6 ボンジュール!
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店に入ると、天使のように優しい笑顔をした少女が俺達を出迎えてくれた。髪はアーデルのものよりも淡い金髪で、目は透き通った青色。所謂金髪碧眼だ。
「Bonjour! お二人様デスカ~?」
「おう。お二人様だ。ソ連」
しかし、俺の顔を見るなり少女の笑顔はみるみる消えていく。
「チッ。五六じゃないですか。愛想振りまいて損したのです」
「仮にもカフェの従業員なんだから舌打ちすんな。後、俺は確かに客じゃないが俺の後ろのはきちんとした客だぞ」
「……どうも」
アーデルは体をガチガチに固まらせて挨拶をした。俺と初めて会ったときと全然態度違うじゃねえか。どういうことだ、おい。
「オウ!? スミマセン~! どうぞ、どうぞ。お座り下サイ~!」
「ええ。ありがとう」
少女の案内した椅子にアーデルは座る。その様子を見て俺が一言。
「この猫被りが」
「うっせえ消えろなのです。このお客様に水を持ってこいです」
「いや、まだ仕事の時間まで10分くらいあるんだが」
「知るか。日本人なら10分前労働しやがれです」
待って何その未知の言葉。10分前労働?
「……へいへい」
俺は溜め息を吐きながら渋々厨房に入った。
「ほい。お冷やとお絞りな」
「ありがとう」
「此方がメニューとなっておりマス~!」
「そして、此方がソレンヌ・アフリアとなっております。因みに渾名はソ連な」
俺は少女、もといソ連を指差してアーデルに言った。
「ソレンヌ・アフリア......フランス人かしら」
「Oui! 両親共にフランス人。勿論生まれもフランス。だけど育ちはカナガワ。ソレンヌデス~!」
ソ連はあざとい笑顔でアーデルに自己紹介をする。きっつ。容姿が可愛いから許されているようなもんやな、あれは。
「育ちがカナガワならどうして、貴方はカタコトなの? 両親の影響? というかさっきケイとは普通に話していたわよね、そうよね?」
しかし、アーデルは冷静にそう聞いた。彼女の質問にソ連の顔が真っ青になる。
「言われてやんの」
からかうように言う俺の腹をソ連は肘で突いた。めっちゃ痛い。
「ア、アハハ~。あ、あの、Tuの髪も金髪ですヨネ? 何処の国の方ですカ?」
「質問に答えて欲しいのだけれど......ドイツよ」
「ででで、出やかったのです! ドイツ人! 堅物! マジレスお化け!」
ソ連は震えながらアーデルから距離を取った。
「その言い方はかなり偏見を含んでいる気がするわ。というか、カタコトは?」
凄い。アーデルが常識人に見える。
「あ」
ソ連はハッとした様子で俺の顔を見た。こっち見んな。
「まあ、今ので大体分かったと思うがコイツは日本語ペッラペラの養殖女だ。そのあざとさと容姿のお陰で完全にこのカフェの看板娘と化してる」
「その話、此処でして良いことなの?」
「だってこのカフェ、俺達しか居ないし」
俺の言葉にアーデルが周りの席を見渡した。
「本当に居ないわね。大丈夫?」
「この時間帯は何時もこんなもんだよ。立地条件が最悪だしな」
「路地裏に連れていかれたときは、流石に貞操の危機を感じたわ......」
失礼な。
「ドイツ人コワイ。メッチャコワイ」
被っていた猫を無理矢理剥がされたソ連は震えていた。
「というか貴方、私以外に外国人の友人がいたのね」
「なんだ、嫉妬してるのか?」
俺はからかうように笑った。
「いえ、ただ折角の外国人キャラが被ると思って......」
「其処は気にしなくて宜しい。後、ソ連は日本育ちのただのパツキン日本人だから外国人って枠に入れなくても良いと思うぞ」
「ソ連言うな。シベリア送りにすんぞ、です」
「罵倒がソ連意識してるやん」
アーデルに本性がバレて、可愛らしいフランス人キャラを演じる必要が無くなった途端にこれだよ。
「でも、地毛が金髪という共通点が有るのは痛いわ」
「あ、それなら大丈夫ですよ。私の地毛は茶色なので」
「「え?」」
俺とアーデルの言葉が重なった。
「ほら、金髪の方がフランス人感あるじゃないですか」
「なら、私のキャラは守られたといっても良いのかしら......」
アーデルは困惑した様子で言った。
「ちょっと! ソレンヌちゃん! サボらないでよ!」
すると、突然厨房の入り口からそんな声が聞こえてきた。
「サボるも何も、客が来ないから仕事がねえのです。このドイツ人も注文しないし」
「ドイツ人、じゃなくてAdelheid・Vogelよ」
