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5 危うき美少女

間違って先に6話を投稿してしまっていました!

大変、申し訳ありません!

 ピピピッと耳障りな目覚まし時計の音が鳴る。しかし、今日は土曜日なので無理に早く起きる必要はない。そう思い、俺はアラームを止めた。


「......ん」


 そう言えば昨日、何かがあった気がするが思い出すのも面倒臭い。そして、眠い。別に重要なことでもないだろうし、良いか。


「二度寝しようとしないで。起きなさい」


 誰かの声がした。


「んうう?」


 俺のたまの休みの睡眠を邪魔するのは一体、誰だ。


「朝よ。起きて」


「......後、10分」


「駄目。もう朝食が出来ているの」


「zzz......」


「起きて、と言っているでしょう」


 そんな声が聞こえたかと思うと次の瞬間、俺が簑のように纏っていた布団が突然浮遊して、俺と離れ離れになってしまった。


「お、俺の布団が浮いてる……。ラピュタは本当にあったんだ」


「貴方、もしかしなくても寝ぼけているわね?」


 俺が空に浮いた布団を捕まえようと起き上がると、目の前に金髪の少女が現れた。

 彼女が俺の布団を掴んでいることから、布団は勝手に浮いたのではなく彼女によって俺から引き剥がされたのだと考えられる。ふむ。


「誰だお前!?」


 俺の知り合いに金髪美少女はいない。仮に居たとしても俺の家にいるのはおかしい。


「もしかして私のこと、忘れたの?」


 彼女はショックを受けたように言う。


「忘れたってお前、だってそもそも俺達は元から知り合いじゃな......ああああああああああっ!」


「何」


「お前、アーデルハイドか!」


 其処にいたのは昨日、文芸部に仮入部をしてきたドイツ人。アーデルハイドだった。何故か、俺のパジャマを着ている。


「別にそんな大声を出して思い出すようなことではないでしょう。というか貴方が昨日最後に見た人間は私よ? 何故、それで忘れるの」


 溜め息を吐きながらアーデルは俺の頬をツンツンつついた。


「いやほら、ホテルに泊まった翌日の起床した瞬間ってド忘れしてて『あ、家じゃないのか』ってなったりするじゃん? アレだよ」


「微妙に分からないこともない例えね。兎に角、Guten Morgen」


「おう、グーテン・モルゲン。昨日は途中で寝てしまって悪かった。金曜日はバイトが休みだから何時も疲れを取るために早めに寝るんだが、お前との出会いで疲れに拍車がかかっていたみたいだ」


「別に気にしていないわ。私こそ疲れさせてごめんなさい。先程も言ったけれどもう朝食が出来ているわ。冷めてしまうから早くして」


 俺は頷いて、アーデルと共にダイニングに向かった。良い香りがしている。


「今日の朝食はハムとトースト、そしてコンソメスープよ。本当はドイツ料理を作りたかったのだけれど、材料がなかったからこうなったわ」


「めっちゃ旨そうだな。ありがとう。頂きます......ウマッ!」


 俺はそう言って、バターのたっぷり染み込んだトーストにハムを乗せてかぶりついた。不味い訳がない。


「そう」


「ああ。このコンソメスープも具沢山で、優しい味がして最高だ」


「良かった」


「ところで、アーデル? 幾つか質問良いか?」


 俺は一口、トーストを食べて言った。


「何」


「何でお前は朝から俺の家にいて、俺に世話を焼いているんだ? そして何で俺のパジャマをお前が着ているんだ?」


「圧倒的今更感」


「さっきは状況が飲み込めなさすぎて敢えてスルーしてたんだよ。答えてくれ」


 俺の言葉にアーデルは少しだけ微笑んだ。


「貴方がダイニングで寝てしまったから私が貴方をベッドに運んで、私も寝た。ただそれだけの話よ。朝食を作ったのは、貴方があまりにも苦悶の表情で眠っていたから助けになれたらと思ってしたことで、貴方のパジャマを着ているのは私がネマキをもっていなかったから」


