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63 集結


「Guten Morgen......迎えに来たわよ」


 いっそう、冬の寒さが感じられる朝。合鍵で家の中に入ってきたらしいアーデルが朝食中の俺の前に現れた。

 フワフワしたジャンパーを着ていて可愛らしい。まさに『冬はつとめて』。早朝に見るフワフワアーデルはいつにも増して良いものだ。


「アーデル、グーモル。パン食ったら準備するから待ってて。......アーデル、何か顔赤くない? クマできてるし」


 顔色と声色に何処となく、疲れが見えるアーデルに俺は聞く。かなりやつれている感じだ。


「あー、徹夜でアニメを見ていたのよ。そのせいでちょっと、しんどいだけ。気にしないで」


「そういや、アーデルも割とオタクだったな」


「日本語が堪能になった理由の一つだしね。久しぶりに泣いたわ」


 涙腺がめちゃくちゃ引き締まってるアーデルが泣くアニメ、何なのだろう。滅茶苦茶気になるが、それを聞くと少し長くなりそうなので自重しよう。

 今日の約束は俺とアーデルだけのものではないのだから。


⭐︎


 アーデルと共に家を出た俺は最寄りの駅へと歩いた。何時ものようにアーデルと雑談をしながら行ったので歩く速度は遅かったが、何とか約束の時間には間に合ったらしい。

 

「あ、アーちゃんと五十六番! グーテンモルゲン!」


「おい止めろ。俺の考えたアーデルの呼び名奪うな」


 駅に着くと、いつも通り元気いっぱいの蜂須賀が出迎えてくれた。その横には蜂須賀の隣人である霊群が立っている。


「アーさんと五十六番うっす」


「ちょっと敬ってるの何なのよ」


「そういや、霊群ってもう直ぐ入試だろ。勉強大丈夫なのか」


「あー......推薦っ!」


 と、親指を立ててドヤってくる霊群。入試直前の筈なのに部活に来ているので心配していたが、推薦が決まっているなら安心だ。


「把握。他の奴らは?」


「何処に目え付いてんだテメエ。ずっと、居るのです」


 霊群、蜂須賀以外の顔が見えないと思っていたら何処からともなく現れたソ連に足を蹴られた。


「いてっ、きもちっ」


「キッッッショいなあお前、なのです」


「ケイってソビエトの蹴りでも喜べるのね。もう、蹴ってあげないわ」


「待ってアーちゃん。誤解だ。俺はソ連のこと、恋愛対象として全く見てないから! 今のはただの友人同士のノリ! オーケー!?」


「蹴ってあげないわ、が脅しになるのも中々キショいのです」


「俺も不知火に蹴ってもらえなくなったら泣く」


「だよなあ?」


 俺は霊群とハイタッチした。


「ドM同盟やめなさいよ」


「シンプルにマゾって罵られないだけ不知火よりソフトだな、アーデルはん」


「話に付いていけないのです」


「私はSとかMとかないけど、ソレンヌちゃんみたいに可愛い女の子相手ならSにもMにもなれるぜな」


「変態しかおらんのかこの空間は、なのです」


 それから十数分後、北里、ルミ、井立田、ヴィクトリアの四人が申し訳なさそうに駅にやってきた。


「悪い。遅れた。ヴィクトリアが中々、家から出てこなくて......」


 と、開口一番に北里が謝ってきた。先に来ていた俺達の目が一斉にヴィクトリアに向く。


「I'm sorryですわ......寝坊してて」


「ヴィクトリア、この前も、寝坊してた。今日も、私達が呼びに行ってないと、多分、まだ寝てた」


 最近、日本語が少し流暢になってきたルミがヴィクトリアをジト目で見た。


「時差ボケって奴ですわ。夏休みにイギリスに帰省して帰ってきた時に起きた時差ボケを、引きずってますの」


「もう冬だぞ。お前のはただのボケなんだよ」


 井立田のツッコミにキレがあり過ぎる。


「よし、全員揃ったみたいだし行くかあ。そういや、このメンツで遊びに行くのなんて初めてじゃねえか?」


 霊群の言葉に俺は頷く。岬川勢と俺達が全員揃って遊ぶことなんて、あの夏の海水浴以来一度も無かった。其処に今回はソ連が参戦しているので初めてのメンバー構成となっている。


