66 クリスマス
メリークリスマス!
「デッカ! 初めて来たけど五十六番の家デッケエなオイ! 蜂須賀の家の二倍くらいあるじゃねえか」
「何で梓たんの家が指標にされてるんだよオイ」
「何か五六の家、久しぶりに来たのです。懐かしいですね。ね、真昼?」
「マウント止めて下さい。私も来たことくらいあります」
「ヴィクトリアの家の四倍くらいあるな」
「つまり、私の家、梓の家の半分ですの......?」
「あんま、好き勝手言ってんちゃうぞ。いてこましたろか」
クリスマスイブの夜18時、パーティ会場である俺の家へとやってきた雲雀川、岬川文芸部の奴ら+ソ連に俺はそう言った。
「お客様に向かって開口一番に何てこと言うのですかこの頭たこ焼きは」
「なあ、ソレンヌ、マスターさんは呼んでないのか?」
「んぁ? 呼ぶ訳ねーのです、あんなおっさん。北里は優しいですね」
「ソレンヌがマスターに強く当たり過ぎなだけだろ......」
といった彼らの会話は玄関にて五分程続いた。駄目だ。この集団の悪い所が出てる。喋り出すと止まらない。
「Willkommen。まだ、そんな所に居たの? 早く入りなさい。寒いでしょう」
奥で準備をしていたアーデルがひょっこりと現れて、皆にそう言った。Willkommenは確か『ようこそ』という意味だ。
「とのことなので、皆様、どうぞ中へお入り下さい」
と、俺は彼らをダイニングへと案内した。流石にウチのダイニングテーブルは十人を相手にすることは出来ないので、何人かはリビングの方の机に行ってもらった。
とは言っても、ウチのダイニングとリビングは隣接しているので殆ど距離は離れない。
「えー! 部屋の飾り付けガチじゃん! このクリスマスツリー本物のモミの木じゃない!? 可愛い!」
蜂須賀が騒ぎ立てるのは今朝、アーデルが家から持ってきてくれた本格的なクリスマスツリーだ。蜂須賀の指摘する通り、フェイクツリーではなく俺とアーデルがアデーレさんの車でホームセンターまで買いに行ったら本物のモミの木である。
清涼感のあるシャープな木の香りはやはり本物でしか味わえない。
「当然よ。クリスマスツリー、Weihnachtsbaumはドイツが発祥なの。妥協はしていないわ。飾りの殆どはドイツから取り寄せたものだし、ジンジャークッキーマンは私とケイが焼いたものよ」
「......さっすがドイツ人、クリスマスへの熱意が違うな」
「あら、クリスマスの起源はローマ帝国じゃなかったかしら」
「んやー、そうなのか知らねえけど、ウチはそんなに大々的にやらねえからなあ。大して日本と変わらん。親父がイタリアに居た頃は教会に行ったりもしてたらしいが、日本に来てからはそんなのもないしな」
「で、ソ連の所は?」
「......私がフランス文化を完全に捨て去ってることくらい知ってるでしょうが」
『けっ』と彼女は俺を睨んだ。そんなにキレなくても良いのに。
「あくまで一般的なフランスのクリスマス___フランス語だとNoëlですね___の話をするなら、大してドイツと変わらないと思いますよ。クリスマスの四週間前、アドベントって言うんですけど、そんくらいの頃からわちゃわちゃやり出して当日は家で家族と豪勢な食事をして厳かにーみたいな?」
『まあ、ウチは家族仲すこぶる悪いのでそんな経験ないんですけどね。Noëlに良い思い出なんて無いのです』とソ連は呟く。
確かにこの前、アーデルが焼いてくれたシュトーレンもアドベント......待降節の時期に少しずつ食べていくものらしいし、かなりフランスとドイツは似通っている気がする。
「こんなこと言ってるけどコイツ、去年のクリスマスパーティ結構楽しんでたからな」
「え、先輩とアフリア先輩、去年のクリスマス、一緒に過ごしたんですか」
「マスターも居たけどな」
「ああ......成る程です」
「何やかんや言ってソレンヌと五六とマスターの三人、めっちゃ仲良いよな」
と言うのは井立田である。
「ヴィクトリアとお前には負けるよ」
「だ、か、ら、俺達をセットで扱うのやめろ!」
「でも、25日は二人とも、デートの約束、してるよね」
「ちょっと待ってルミ、その話誰から聞いたの......!?」
ヴィクトリアが目を見開いて、そう叫ぶ。ですわ口調を忘れているあたり、相当動揺しているらしい。
「え、テキトウに言ったんだけど。ホントだったの......」
「嵌められましたわ......」
「ち、違えから! デートとかじゃねえから! ただ、北里とルミがどっか遊びに行くから自然と余り物の俺達でどっか行くことになっただけだからな!?」
「井立田ニキ、やめとけやめとけ。痛々しい。......そして、ルミティカちゃん策士だなオイ」
「......あの、サラッと人のデートの予定を公然と叫ぶのやめてくれるか?」
ずっと、沈黙していた北里が眉を顰めながら井立田にキレた。
「うっせえ。お前とルミがデキてることなんて皆、知ってんだろうが」
「あー、ルミティカちゃんと柴三郎君って正式に付き合ってたんだ」
「......まあ、ね」
恥ずかしそうに頷くルミにヴィクトリアが『人を揶揄うからそうなるんですわ!』と煽り返している。仲悪いのかコイツら。
「んで? アーちゃんと五十六番は?」
「付き合ってないわよ」
「何でやねん」
「何で真昼がツッコむんですか」
「さっさと付き合って貰わないと諦めがつかないので。......いや、二人が付き合ったとしても多分、略奪狙いますけど」
「マヒル、冗談......よね?」
というアーデルの問いに月見里は無言の笑顔で応える。怖い。マジで怖い。
「つ、つーか、梓たんとレイグン様はどうなんだよ」
「いや、意味分からんカップリングやめてクレメンス。梓たんにも選ぶ権利はあるって」
「蜂須賀のことを恋愛対象として見るのは無理」
「シンプルに拒絶されるのは普通に傷付くんだけどー?」
「面倒臭えなお前!?」
「梓だって乙女なんですよーだ!」
なんて、会話をしているとキッチンの方から電子音が聞こえてきた。オーブンの中の料理が焼きあがったことを知らせる音である。
「チキンが焼けたからご飯にしましょう。席ついてて」
「あ、アーデル、俺も手伝う」
「あ、私も手伝いますよ。......これだと真昼と口調被るから無理矢理にでも『手伝うのです』にした方が良かったですかね」
とか何とか呟きながらソ連は台所へと行く。
「皿は私が出すのでハイジは盛り付けお願いするのです」
「え、ああ、うん。えっと、大皿は......」
「此処ですよね。確か小皿がこっち......あ、コップも出しますね」
「待ちなさい。何で貴方がケイの家の構造熟知してるの」
「そりゃあ、元祖五六の通い妻だからなのです」
「ソビエトは座ってなさい。後は私がやる」
「プッ。若干、機嫌悪くしてて草なのです」
「ソ連、頼むからアーデルを刺激しないでくれ......」




