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44 肉まん


 二時間くらい経っただろうか。新大阪駅に着いた俺達はホームに降り立った。


「結構、着くの早かったですね」


 と言うのは月見里である。


「うわ、凄え。大阪だあ」


 マスターはまだ大阪らしいものは何も無いホームで既に興奮している。


「お腹空きました。マスター、たこ焼きでも奢れなのです」


「あ、はい......」


「腹が減ったなら肉まんも良いんじゃないか? 新大阪駅の中にも店、あったと思うぞ」


 大阪人である俺、イチオシの大阪名物、それが肉まんである。五・一五事件みたいな名前の店の肉まんが最高なのだ。


「あの店の肉まん美味しいですよね。私も実家に帰る時は何時も買って帰りますよ」


「マスター?」


「買おうか」


 マスター、ソ連に使われまくってるな。


「ニクマン、食べたことないわね。スーパーで見たことはあるけど。確か、China(シーナ)の料理よね?」


 確かシーナはドイツ語で中国という意味である。


「ああ。日本のはかなり本場とは違って日本人好みの味に改良されているけどな。俺達も買っていくか」


「ええ。ケイの家へはどうやって行くの?」


「地下鉄乗って千里中央まで行ってからバスだな」


「私の家と先輩の家、向きが真逆なので此処でお別れですね。アフリア先輩とマスターさんはこれからどうするんですか?」


 その質問にマスターは首を捻り『うーん』と唸りながら答えた。


「まずは梅田に行ってみようかなあ」


「梅田の地下街、迷宮ですけど大丈夫ですか?」


 大阪人の俺でも、もう一年以上行っていないので迷う気がする。


「あ、ならウチが案内しましょうか? ウチ、どっちにしろ梅田辺りをぶらついてから帰るつもりだったので」


 そんな提案をする月見里の手をソ連がギュッと握る。


「言質は取ったのです」


「あ、でも、マスターさんと二人きりの方が良いとかありませんか? ウチが居るとイチャイチャ出来ないと思いますし」


 月見里は遠慮がちにそんなことを尋ねる。月見里、結構言うなあ。


「は? 私がこんな男と二人きりが良いなんて思う筈無いでしょうが。というか、何でこんな何の取り柄も無いボンクラでアホで考え無しのヘタレ男と私がイチャつかないといけないんですか。考えただけで反吐が出るのです。真昼が居てくれた方がコレと二人きりにならずに済むので圧倒的に良いのです」


 よく噛まないなと思うくらいの早口で捲し立てるソ連。そういうとこやぞ、と言いたくなるのを抑えて俺は軽く笑った。


「あのさあ、ソレンヌちゃん? 俺にも尊厳ってものがあってだね?」


 マスターが苦笑いをしながらそんなことを言う。


「でも、貴方、そのマスターと一緒にホテルに泊まるのよね? それは良いの?」

 

 アーデルの質問にソ連は痛いところを突かれたとばかりに顔を逸らす。


「流石にマスターを一人でホテルに泊まらせるのは私の良心が痛むのです。私は優しいので本当は嫌ですけど、仕方なく、そう、仕方なくコレと泊まってやるのです。感謝しろなのです」


「ソレンヌちゃん、ありがとう」


 マスターはナチュラルにソ連の頭をポンポンと叩きながら礼を言った。メンタル強いなあこの人。


「止めろ。手を退けろなのです」


 顔を朱に染めながらマスターを睨むソ連。


「ソレンヌちゃん、身長の問題で俺を睨むと上目遣いしてるみたいに見えるんだよね。可愛い」


 そんなバカップル達のやり取りに尊みを感じながらスマホを見ると、結構良い時間になっていた。もう12時である。


「そんじゃあ、そろそろ行くか」


「そうですね。地下鉄までは一緒に行きましょうか。肉まんも買わないとですし」


 月見里の言葉に全員が頷く。

 大阪に、返ってきた。故郷に帰ってきたのだ。

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