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7 吐露


 それから約四時間後、バイトが終わった俺は帰宅するために準備をしていた。


「ねえねえ、渓君。さっきのドイツ人の娘さ~」


 すると、不意にマスターが話し掛けてきた。


「はい?」


「僕が聞きたいのは、アーデルハイドちゃんだっけ。あの娘と君の関係だよ。付き合ってんの?」


 突然、何を言い出すのだろうか。


「何故に」


「いや、凄く仲良さそうでお似合いだったから。違うの?」


「付き合ってる訳ないじゃないですか。俺が変わり者なのはマスターも知ってるでしょう。そんな俺と付き合ってくれるような人が居る訳」


「彼女も十分、変わり者だと思う」


 た、確かに。


「まあ、兎に角、アイツと俺はそんなんじゃないです。というか、俺はそもそも恋愛なんかしてる暇ないんですよ。忙しくて」


「え~、高校生なのにもったいない」


「マスターが俺の時給をソ連と同じくらいにしてくれれば良いんですけどね」


 因みに俺の時給が1000円でアイツの時給が1400円だ。


「だって渓君の代わりなら幾らでも居るけど、ソレンヌちゃんの代わりは居ないし。......ちょ、冗談だって! 辞表書こうとしないで!?」


「チッ。ソ連の癖に他より稼ぐなんて可笑しいぜ」


 それでも共産主義国か。プロレタリアートか。


「言っとくけど、ウチも別に儲かってる訳じゃないんだからね? でも、渓君が一人暮らしで色々と大変だろうからと思って、この店の売り上げにしては高い時給にしてるんだ。感謝してほしいな」


「まあ、ありがとうございます」


「何その反応うっす!? ......よし、分かった。じゃあ、アーデルハイドちゃんと付き合うことに成功したら時給を1200円にする、ってのはどうだい?」


 俺は冗談混じりに笑うマスターの手をぎゅっと掴んだ。


「言いましたね?」


「……え?」



 月曜日、文芸部の部室にアーデルがやってきた。疑っていた訳じゃないが仮入部をしたいといっていたのは本当だったようだ。


「Guten T......あの、ケイ?」


 俺は彼女に頭を下げた。


「俺と付き合ってください」


「え、あ、na、natürlich。じゃ、じゃなくて何故?」


 今、何て?


「それはだな......」


 俺は土曜日、マスターに言われたことを伝えた。


「つまり、時給アップのために交際してくれと?」


「ヤー」


「Ja、ね。嫌に決まっているでしょう。身の程を弁えて」


 アーデルは俺の横に椅子を持ってきて座ると、溜め息を吐いた。


「グハア」


「大体、交際なんてそんなフジュンな理由でするものじゃないわ」


 ノーパンで男の家を闊歩する痴女の癖に何でそんなに純情なんだ。


「仰有る通りで......」


 意気消沈しながらキーボードを打ち込む俺を見てアーデルはまた溜め息を吐くと、パソコンの画面を覗いてきた。


「この前、書いていた作品とは違うようね」


「ああ。どうも前まで書いてた作品はスランプ気味でな。スランプを抜け出せるまで新しい作品を書いてみることにした」


「ふうん」


「自分で聞いてきた癖にどうでも良いとでも言うかのような相槌を打つな」


 俺はアーデルの頭を軽く叩く。


「だからこの前、私は口下手だと言ったのよ。会話を繋げることは……難しいわ」


「ああそう」


「貴方の反応もタイガイ薄いわね。新しい作品はどんな内容なの?」


「ん? ああ、廃部寸前の文芸部で一人活動する少年の元に頭の可笑しいドイツ人が入部してくる話」


 俺の言葉にアーデルが何かに気付いたように体を固まらせた。


「......それって、もしかしなくても貴方と私のことじゃ」


「俺の小説のネタとして、頑張ってくれよな」


 そんな彼女に俺は満面の笑みでそう告げる。すると、無言でアーデルは自分のリュックを開けて何やら大量の紙を取り出した。どうやら、手紙のようだ。


「見て」


 アーデルはそうとだけ言って、その手紙を俺に渡してきた。読めということらしい。数は20枚くらいだろうか。小洒落た封筒に入っているものもあれば、入っていないものもある。


「えっと、何々......『放課後、体育館裏で待ってます。来てください』『貴方に一目惚れをしました。放課後、体育館裏に来てください』『君の美しさに僕の心は可笑しくなってしまった。毎日、君のことを考えている。好きだ。放課後体育館裏に来てくれ』って、体育館裏人気過ぎるだろ。ハチ公前かよ」


 他の手紙にも軽く目を通したが、殆ど同じようなものばかりだった。この手紙を書いた奴らも、まさか俺に読まれているとは思っていないだろうな。可愛そうに。特に最後のポエマーニキ。


