53 観光
「あっつ......!」
「お前、それ前もやってたな」
舞台は万博記念公園から変わって、難波。俺達は本場のたこ焼きを食していた。
「うん、うん。生地に出汁がきいてて滅茶苦茶美味いのです」
「たこ焼きって、神奈川でも食べられるけど、やっぱり、大阪で食べると違うね」
皆が上機嫌でたこ焼きを頬張る中、ただ一人、月見里だけは少し不満そうな表情をしていた。
「まひるん、どしたん」
「その呼び方キモいのでやめて下さい。......いや、美味しいんですよ? たこ焼き、美味しいんですけど」
「けど?」
「ウチ、昨日、祖父母の家で死ぬほどたこ焼き振舞ってもらったばっかりなんですよね」
「ああ......成る程」
家でたこ焼きを作ると、どうしても作り過ぎてしまうのは、あるあるだ。冷凍することも考えるが、結局、食べずに冷凍庫の隅にポツン、というのが頭をよぎり、どうにか食べ切る。
しかし、そのせいで腹はパンパンでぶっ倒れてしまう、というのが一連の流れである。
「先輩、食べてくれません? ホントもう、ウチ、昨日、嫌というほど食べたので」
「ああ、別に良いぞ」
「ありがとうございます。はい。じゃあ、あーん」
月見里は爪楊枝で刺したたこ焼きを俺の口元に運ぶ。......え? これ食べる感じ?
「ケイ」
その時、俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。聞き慣れた筈の声なのに、何故かその声色は何時もとは違う。
「ほら、早く食べて下さいよ、先輩。冷めちゃいますよ」
そして、掛けられる圧力。
「美味」
俺はパクリとそのたこ焼きに食らいついた。
「ふふっ。まだ三個もありますよ」
上機嫌で次のたこ焼きを突き出してくる月見里。
「ケイ?」
更に不機嫌になるアーデル。
「うん。美味い」
無視して食べる俺。
「何やってんですかアイツら」
「さあ......?」
傍観するソ連とマスター。結構、分かりやすく地獄である。
「さてと、次は通天閣にでも行きましょうか」
全てのたこ焼きを俺に『あーん』させ終えた月見里はそう言った。不機嫌なアーデルに睨まれながらビリケンさんにご対面するのは嫌なんだが。
「ねえ、ケイ」
「はい」
「怒ってないわよ」
「え?」
「ちょっと、悔しかったけど、私、あの程度でダメージを受けるようなキョウリョウな人間じゃないから。私達の絆はあんなことで揺らがないわ」
「それをウチの方見ながら言うの止めてくれません? 圧が凄いです。圧が」
その後、俺達は月見里の案内で通天閣を訪れた。5階の展望台にはビリケンさんが安置されている。
「たかさごが繁盛しますように。たかさごが繁盛しますように。たかさごが......」
呪詛を唱えるように何度もそう言いながらマスターがビリケンさんの足を撫でている。
「時給アップしますように。時給アップしますように」
「ケイ君、それ俺の前で言う!?」
「時給アップして下さいなのです。時給アップして下さいなのです。時給アップして下さいなのです」
「ソレンヌちゃんこれ以上、上げろと!?」
「「時給アップして下さい。時給アップして下さい」」
「アーデルハイドちゃんと真昼ちゃんに至っては何!?」
良いな。アーデルも月見里もノリを理解している。マスターのツッコミを良い。これぞ大阪だ。
「それで思い出したんですけど、マスター、この前アーデルと面白い話してたんですよ。俺とアーデルで店開いて、ゆくゆくはたかさごと合併しよう、って話なんですけど」
「......合併じゃなくて、併合な気がするんだけど」
「アンシュルスなのです」
・・・・。
⭐︎
その翌日、In 京都。寺社仏閣に、映画村、商店街、トロッコ、何でもござれな日本の観光地の代表である。
「暇ですね」
「暇だねえ」
しかし、そんな一ヶ月有ったとしても味わい切れないであろう古都にて俺とマスターは不遜にもそんな愚痴を溢していた。
この場に居るのは俺とマスターだけである。
「ま、こんな時間もアーデル達の着物を見るための代償と考えれば全然、悪くないですけど」
「そうだねー。ソレンヌちゃんの着物楽しみ」
