42 入浴
ちょっと精神的にも肉体的に疲れているので一時的に投稿頻度落ちるかもです(もう落ちてますが.....)
ごめんなさい。必ず更新はするので、お待ちください!
「ふぅぅぅ......疲れた」
まるでリコーダーでも吹いているかのような細い息が思わず、口から出た。体全体の力が抜ける。
「良かったわね。お母様。説得出来て」
「アーデルのお陰だよ。ありがとな。滅茶苦茶、心強かった」
「別に、大したことはしていないわ。貴方のお母様に私の気持ちを伝えただけよ」
ヤバい。カッコ良すぎる。惚れそう。いや、もう惚れてたわ。
「アーデルママアアアア!」
俺はギュウッとアーデルに抱き付いた。
「......今の今まで実の母親と話していたというのに、一体、どんな気持ちで私をママ呼ばわりしているの?」
アーデルは特に抵抗することもなく、ただただ冷たい口調でそう尋ねてきた。
「止めろよ。そういうこと言うの。母さんとママはまた違うんだよ!」
「......何でこんなの好きになったのかしら私」
「さっきは母さんにあれだけ、俺の弁護をしてくれてたのに急に手厳しいなオイ」
ほのかに柔らかい感触のあるアーデルの胸に顔を押し付けながら、俺はそう言う。
「胸に顔を埋めながら喋らないで。こそばゆい」
「其処かよ。羞恥心どうなってんだ」
「貴方に言われたくない。そろそろ、離れて。お風呂入ってくる」
「一緒に入る?」
俺は戯けて言う。
「良いわよ」
すると、アーデルは表情を少しも変えずにそう応えた。
「やっぱ、お前貞操観念どうなってんだ」
「いや、そもそもただの入浴にテイソウカンネンの概念を持ち出すこと自体がナンセンスだから。混浴は如何わしい行為じゃないわよ」
「うぐっ.......」
確かに入浴は体を清潔で健康に保ち、心を癒すために行うことだ。如何わしいことは何も無い。
いや、確かにそうなんだけども。
「因みにドイツの温泉とサウナは殆ど混浴よ」
「何それ初耳なんだけど!? え? マジ? てことは、アーデルもドイツではジャーマンガイ達と素っ裸で混浴してたって認識でオケ?」
「いや、私は普通に恥ずかしいから温泉とか行ったこと無かったわ」
何でやねん。
「話の流れを急にぶった斬んな」
「私みたいなのも一定数は居るの。それでも、混浴が恥ずかしくないっていう人の気持ちは理解出来るけどね」
「其処は完全に文化の違いだなあ......。日本にも混浴はあるっちゃあるけど、普通は利用しないし。すずっ」
俺は日本とドイツの意外な文化の違いに驚きつつ、麦茶を啜った。
「そう。じゃあ、異文化交流の一環として一緒に入ってみる?」
「ゴボッ、ゴホゴホッ」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよ! 変なところに麦茶入ったわ。魅力的な提案で驚かせないでくれ」
「でも、貴方のことだから絶対に劣情を抱くでしょう。やっぱり、止め......」
「オレ、レツジョウ、イダカナイ、ゼッタイ」
アーデルが言い終えるよりも早く、食い気味に俺はそう言った。
「本当に?」
「本当に」
「もし、抱いたら?」
「浴槽に沈めて頂いても構いません。ですので、どうかどうか何卒何卒ひらにひらに」
アーデルと風呂に入れるなんて機会、二度と無いかもしれない。そう思った俺は形振り構わずにそう頼んだ。
「はあ......Okay」
そしてアーデルは呆れた様子で頷いてくれたのだった。
⭐︎
予想は出来たことだが、この家の浴槽は二人で入るにはかなり小さかった。お互いが三角座りのように足を曲げることで何とか肩まで湯に浸かれるレベルである。
しかし、それよりも俺には気になることがあった。
「なあ、アーデル」
「・・・・」
「なあ」
「......何」
顔を真っ赤にして、俺から顔を逸らしながらアーデルはそう応えた。
「ドイツの混浴ってタオル巻くものなのか?」
「基本的には違うと思う」
「じゃあ、何でタオル巻いてんだよ。胸にも腰にも」
「恥ずかしいから」
