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82 街並み


 ニュルンベルクからミュンヘン中央駅へバスで戻り、アーデルの家を目指す俺達はTバーンに揺られていた。ルドルフも家がアーデルの近所とのことで、一緒である。


「てか、めっちゃ、今更やけど、ルドルフ君は恋敵の俺に対してこんなに全力で支援しちゃって良いの? あ、通訳プリーズ」


「はいはい......」


 アーデルによって日本語からドイツ語に翻訳された俺の言葉を聞いたルドルフは渾身の笑みを浮かべ、『Gut』と親指を立ててきた。


「グートって何? 死に晒せみたいな? シャイセ的な?」


「違うわよ。彼のことを何だと思ってるの。普通にGoodのドイツ語版」


「ドイツでも親指はGoodのサインですのね」


「Äh......ケイ、Rivaleにならない」


 ルドルフは考え込むように少し唸ってから、自信なさげに日本語を話してくれた。スマホを凝視していることから恐らく、何らかの翻訳アプリの補助を受けていると思われる。


「アーちゃん、リバールって何」


「ライバルのドイツ語読み」


「俺はライバルにならない、って、何それもしや、宣戦布告されてる? 領内にドイツ軍、雪崩れ込んでくる?」


「違うわよ。負けを確信してるから、対抗心すら湧いてこないって言ってるの」


「何だか不憫ですわね」


「Ich werde eine andere Liebe finden. Macht nichts.」


 苦笑しながら空を仰ぎ、そう話すルドルフ。俺とヴィクトリアがアーデルに目を向けると、彼女はコクリと頷いた。


「『僕は別の愛を探すよ。気にしないでくれ』って感じかしら」


「意外と逞しいですわね」


「いや、俺とアーデル、まだ付き合ってすらないんだけど」


「いい加減、その設定、苦しいですわよ」


「設定言うな」


「......疲れた。ちょっと、寝るから翻訳はヴィクトリアに任せたわ」


 と言いながらアーデルは目を瞑り、横に座っている俺の肩にもたれかかってきた。


「ヴィクトリア、到着まで後、どれくらい?」


「15kmくらいですわ」


「いや、時間」


 というか、どうして距離を把握しているんだ。


「ああ、30分くらいですわね」


「......俺も寝よかな。何かアーデルが横で寝てると俺も眠たくなってきた」


「肩、貸しましょうか」


「頼んだ。おやすみ。あ、ルドルフ君もナハティー」


 俺は自分の知っているドイツ語の中の一つ、『おやすみ』を意味する『ナハティー』をルドルフに使った。


「Nachti」


「お、クソみたいな発音でも通じた。やっぱり、ネイティブと話すのって大切だよな。俺、第三外国語はフランス語取るわ」


「いや、ドイツ語取りなさいよ」


 と、目を瞑りながらも話を聞いていたらしいアーデルがツッコんできた。


「ソ連にフランス語取れって脅されてる」


「あの子が話せるフランス語、暴言くらいのものでしょ」


「Merde! とかな」


「何で貴方はドイツ語よりフランス語の方が発音、上手いのよ」


「いやいや、一年間くらいアーデルと一緒に居る俺のドイツ語が上達しないのは最早、アーデルの責任」


「私が日本語でいつも話してあげてるからでしょう、調子に乗るな」


「あいででででっ」


 コイツ、目を瞑りながら、的確に俺の頬を抓ってきやがった。


「You look so happy.」


「幸せそうですわね、って言ってますわ」


「いや、流石に今のは俺でも聞き取れた。......懐かしいんだよ、アーデルとわちゃわちゃするのが」


「......はあ。もう一度、寝ることを試みるわ。ケイも一緒に寝て」


「うい。ヴィクトリア、肩借りるぞ」


「どうぞ」


 多幸感と若干の緊張を抱えながら俺は目を瞑る。俺が思っていたよりも、俺の脳はアーデルと再会してからの状況を処理出来ていなかったらしく、俺は頭がぐるぐると回る感覚を微睡の中でずっと、感じていた。


⭐︎


 若干の電車の乗り継ぎとバスの乗り継ぎをし、辿り着いた目的地は緑豊かな住宅地であった。緑豊か、とは言っても森とか山がある訳ではない。街の至る所に木や草が植えてあるのだ。緑化、というやつである。


「流石、ドイツ。環境保護大国だな。普通に車が走ってるのに空気が綺麗だ」


「良いでしょう。......そう、街は好きなのよね。街は」


 アーデルは何処か達観した様子で周囲の建物や、木々を眺める。その何処か物悲しい表情を見ていると、此方も何処か寂しくなってきた。


「......イギリスの住宅地と似ているようで、かなり違いますわね」


 一方、ヴィクトリアは周囲の建物に注目していた。確かに日本のヨーロッパ風の一軒家と比べても『何かが違う』という感じがする。窓が多く、屋根の勾配が急で可愛らしい家が多い。そして、建物自体に確かな年季が刻まれていた。


「結構、古い家が多いみたいだな」


「日本と違って地震がないから築百年くらいの家が普通にあるのよ。探せばもっと古いのもかなりあると思うわ」


「成る程。やっぱり、日本のヨーロッパ風建築の家との違いは年季か。......にしても、何というかこの街並み、郷愁が刺激されるな」


 美しく、可愛らしい街並みではあるが、静かで、何処か物悲しい......賑やかな南欧の街などとは異なる、独特の雰囲気に俺は胸を打たれた。


「そう」


「来て良かったよ。アーデルが生まれ育ったこの街に......あ、生まれはオーストリアか」


「......其処の角を曲がったところが私の家、さっさと行くわよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 決戦は金曜日!(しらんけど) 付き合ってない設定、さっさと解除して。 [一言] ルドルフ君の意気に感じてケイがんば。
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