「それは今日、私の机に入っていた手紙よ。毎日のようにそれと同じくらいの枚数の手紙が入っているの。一度も話したことがない人からもたくさん来ているわ」


「やっば」


 ウチの学校の男子ってそんなに女好きだったのか。


「私は転校してきて、まだ一週間くらいしか経っていない。それなのに、もうこれだけ人気を集めているの。毎日、毎日、男子が馴れ馴れしく話し掛けくるわ」


「それは大変だな」


「それを知っても、まだ私の行動を小説のネタとして消費したい?」


「したい」


「知ってた」


 そんなキャラの濃い奴を小説の登場人物のモデルにしない手はない。


「確かに男子の中で神格化されつつあるお前のことを小説のネタとして消費するなんて不遜極まりないことかもしれんが、俺は小説のためなら神でも殺すぞ」


「一体、どれだけ小説に命を掛けているの......」


 アーデルはそう言いながら俺の持っていた手紙を指差した。


「最初の話に戻るけど、私はこれだけの校内の男子の注目を集めているの。貴方との交際を断った理由も分かるでしょう?」


「つまり、これだけの男子が自分に思いを抱いているから、しようと思えば何時でも不純じゃない恋愛が出来ると?」


「そういうこと。それに、貴方よりスペックの良い人もたくさん居るだろうし」


 さらっと、そういうことを言うのやめて貰えませんか。


「この後、体育館裏には?」


「行かない」


「哀れだ......」


 一体、何が悲しくてコイツにラブレターを書いた男達は多くの恋敵の男達と一緒に放課後をむさ苦しい体育館裏で過ごさなくてはならないのだろうか。


「彼らもアーデルハイド、という人間を見てではなくただただ私の容姿を見て告白してきた連中だから」


「まあ、お前は容姿だけを見たら滅茶苦茶美人で可愛いからな。そういう連中が出るのも仕方ないだろ」


 俺はアーデルの顔を見つめながら何度か頷いて言った。


「そ、そう......」


 アーデルは顔を真っ赤にして俺から視線を逸らした。


「何だよ。容姿を褒められるのも、見つめられるのも慣れてるだろ」


「それは、そうなのだけど」


「でも、一目惚れって少女漫画とかでもよくあるだろ。駄目なのか?」


 バツが悪そうにするアーデルの顔を更に覗き込んだ。スタイル抜群で可愛さと美人さのどちらをも兼ね備えたスーパー美少女。そして、日本人にはない地毛の金髪とエメラルドグリーンの瞳。

 まあ、こんなのが居たらそりゃ特攻したくなる男子の気持ちも理解できない訳ではない。


「私は一目惚れで好かれても嬉しくないの。......というか」


 しかし、そんな勇気の特攻をした彼らの思いは彼女の言葉で儚く潰えた。


「というか?」


「そう考えると、私の考えるフジュンじゃない恋というものはこの人達とでは出来ないわね。というか、体が目的の話したこともない男子と付き合うよりも貴方の時給アップに利用される方がまだ良い気がしてきたわ」


「じゃ、じゃあ......!」


「それとこれとは話が別」


 目を輝かせてアーデルの肩を両手で掴んだ俺に彼女はデコピンをしてきた。

 痛い。めっちゃ、痛い。ゴリラめ。


「でも、確かに貴方の生活は辛いと思うわ。アルバイトが休みなのは金曜日と日曜日だけなのでしょう?」


「同情するなら金をくれ」


 俺は大きな溜め息を吐く。すると、アーデルの硬くて殺風景な顔が少しだけ柔らかくなった。


「金曜日にも言ったけれど、私はココの生活に上手く馴染めていないの。男子は私に色目ばかり使ってくるし、そのせいで女子からも疎まれている。幾ら日本語がタンノウでも私が育ったのはドイツで日本じゃない。『皆に合わせるのが正解』とか『空気を読む』とかみたいに日本特有の感覚がどうしても理解できないしどうやって、そうするのかも分からない」


『でも』とアーデルは笑った。


「貴方は皆とは違った。男子なのに私に色目を使ってくるようなことはなく少し暗いけどフレンドリーで、個性的で、私の行動一つ一つにツッコんでくれて自分が人とは違うことを誇りにしているようにさえ見えた。だから私は貴方を信頼している。貴方に感謝している。私は自分と何処か似ている気がする貴方の力になりたい……。だから、だから……」

グーテンターク! いや、夜だからグーテンアーベントか。あ、でも、必ずしもこれを読者の方が更新直前に読んでるとも限らないし……。グーテンモルゲンも行っとく? ということで、今回も定型文行きます!! 『評価、ブクマ、感想、レビュー宜しくお願いします!!!!!』

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