51 告白
「え、Äh、う、ま、マヒル......？」
驚愕と困惑の声を上げるアーデル。彼女の表情は何処となく、怯えているようだった。
「大阪から転校してきた私は仲の良い大阪の友人と離れ離れになってしまったショックと、こっちの高校で中々、友人を作れないストレスでかなり精神的に参ってたんです。......フォーゲルさんのように」
「・・・・」
アーデルは無言で彼女の言葉に耳を傾ける。
「......それで、途方に暮れていた私に優しくしてくれたのが先輩だったんですよ。フォーゲルさんと、ほぼ同じ状況です。惚れない訳、ないですよね」
「いや、それを俺に対して言われても困るんだが......」
「先輩、まさか気付いていなかった訳じゃないでしょう？」
さも当たり前のことを確認するように聞く月見里。俺は無言で彼女から目を逸らした。
「その男、多分、気付いていなかったわよ。私の好意にも気づいてなかったし」
「五六は鈍感じゃなさそうに見せかけてクソ鈍感なのです。アホみたいに鈍ちんなのです」
「......先輩？」
二人の言葉を聞いた月見里がまさか、という風に首を傾げた。
「・・・・」
「先輩？」
「......スゥッ」
俺は月見里からのえげつない圧を感じながらも軽く息を吸い、目を逸らす。
「先輩っ！？」
「ごめん。ぜんっぜん、気付いてなかった」
「っ！？」
「Oh......」
顔を真っ赤にし、目を見開く月見里を見たマスターはそんな声を漏らす。
「何なんそれ。嘘やん。じゃあ、何？ ウチ、今、先輩に告白した感じになるん？ ええっ？ えええ？ ......帰ります」
「いや、まだ飯来てないし。帰んなよ！？」
「嫌です。帰ります。帰らせて下さい。月見里真昼は死にました」
「びっくりするくらいネガティブになってやがりますね......」
待て。一旦状況を整理させて欲しい。月見里は俺のことが前から好きだった。月見里は既にそのことが俺にバレていると思い、皆の前で自分の気持ちについて話した。が、実際の俺は信じられないくらいにニブチンアルチン山脈だった、と。
......俺が悪いのかこれ。
「あのー、月見里？」
「頼むから何も言わんといて下さい。分かってます。分かってますから。先輩がフォーゲルさんと付き合ってるのは。それを理解してるからこそ、ネタで言ったんですよ。さっきの発言は」
歯をガタガタと言わせ、死んだ魚のような目で、耳を手で押さえながら月見里は言う。
「一つ良いかしら。マヒル？」
「止めてください。ごめんなさい。何も言わないで。身の程を弁えます。人様の男に手を出してすみません。許して下さい」
「聞いて。私とケイ、別に付き合ってないわよ」
「......はへ？」
アーデルのその言葉を聞いた月見里は情けない声を出して驚いた。
「だよね！？ 渓君がアーデルハイドちゃんと付き合ったら時給をアップする約束だけど、渓君に一回も報告受けてないもん。焦ったあ......」
マスターが安堵の声を漏らす。
「先輩、それ本当ですか？」
「ああ......。付き合ってはない、な」
俺とアーデルの関係性を客観的に分析すると、付き合っていないというのはかなり無理のある主張な気はするが。
「結果だけ見れば、真昼は今、私とマスターとハイジの前で五六に告白をしたことになる訳ですね」
「......それはそれで滅茶苦茶恥ずかしいんですケド。やっぱ、帰っていいですか」
「まあまあ、良かったじゃない。渓君の攻略チャンス、まだ残ってた訳だから」
攻略言うな。
「......そうですね。もう何か、どうでも良くなってきました。先輩」
自棄になった様子で彼女は俺の名前を呼ぶ。
「え、あ、は、はい！ 何でしょう」
「返答とか、要りませんから。一応、知っといて下さい」
月見里の表情は真っ赤で気まずそうではあったが、何処か清々しさが感じられた。
返答不要というのは彼女なりの気遣いなのか、はたまた単に彼女が聞きたくないだけなのか、それは分からないが、俺は笑って答えるしか出来なかった。
「......分かった」
「あ、因みに私の方が真昼よりも付き合い長いですからね。付き合いの長さマウントなら私の勝ちなのです」
「は？ だったら俺もソレンヌちゃんと同じだけ渓君と付き合ってるけど？」
「おい止めろ。ややこしくすんな」