「アーデルハイドって何処かで......ああ、アルプスの。じゃあハイジ、早く何か注文しろです。金落とさねえ奴は客じゃねえのです」
やはり、アーデルハイドと言われて連想するものは皆、同じらしい。
「じゃあ、オススメのKaffeeを頂戴」
アーデルの注文にソ連が困惑の表情を浮かべた。
「カ、カフェー? フランス語もロクに喋れない私がドイツ語を解せる筈がねえのです。日本語で言え。日本語で」
「いや、何と無く分かるだろ。多分、コーヒーのことじゃないか?」
「Ja」
俺の言葉をアーデルは肯定する。ドイツ語でYesを意味するJaにも随分慣れてしまった。
「おい、マスター。注文。オススメのコーヒー」
厨房の入り口から此方を見ている男性にソ連は言った。
「た、たまにはソレンヌちゃんが淹れてくれても......」
「あ? 誰のお陰でこんな立地の悪いカフェがもってると思っているのですか? 私は別に他の店に行っても良いんですよ?」
「い、今すぐ淹れてきます! お客様、少々お待ちを!」
そう言うと男性は再び、厨房に走っていった。
「マスター......」
俺はその名を呟いて、同情の視線を厨房に送った。
「彼がマスターなの?」
「ああ。あれが人の寄り付かない路地裏に店を出しちまったせいでソ連目当てに来る客が落とす金に店の売り上げが依存してしまっているカフェ『たかさご』のマスター、中谷圭介だ」
「哀れね」
「同情の言葉に感情が籠ってねえな。俺もちょっと手伝ってくるよ。食器洗いくらいの仕事ならこの時間でもあるだろ」
そう言って俺は厨房に入り、マスターの指示に従って幾らかの仕事をした。やはり、まだ午前中なので仕事が少ない。俺はマスターに頼まれてアーデルにコーヒーを持っていった......のだが。
「馬鹿じゃねえんですかアンタ!?」
「失礼ね。これでも成績は良いのよ」
「仮に成績が良かったとしても、オメエの頭は完全にイッてるのです!」
「そう」
「なんじゃその相槌は! 他人事じゃねえのです!」
なんか喧嘩してる。
「お客様。コーヒーでございます」
アーデルの机にそう言ってコーヒーを置くと、その机には見覚えのないものが置いてあることに気付いた。
「ありがとう」
「それで、お前らは何を揉めてるんだ? 大体、分かったけど」
「聞いてください五六! このハイジ、カフェに来ておきながら自分で持ってきたバームクーヘンを食おうとしてやがるのです!」
「......ソ連のインパクトが強くてアーデルがマトモに見えてたけど、やっぱりお前、色々と狂ってるよな」
俺は溜め息を吐いて、今にもフォークでバームクーヘンを食べようとしているアーデルに言った。
「大体、ドイツ人はそれが船のルールであれば海に飛び込む程に規律を重んじるんじゃなかったんですか!」
その理屈がアーデルに通じないことは昨日の件で証明されている。
「自分でスイーツを持ち込んでは駄目、なんてルール。このカフェの何処に書いてあるの?」
まあ、そうなるよな。国民性なんてものはあまり当てにならないということの証明だ。というか、コイツをドイツ人として見たら本当のドイツ人に失礼な気がしてきた。
「小学生みたいなことを言うんじゃねえですよ! アホ! 馬鹿! 貧乳!」
突然、暴言のクオリティを下げて最後にコンプレックスを抉るスタイルを止めて差し上げろ。
「乳なんて脂肪の塊じゃない。貴方のその立派な胸も腹のゼイニクと大して変わらないのよ? あまり誇るべきことではないと思うわ」
「出た。貧乳が負け犬の遠吠えをするときに使う言葉ランキング堂々の一位! 乳は脂肪! 確かに乳は贅肉と同じ脂肪かもしれないですけどね、乳には魅了が伴うのですよ、魅力が! 分かりやがりましたかヒンニュー!」
「そう」
「塩対応止めろやドイツ人! 巨乳には夢が詰まってるんですよ!」
ソレンヌは俺たち以外に人がいないのを良いことにそう叫ぶ。
「貧乳は皆に夢を与えているの。それに、夢を私有財産にしたら駄目。ブルジョワはシベリア(注1)」
「ソ連に寄せていってんじゃねえですよ!? 私はフランス人です!」
「君達、一体何の話をしているんだ......」
厨房からマスターの溜め息が聞こえてきた気がした。
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(注1)ブルジョアはシベリア。 労働者を中心に構成され、私有財産を禁止する社会主義国のソ連では私有財産を溜め込む資本家は居てはならなかった。シベリアはロシア領内の大部分を占める北アジア地域の名称で犯罪者の多くが此処に送られた。