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52/103

52 鍋パ


「それで思い出しましたけど、アフリア先輩とマスターさんの出会いってどんな感じだったんですか?」


 ふと、月見里がそんな質問を二人に投げ掛けた。


「それ、私も気になるわね。ケイは知ってる?」


「いや、知らん。聞いたこともない」


 言われてみれば確かに気になるな。


「丁度、夏休みの前くらいの時期でした。道を聞きにたまたま、私が訪れた喫茶店。其処には立地の問題で倒産寸前の店に焦りを募らせている男が居ましてね。その男は私を見るなり、看板娘にしたいとかいってスカウトしてきたんですよ。逃げましたけど」


 溜息を吐きながら、嫌そうにソ連はそう話す。まあ、確かに初対面の人間......それも、路地裏の怪しげな喫茶店の店主からいきなり看板娘になれと言われたら逃げるのが自然だろう。


「いやあ、ソレンヌちゃんを初めて見た時、ビビッと来たんだよね。たかさごの現状を打開してくれるのはこの娘だ、って。ソレンヌちゃん、死ぬ程可愛かったし。だから、逃げたソレンヌちゃんを全速力で追いかけたの」


「滅茶苦茶、怖かったですよ。高校一年生の女子がそこそこ図体のデカい初対面の大人に追いかけられた訳ですから。今でも恨んでます」


「何やってるんですかマスター......」


「流石に引くわ」


「警察呼ばれてたらそれ、マスターさんの人生詰んでた奴ですよ」


 この人、意外と頭おかしいよな。女子高生を全速力で追いかける大人の男、絵面を想像しただけでも中々に地獄だ。


「ウチ、貧乏って訳じゃないんですけど、親があんまり私にお金使ってくれなくて、学費とか稼がなきゃいけなかったんですよ。それで、幾つもバイトの面接受けてたんですけど、全部落ちちゃって。仕方ないからコイツの店で働いてやることにしたのです」


「よく初対面で追いかけてきた男の居る店で働こうと思ったわね」


「まあ、待遇良かったですしね。看板娘としての効果が如何程のものかまだ不明だったというのに、最初から時給1200円だったのです。今は1400円ですけど」


 マスター、どうしてもソ連に働いて欲しかったんだろうな。それだけ追い詰められていたマスターのことを思うと何だか可哀想になってくる。


「結果的にたかさごは大繁盛になったんだからノープロブレムだよ。ソレンヌちゃんの給料が高いせいで商品を値上げせざるを得なくなってるけど......」


「値上げしても客が店に来てくれるのは私のお陰なのです。文句言うな」


「あ、はい。すんません......」


 相変わらず、不憫なマスターを俺達が憐れんでいると、マスターのうどん、アーデルの湯葉丼、俺のそばが運ばれてきた。黒い高級感のある麺に食欲が掻き立てられる。


「ケイのソバ、美味しそうね」


「アーデルのもな。俺も湯葉丼なんて食べたことないわ」


 彼女の湯葉丼はシンプル且つ完璧。そこそこ大きな丼鉢に入った米の上に湯葉が所狭しと被せてあり、その上にはポツンと梅が乗っている。


「......うん。クニャクニャしてて面白い食感だわ。ガムともまた違った、ツルッとした感じ。これ、家でも作れるのかしら」


「本格的なのは難しいだろうが、作るだけなら簡単だと思うぞ。豆乳熱するだけだし。豆乳鍋とかするか?」


「良いわね、ナベ。私、鍋好きよ。帰ったらそれにしましょう」


「ズズズッ。もぐもぐ......んぐ。これじゃ、真昼に勝ち目なさそうですね。今から攻めたところで五六はハイジに降伏寸前なのです」


 ソ連が『特製夏御膳』の付け合わせである山菜汁を啜りながら、そんなことをポツリと言う。


「何てことを言うのソレンヌちゃん」


「......先輩、私もその鍋パ、参加して良いですか。具材持っていくんで」


「え、あ、ああ、良いぞ。......な?」


 俺はアーデルに同意を求める。


「ええ。首都決戦と行きましょうか」


「人の家で争わないでくれない? 日清戦争? 日清戦争なの? 当事国同士で勝手にやって?」


「そういえば、五六の家、何気に一回も行ったことないのです。私もそれ、する時は呼べなのです」


「あ、俺も行って良い? ソレンヌちゃんを一人で渓君の家に行かせるの不安だし。盗られそう」


「私はテメエの所有物じゃないし、そもそも、五六はそんな勇気無いのです」


 ......結局、いつものメンバーで鍋パするだけじゃねえか。

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