 ヤバい、理解が追い付かない。


「待て待て待て待て。お前の両親は11時頃に家に帰ってくるんじゃなかったのか」


「友人とお泊まり会をすると連絡したら、OKが出たわ。あ、風呂は入らせて貰ったから」


「......あ、はい。もう良いっす。何でも」


「因みに私はソファで寝ることになったわ」


 アーデルはまるで当て付けのように自分の肩を揉んだ。


「いや、そんな恨めしそうな顔で見られましても。そもそも、ベッドに運べなんて俺からは一言も言ってないし。いや、有り難かったけど。てかお前、力あるな」


 俺の体重は一般的な男子高校生と同じくらいだ。それを俺が起きないように軽々と運ぶなんて、かなり鍛えていないと出来ない筈である。


「別に。ただ、毎日少し筋トレをしているのと中学生の時に運動部に入っていただけよ」


「握力は?」


「右が56、左が47」


「化け物め」


 俺の約二倍もあるじゃねえか。怒らせないようにしないと。


「心外ね」


「悪い悪い。それじゃあ、そろそろお前も帰った方が良いんじゃないか?」


「私が昨日、着ていた制服がまだ乾いていないわ」


 アーデルが目線を窓に向けたので、俺はその窓から外を見た。すると、其処にはハンガーに掛けられたアーデルの服があった。


「何さらっと、洗濯してるんだよ! ......って、どうした?」


「下着もあるからあまり見ないで」


アーデルは俺から顔を逸らして言った。


「あ、そういうことか。悪い」


 俺はそう言うと、窓の外を見るのを止めた。既に彼女の下着は見てしまったが。

 まあ、他人の家でそんなものを干すアーデルも悪いということで......。


「見た?」


「見てない」


「何色だった?」


「黒」


「バッチリ見ているじゃない。ヘンタイ。」


「ゴスロリ感凄かった」


「黙って」


 そう言って、アーデルは俺の顔をビンタしてきた。めっちゃ痛い......。


「えらいすんまへん」


 見えてしまったものは仕方がないと思う。


「全く。私もだいぶ変な自覚は有るけど、貴方も大概ね。だから、友達が居ないんじゃないの?」


 さらっと、自覚があったことを認めるな。


「残念ながら、俺が此処まで本性を剥き出しにしたのはお前だけだぞ。お前が部室でブルストを茹で始めたくらいからどうでも良くなった」


 何時もはもっと無口なので、俺に友達が居ないことと俺の本性は関係がない筈である。


「そう」


「自分から聞いた癖に反応薄いな」


「口下手なの。ごめんなさい」


「クールではあるが、口下手ではないと思うぞ。お前は」


 口下手な人間が初対面の俺と昨日のように激しい掛け合いが出来るだろうか。いや、無理に決まっている。


「そう」


「ま、そんなことは置いといて。じゃあ、お前は制服が乾いたら帰るんだな?」


「ええ。そのつもりよ」


「分かった。色々ありがとうな。昨日会ったばかりの男の世話をしてくれて」


 どっと疲れたが、悪くない気分だ。


「どういたしまして。これからも後輩として宜しくお願い」


「おう。......ところで、気になったことがあるんだが」


「何?」


「パンツも干しているってことは、予備のパンツでも持ってたのか?」


 アーデルも女性なので、何かあったときのために予備のパンツを持っていても不思議ではない。色々、あるしな。女性は。


「穿いてないわ」


「は?」


 しかし、返ってきた言葉は予想とは全く違うものだった。


「予備はないわ。だからといって、流石の私でも貴方のパンツを勝手に穿くようなことは出来ないし、ね」


「ね、じゃねえんだよ。何で予備もないのに洗った」


「綺麗好きだから」


 正論なんだけど、正論じゃない。


「というか、アレだからな。俺のパジャマのズボンを勝手に穿くのは俺のパンツを勝手に穿くのとそう変わらないからな? 結果的に」


「……それもそうね。盲点だったわ」


「それもそうね、じゃねえんだよ。いや、見ず知らずの独り暮らしの男の家に抵抗なく上がり込んで、一泊して、パンツを干して、ノーパンで過ごすとかマジでドイツ人の貞操観念どうなってんだ」


 家の主が俺だったから良かったが、クラスの猿共だったら酷いことになっていた筈だ。

 いや、アーデルの力の強さを考えると仮に襲おうとしても返り討ちに遭うだけか。


「馬鹿にしないで。ドイツ人の多くはキリスト教信者で貞操観念が非常に高いのよ」


「ふうん。アーデルはキリスト教徒なのか」


「私は無宗教よ」


「駄目じゃん」


 何なら、日本人と同じまである。いや、日本人の無宗教とは違うか。神社と寺の区別が付いてない人も多いくらいだし。


「でも、キリスト教の子達と育ってきたからそんなに変わらない筈よ」


「じゃあ、ただただお前が抜けていただけか」


「うるさいわね。後、私の穿いたズボンで変なことしないでね」


 思い出したようにアーデルは言った。


「しないから」


「本当に?」


「本当に」


「じゃあ、誓って。『私、フノボリケイはアーデルハイドの穿いていたズボンが返却されても、決して変なことはしませんって』」


どんだけ俺の信用低いんだよ。


「え、嫌だけど。そんな変なこと言いたくない」


「119に通報するわ」


「何でもう犯罪者扱いされてんだよ。後、119は消防と救急だから」


「貴方の頭を水で冷やして、精神科に連れていってもらいたいの」


 昨日の夕食を作ってやった恩を忘れやがって。


「......もう良い。俺はそろそろアルバイトに行くからな」


 俺の言葉にアーデルはピクッと反応した。


「休日の昼間からアルバイトに行くの?」


「まあな」


「大変ね。因みに、何処で働いているのかしら」


「ちっさなカフェ。付いて来るか?」


「良いの?」


 アーデルは首を傾げて遠慮がちにそう言った。


「お客様として来てくれるならな。面白いところだぞ」


「そう。なら、行くわ」


 この土曜日のアルバイトはどうやら楽しくなりそうだ。

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