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8 フリカデレ

何か7、8話は続けて読んで貰いたかったので連投しちゃいました。ご褒美に評価、ブクマ、感想、レビューくらさい。


「だからって、これはどうなんだ」


 アーデルに振られたことを伝えたことで、マスターに爆笑されてソ連に冷笑された学校帰りのバイト。それを終えて帰宅した俺は思わずそう呟いてしまった。

 無人の筈の部屋は明かりがついており、家じゅうに何やらスパイシーな香りが漂っている。


「お帰り、貴方。ご飯にする? お風呂にする? それとも......」


「目眩がしてきた」


 何故か、明かりがついているダイニングキッチンに行くとドイツの国旗の柄のエプロンを着たアーデルが出迎えてくれた。愛国心炸裂させてんな。


「一度、言ってみたかったのよ。この台詞。貴方に妻の愛情とかそういうのは全く持ってないから勘違いしないで」


「さいですか」


「それで、本当にどちらにする? ご飯もお風呂も出来ているわよ」


「うん、何で? 何で君は当たり前のように俺の家で甲斐甲斐しくご飯を作ってお風呂まで沸かして待っててくれてるの? 泣くよ? 主に混乱と嬉しさと久し振り聞いたおかえりの暖かさで」


「それなら良かった。これからは毎日、言ってあげるから」


「ちょと待てくれ待てくれアーデルさん」


「混乱でソクオンが抜けているようだけど、何?」


「マジでお前は何で、俺の家に居るの?」


「何でって......学校で言ったじゃない。私は貴方の力になりたい、って」


 アーデルはまるで俺の理解力が足りていないと言わんばかりに首を傾げながらさも当たり前のことのように言った。


「いや、言ってたけど! 確かに言ってたけど! 俺は聞いてないぞ!? こんなこと」


「そう」


「塩対応止めろ! 他人事じゃないんだぞ、他人事じゃ!」


 一昨日のソ連の気持ちが分かった気がする。この娘、ヤバい。


「ごめんなさい。私は口下」


「口下手とかそう言う次元じゃないから! てか、どうやって家に入ったんだ!? 玄関閉まってただろ!?」


「玄関が閉まっているなら、裏口から入れば良いじゃない。戸締まりはしっかりすることね。頭の可笑しいドイツ人の娘に不法侵入されるから」


 コイツ、遂に自虐に走りやがった。


「えっと......つまり、お前は俺の力になりたいがために? 俺の家に不法侵入して? 夕食作って? 風呂沸かして? 新婚みたいなことを言うために? わざわざ待ってた訳?」


「ええ。後、一番風呂は貰ったから。......ジャパニーズヘンタイのケイなら風呂の湯を飲みかねないわね。風呂はケイの後にした方が良かったかしら」


「飲まないから」


「そう」


 そう、じゃねえんだよ。


「......もう良い。飯を用意してくれ。詳しいことは食べながら聞く」


「了解。座ってて」


 そうしてダイニングテーブルに並べられた料理は白ご飯とハンバーグそして、サラダだった。


「何だよ……。結構、旨そうじゃねえか……」


 某団長の真似をしながら俺はその料理を見つめる。家じゅうに漂っていたスパイシーな香りの正体はどうやらこのハンバーグだったらしい。


「そう」


 アーデルは少し嬉しそうに言った。


「それじゃあ、頂きます」


「どうぞ。召し上がれ」


 彼女の手作りブルストと一昨日作ってくれた朝食の味を知っているので彼女の料理に抵抗はない。まず最初にハンバーグを食べた。


「......うんうん」


 俺は何度か頷くともう一口それを食べる。絶品だった。普通のハンバーグとは違ってスパイスが効いており、ソースは掛かっていないのだが塩と胡椒だけで味が完成している。米との相性も抜群だ。


「あの、感想を教えて貰いたいのだけれど」


 無言でハンバーグを口に運ぶ俺にアーデルは不満そうな口調でそう言ってきた。


「悪い。あまりに旨すぎて無心で食べてしまった」


「宜しい」


 俺がそう言うとアーデルは満足そうにそう言った。


「このハンバーグの味付けもドイツ流か?」


 俺の質問に彼女は頷く。


「ええ。正確にはハンバーグ、ではなくFrikadelle(フリカデレ)ね。ナツメグやパプリカパウダーを混ぜた挽き肉にパンを千切ったものを入れて、丸めて焼くの」


「へ~……ん? ウチにナツメグやパプリカパウダーなんて有ったか?」


 そんな小洒落たものを買った覚えはないのだが。


「私の家から拝借してきたわ」


「おい。……というかお前、親には何て言って此処に来てるんだよ」


 幾ら、同年代とは言っても独り暮らしの男の家に女子高生が一人で上がり込んで世話をするなんてどう考えても社会的にも、倫理的にも宜しくない。まあ、それはこの前のコイツの行動にも言えることだけどなっ!