俺の質問にアーデルは泣きそうな口調でそう答えた。
「うっそだろお前」
「言ったじゃない。ドイツでも恥ずかしくて混浴には行けなかったって。貴方となら行けるかと思ったのだけれど.......」
だからってお前、さっきまでムンムンと出していた『私はそういうの意識しないから』みたいな余裕は何処に行ったんだよ。
「俺を見ろよ。何か知らんけど、めっちゃ冷静だぞ」
ぶっちゃけ、風呂に入るまでは劣情抱く気満々だったのだが、いざ、入ってみると急に色んな感情が引っ込んでしまった。
アーデルが恥ずかしがりまくっているせいで、逆に冷静になってしまったのかもしれない。
「それもそれで傷付くのだけど。私の裸、そんなに魅力無い?」
「いや、だって、アーデル、裸ちゃうやん。タオル巻いたら水着と変わらんやん。というか、俺だけ全裸なの恥ずかしいんだけど」
俺の言葉を聞いたアーデルは更に、茹でダコのように顔を真っ赤にして、顔を顰めながら胸に手を掛けた。何その動作エロい。
「それは、つまり、タオルを取れと暗に言っているのかしら?」
「言ってねえよ。というか、そんな泣きそうになるほど恥ずかしいならもう良いよ。俺、出るから」
アーデルに嫌な思いをさせてまで風呂に入りたいとはちっとも思わない。そう思い、俺が浴槽から立ち上がろうとすると、手をアーデルにギュッと掴まれた。
「待って。出なくて良い。それにやっぱり、貴方だけ全裸で私はタオルを巻いているなんてフコウヘイよね。脱ぐわ」
風呂の熱さと、混浴という非日常的な状況、そして、限界を突破した恥ずかしさに脳が破壊された様子のアーデルは目に渦巻を浮かべながらタオルに手を掛けた。
「待て待て待て待て! 俺が悪かった! 不公平とか無いから! 風呂は心身の疲れを取るものであって、そんなムキになるようなものでは......!」
「いいえ、脱ぐわ。ケイの癖に私と風呂に入っても顔色一つ変えないなんて生意気。覚悟しなさい。私の裸でノウサツしてやる」
そう言ってアーデルは目にも止まらぬ速さで胸のタオルを脱ぎ、俺の顔に投げつけた。全然、見えなかったぞ.....。
「悩殺なんて言葉何処で覚えてきたんだよ!? てか、最初に自分が言ってたこと忘れてるだろお前。風呂は如何わしいものではないんだ。何、自分から劣情を煽ろうとしてんだよ!」
俺はタオルに視界を塞がれながらもそう叫ぶ。
「Halt die Klappe! ich tue, was ich will!」
「何言ってんのか分かんねえよ!」
「黙って。私は私のしたいことをするって言ったのよ。ジャパニーズヘンタイ」
そして、また顔にタオルが投げつけられた。此方は腰の方のタオルだろう。視界が真っ白で何も見えない。
まあ、好都合と言えば好都合かと思っていると突如、そのタオルをアーデルによって剥がされた。
「っ!?」
そして、其処にはタオルを取ったらしいアーデルがやはり顔を真っ赤にしながら、湯船に顔だけを出していた。秘部も足で上手いこと隠している。
「.......やっぱり、恥ずかしいから見ないで」
「情緒不安定過ぎるだろ」
「ケイになら見られても良いけど、自分から見せるのはチジョみたいで恥ずかしいし、私のキャラとは違う気がする」
「俺の知ってるアーデルは悩殺してやるとか言って全裸になったりしないぞ」
「というか、貴方、何でそんなに落ち着いているのよ。今気づいたけど、顔沈めてもお湯が透明だから胸は見えてるでしょ。もう少しロウバイして欲しいのだけれど」
アーデルが慌てて胸を手でギュッと隠しながらそんなことを言ってきた。
「いや、勿論、アーデルの胸に興味が全く無いと言えば嘘になるけどさ。そんな騒ぎ立てることでも無いかなあ......」
「傷付く」
「俺にとってアーデルの魅力はもっと別のところにあるんだよ。俺がアーデルに好きって言ったのは体目当てじゃない、って証明になるんだから良いだろ」
「いや、それくらいは証明して貰わなくても分かってるけど」
「というか、そもそも俺は胸よりも足が好き」
「ああ......そうだったわね」