アーデル、ソ連、月見里は現在、レンタル着物の着付けに行っているのである。俺とマスターは男二人で三人の帰りを待っているところだ。
思えば、マスターと二人きりという状況は結構、珍しい。大体、マスターの横には何時も毒舌で赤軍所属の、なのです系フランス人がいるからだ。
「そういや、マスターってソ連に対して何処まで本気なんですか?」
ふと、疑問に思ったことを俺はマスターに聞く。マスターがソ連に好意を持っていることは間違いないのだが、その気持ちは実際、どれほどのモノなのだろうか。
「本気って?」
「マスターがソ連のことを好きなのは自明として、実際、どのレベルの好きなのかなって。友愛、親愛、恋愛、色々あるじゃないですか」
「恋愛」
「おおう......」
即答か。
「そりゃあねえ。あんなに可愛くて、優しくて、面白い女の子と毎日、働いてたら恋しない方がヤバいでしょ」
「へー。その気持ちをソ連には?」
「伝えてるよ」
「マッジか!?」
「振られたけど」
「......マジか」
一体、何なんだこの人は。ソ連のことが好きで、思いを伝えて、振られて、それで平然としていられるなんて。
というか、ソ連もソ連だ。どうして振った相手に対してあんなにも普通に接せるんだ。昨日も一緒のホテルの、一緒の部屋に泊まったらしいし。
「だから、ソレンヌちゃんは渡さないからね」
「いや、アンタ振られてんだよ。マスターのものじゃないんですよ」
「大丈夫。現在進行形でアタック中だから」
「いや、それ厄介な奴ですやん。下手したらパワハラセクハラで訴えられますよ」
というか、ソ連にアタックする、って字面だけみたら相当、ヤバいな。独ソ戦待ったなしだぞ。
「大丈夫、大丈夫。振られてから一年くらいアタックしてるけど、訴えられてないから」
「一年て。......俺がたかさごに就職してから割と直ぐに告白して、振られた計算なんですけど」
「実際そうだもん。去年の夏」
衝撃の事実。
「諦める気は?」
「無い」
「ええ......」
俺達がそんなやり取りをしていると
「お待たせ」
「終わったのです」
「皆さんの着物姿が神々し過ぎて......。やっぱり、私、着るの止めといた方が良かったですかね」
と、三人が店から出てきた。
アーデルと着物は異様な程までにマッチしており、金髪で緑色の目をしている彼女だが、その姿からは『大和撫子』の四文字が思い浮かんだ。いやまあ、実際のアーデルは大和撫子と呼ぶにはあまりに謙虚さが足りないが。
ソ連に関してはもう、イメージ通り。金髪美少女が和服着たら、こうなるよなって感じだ。些か、アーデルよりも和と洋が調和しておらず、『外国人が着物着てる』が強い。そして、それが逆に可愛さを増させている。
そして、月見里だが。
「月見里」
「はい?」
「予想以上に似合っててビックリした」
ダウナーというか、少し暗いオーラを出している月見里と桜のようなピンク色の着物の相性があまりにも良かった。
「その服、月見里が選んだのか?」
「い、いえ、お店の人に選んでもらいましたけど......」
「お店の人グッジョブ」
「え、ああ、その、ありがとうございます......」
小柄で、童顔で、去年までは中学生だったのだから別段、可笑しくはないが、かなりロリっぽさを漂わせる月見里とピンクの着物の相性はあまりにも良かった。犯罪臭すらする。
「ソレンヌちゃん、滅茶苦茶可愛いじゃん! え? ええ!? 紫色の着物かわよ!」
「あんまジロジロと見るななのです。ぶん殴るぞ」
「いやあ、待った甲斐があったよ。ホント、着付師さんって良い仕事するなあ」
「はあ......どうせ、この後、この服で京都を散策するんですから、そんな目に焼き付けなくて良いのです。馬鹿」
何というか、改めて見ると本当に振った、振られたの関係なのか疑いたくなるほどに親密な関係だ。
「ねえ、ケイ、私の着物姿は......」
「後で死ぬほどコメントしてやるから待ってろ。まだ、上手いコメントが思いつかない」
「......Ja」
「先輩、私も詳しく感想書かせて貰ってないので後で教えて下さいね」
「J、ja」