「祖父を亡くして、独り暮らしを余儀なくされている友達が居てあまりにも辛そうな生活をしているから力になってあげたいって言ったら、二つ返事でOK貰ったわ」


 これは酷い。


「いやまあ、間違ってないんだけど。間違ってないんだけど、どうなんだ? それ」


「良いじゃない。貴方の言っている通り、間違っていないのだから」


「え、じゃあ、もしかしてこれからもお前は......?」


 俺は彼女の顔を覗き込みながら、恐る恐る聞いた。


「お察しの通りよ。これからも毎日、貴方の家に行って世話をしてあげるわ。もし、私の存在が煙たいのなら貴方がバイトに行ってる間だけでも家事をしておくし」


「ちょ、待ってや! え、ホンマに言ってんの?」


 あまりにも動揺しすぎて母国語(オオサカベン)が出てしまった。


「ええ。あ、別に貴方に特別な好意とかそういうのが有るわけじゃないから勘違いしないで。ただ、少し貴方には感謝しているからその恩を返したいだけ」


 謎のツンデレ。


「でも、それって要するにこれから通い妻しますってことだろ? え、何お前俺のこと好きなの? 惚れてるの? じゃあ、付き合お? 時給1200円よ?」


「ないから」


「デスヨネー。いやあ、学校中の男子が夢中の美少女に料理作って貰えてうれしーなー」


 俺は棒読みのような口調で彼女にそう言った。すると、彼女はそんな様子の俺を見てクスッと笑い、口を開いた。


「突然、転校だと言われたときは悲しかったわ。私はドイツでも変わっている部類の人間だったから、決して友達は多くなかったけど。それでも親友の呼べる友達は居たから。別れるのが辛かった。しかも、転校先はよく分からない極東の島国」


「おっと、祖国の悪口はそこまでだ」


「その頃の私からしたら日本なんて第二次世界大戦で共に戦ったスシが美味しい両親のコキョウ、くらいのニンシキでしかなかったのよ。しかも、案の定日本の学校には馴染めず、悪目立ちばかりして辛かった」


「そりゃお前、その性格だったらそうなるわ」


 そう言うと、アーデルは俺をキッと睨んできた。


「失礼ね。貴方と同じで私も、普段はもっと無口よ」


 俺の前ではふざけてるんですか。そうですか。


「俺の前でも充分、無口だと思うが。まあ、無駄なことを言わないということか。というか、無駄口を叩かないお前とか、そりゃ全校男子に狙われるわな。お前普通にしていれば可愛いし美人だもん。さっき、部活でも言ったけど」


「素直に喜べない言葉ね。......まあ、それで唯一自分の素を出すことが出来たのが貴方だったのよ。貴方と話していると、ドイツにいた頃に戻った様で安心する。以上のことから、貴方は私に日本人の中で一番信頼される人になってしまった訳」


 彼女の説明を聞いて、どうして俺がこんなにも彼女に懐かれているのかが分かった。まあ、未知の土地での生活に適応できていなかった彼女が唯一頼れる人間に自分がなれたのであれば、先輩冥利に尽きるというものだ。


「いやでも、流石に毎日こんなに世話をして貰うのは悪いって。お前にも青春があるわけだし」


「恋人も、仲良い友人もいないどころか、女子からは疎まれている私が普通にしてて青春を謳歌出来るとでも?」


「うっ」


 悲しいことにアーデルの言葉への反論が見つからなかった。


「それだったら、こうやって貴方の世話でもしてる方がよっぽとユウイギな青春を送れるわ。それに、気が向いたら止めたら良い話だし。あくまでこれは私の気まぐれなのだから」


 其処まで言われて、断れる筈もなかった。


「……じゃあ、無理のない範囲で宜しく頼む」


「任せておきなさい」


 アーデルは小さく笑った。


「ご馳走さま。美味しかったよ。洗い物は俺がやるから」


「了解。それじゃあ、私はそろそろ帰るわ。布団だけ整えておくから」


「おう。ありがとうな」


 その後、俺が風呂から上がり、歯を磨いて寝ようとベッドに行くと何故か俺のベッドでスヤスヤと眠っているアーデルの姿があった。いつの間にかパジャマにも着替えている。


「んう、ケイ。やっぱり、疲れたから此処で寝ることにしたわ。宜しく。あ、変なことしたら殴るから。......zzz」


ソファーで寝た。

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