「ねえ、ケイ、マヒルは?」


「月見里なら先にショッピングモール行ってるらしいぞ。好きな小説家のサイン会が朝からあるとかで」


「成る程。マスターは?」


「高校生の集まりにあんな意味わからんおっさん呼んでも仕方ねえのです」


「滅茶苦茶言うなお前。あの人まだ20前半だろ」


「おっさんなのです」


「だったらお前も近い将来、オバハンになる訳だな......いってててててててて」


 ソ連がまた足を踏んできた。アーデルのと違って容赦がない。全体重を掛けて内出血させようとしている。


「仲良いわね貴方達」


 アーデルの声が少し冷たかった。


⭐︎


「私、マフラーとか、手袋とか、みたいな」


「俺はルミに合わせる」


「じゃあ、ナツマ一緒に行こ」


「あ、梓ちゃんは食べ物みたい! 輸入食品とか!」


「輸入食品、良いですわね。私も見たいですわ」


「ヴィクトリアネキ、マーマイトだけは絶対に買うなよ」


「ウチは本屋とか見たいですかねー」


 月見里と現地で合流し、ショッピングモールに着いた俺達はそんなことを口々に言い始めた。そもそも、今日が何の集まりなのかというと、それは......。


「ケイ、変なもの入れないでよ。ルミとかに渡ったらイタタマレない」


「お前は俺を何だと思ってるんや」


「HENTAI」


「間違いではないな。......分かってる分かってる、交換用とお前用は分けるよ」


 そう、今日、このショッピングモールに皆で買い物に来た目的はアーデル主催のクリスマスパーティで行われるプレゼント交換用のプレゼントを買うことなのだ。

 プレゼントはシャッフルして配るため、誰に誰のプレゼントが行き渡るかは分からない。そのため、下手な物を買うわけにはいかない、というゲームだ。


「私、カップとか茶葉とか見に行きたいのです」


「お前それ、店の食器と新商品の視察だろ」


「当たり前でしょう。たかさごを背負うマスターたる者、いつ如何なる時も店のことを考えないといけないのです」


 いつからお前はマスターになったんだ。


「そっか。頑張れよ。俺は何か適当にプラプラ......」


「テメエも来いなのです」


「えーやだあ! 俺、紅茶は好きだけどこだわり無いもん!」


「つべこべ言わずに来い」


「いてててててっ。頬を抓るな!」


「......ソビエトとケイ、本当に仲良いわよね」


 苛立った様子ではなく、ただ苦々しい表情を浮かべながらアーデルはそう言った。


「思った。アーデルハイドと五六は言うまでもなく息ピッタリだが、ソレンヌと五六も滅茶苦茶、相棒感あるよな」


 と、言うのは井立田である。


「まあ、俺が神奈川に来てから一番付き合いの長い奴だからな。ほぼ毎日、顔を合わせてるし」


「それに一応コイツ、元カレなのです」


「そうそう。元カレ元カノ平将門......ん? え? は? 何口走ってんのソレンヌさん。あ、違う! いや、マジで違いますアーデルさん! そんな顔しないで!」


「何なら元、っていうのも怪しいですね。五六、私らって今も付き合ってるのですか?」


「何でやねん! アホか! どう考えても今は付き合ってねえだろ!?」


「今は、ってことは昔は付き合ってたこと、認めるんですね......」


 月見里が凄いジト目を向けてくる。クッソ、このソ連、いきなりツァーリ・ボンバ投下しやがって。


「ケイ、説明」


「はい......」


「別に付き合ってる訳でもねえハイジに説明する義務は無いですよ、マイダーリン」


「お前マジで許さんからな......」

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