさっき似たようなこと言ってただろ。


「まあ、何にせよ、ペットショップくらいハイジ一人で行けるでしょ。五六はバイトに来いなのです」


「ぐぬぬ......アーデルとのペットショップデート楽しみにしてたのに」


「あんな場所、デート先として考えるななのです。臭くてかなわんのです」


「お前、さては動物園嫌いだな?」


「水族館も嫌いなのです。生臭い」


 マスターも主要なデート先二つが潰されていて大変そうだ。


「アーデル、悪いけど、そういうことだからニーチェのこと頼む。俺もバイト終わったら直ぐ帰るから」


「仕方ないわね。分かったわ」


「お前ら他人のペットに名前付けてるんですか。そして、何ですかその名前。鳥籠の中に囚われたニーチェとか何かの風刺ですか」


 ソ連はいつもの気だるそうな呆れ顔でそう言った。変な言葉を教えていることも知られたら余計に責められそうなので黙っておく。


⭐︎


 その日の19時、バイトから上がる準備をしていた俺にソ連が声を掛けてきた。


「五六」


「ん?」


「私も今日は早めに上がることにしたので今からお前の家、行って良いですか」


「......なにゆえ?」


「迷子の鳥畜生の顔を拝んでやりたいと思いまして」


「ソ連って鳥好きだっけ」


「別に。ただ、インコなんて見る機会もないので」


「成る程」 


 そういうことで、俺はソ連と一緒に店を出ると俺の家へと向かった。道中、マスターとの恋の進展について聞き出そうとしたが、いつものようにブチギレられて終わってしまった。


「ただいまー」


「邪魔するのでーす」


「何でソビエトが居るのよ」


 ソ連と一緒に帰宅をした俺に対し、玄関で俺達を迎えてくれたアーデルは困惑した様子でそう言った。


「カミハ、シンダ! バーカ! アーホ!」


 そして、そんな彼女の肩にはもうすっかりアーデルに教えられた言葉を覚えたらしいニーチェが居た。


「いや、ちょっとその鳥畜生を拝みたいなと。......てか、何ですかコイツ。めっちゃ口悪いじゃないですか」


 と、言いながらソ連はニーチェに手を伸ばす。俺の時とは異なり、ニーチェは身をソ連に委ね、頭をソ連に撫でられるがままになっていた。俺の時は噛み付いたのに。


「何で会ったばかりのソ連に懐いてるんだ」


 もしや、この家の環境に慣れてきて警戒心が薄くなったのではと思い、俺も手を伸ばしてみたものの、案の定、キツく噛まれてしまった。ちゃんとコイツは人を選んでいるらしい。


「鳥畜生の癖に人の本質を見抜けるとは大したものなのです」


「その場合、俺の本質はどうなるんだ」


「お前は本質的に極悪人なのです。ニーチェが言ってる」


「あの高名なニーチェ先生に言われたら反論出来ないな」


「サンプルが少なくて何とも言えないけれど、もしかしたら金髪に反応してるのかもしれないわね。ニーチェも金髪だし」


「この頭の羽、金髪判定なのかよ」


 と言いつつ、金髪というよりも黄髪っぽいニーチェのアホ毛に触れると、『ギイイイッ』と低い声で唸られ、またしても噛み付かれた。ムカつく。


「ソビエト、貴方、ご飯はまだ?」


「Ouiなのです」


「なら、ウチで食べて行って。ハンバーグ作ってたの」


「おお、マジですか。うっしゃ。ハイジの飯は美味いから嬉しいのです」


「貴方の分、用意してなかったけれどケイのハンバーグを小さくすることで対応するわ」


「お前のせいで俺に皺寄せが来てるんだけど」


「世の中とはそういうもんなのです。早めに社会の厳しさ知っとけ?」


「あのなあ......」


 傍若無人過ぎるソ連の頬を俺は強く引っ張る。日頃から暴力を振るわれているのでこれくらいはしても良い筈である。


「あーいふぁい! いふぁいのです!」


 Wi-Fi、と言っているように聞こえる。


「言っとくけどいつものお前はこれよりも強くつねってきてるからな」


「仲良いわね貴方達。私もソビエトの頬つねっていい? 何か触り心地良さそう」


「調子に乗んななのです!」


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