41 和解
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「え......」
「俺の実家、小さな料理屋でさ、従業員に辞められたとかで人手が足りないらしい。母さん達が大変なのは分かるが、流石にそりゃあ無いだろって感じで.......。昨日は本当に悪かった」
そもそも、神奈川に来たのも親に爺さんの介護をする様に言われたからだ。俺はそのために大阪の交友関係を全て捨てて、神奈川にやってきた。
爺さんの介護をしたことに対して後悔は無いが、中学校を卒業したばかりの俺に対して一人で神奈川に行けと言ってきた親に対しては未だに不信感が残っている。
「ケイは......帰りたくないの? 大阪に」
「やだよ。帰っても親の仕事を手伝わされるだけだし、交友関係も残ってない。こっちの生活の方が大切。進学もしたいし」
「そう。確かに美少女と半同居が出来ている今の生活を終わらせるのは嫌でしょうね」
「そうなんだよ。こんな素晴らしい生活を捨てるのは勿体な過ぎる。かと言って、断るのもな」
そんなことを言っているとスマホから着信音が鳴った。ドキッとしながら、画面を確認するとその相手はやはり......。
「......噂をすれば何とやら、だな。悪い。出るわ」
「聞いてて良い?」
「ああ。聞きたいならスピーカーにしとく。もしもし?」
『もしもし』
落ち着いた様子の母の声が電話の向こうから聞こえてくる。
「何だよ」
『いや、昨日、勝手に切られたから。話全然、出来へんかったやん』
「出来へんかったも何も、もう話はし尽くしたやろ。俺は帰らへん」
『ウチ、ホンマ大変やねん。従業員の市川さんが辞めはって人手も足りひんし、何よりお父さんが腰悪くしててな。力仕事とかを手伝って欲しい。ウチが儲からんかったらアンタへの仕送りも出来へんねんで』
「いいよ。別に」
『え?』
「仕送り止めてくれてもええって言ってん。別にバイト代でどうにかなるし。やから、もう放っといて。学費がキツイなら奨学金借りるし」
険悪な雰囲気が部屋中に広がる。アーデルはさぞかし気まずいだろうと思いながらも俺は母の出方を伺った。
『そういうことちゃうやん。お父さんも私も困ってんねんて』
「いや、知らんし」
『一人っ子のアンタが帰ってきてくれへんかったら、ウチ立ち行かへんねんてホンマに。悪いけど、お願いやわ。帰ってきて』
「......っ」
俺は眉を顰めた。其処まで実の親に頼まれたら無下にする訳にもいかない。
『な? 頼むわ。神奈川なんて居てもしょうがないやろ。店が丸々、タダで手に入んねんから継がんと損やで』
「は?」
前言撤回。誰がこんな親の言うことを聞くものか。
『は? ちゃうねん。どうせ、そっちでも大した学校生活送ってへんねやろ? 別に大学行ってもしたいこと無いみたいやしさ』
自然と怒りで体が震えてきた。俺は拳を握り締め、怒りを抑えようと息を吸い込む。
すると、アーデルがそんな俺の背中を優しく叩いて軽く笑ってみせた。そして、次の瞬間、彼女は俺からスマホを早業で奪い取った。
「ちょ、おい!?」
俺の口にアーデルはスッと人差し指を当てて、俺を黙らせる。
「もしもし。ケイのお母様ですか? 初めまして。アーデルハイドと申します」
『へ? アーデ、何? 外国人さん?』
『アーデルハイドです。ケイと同じ学校に通っている......。日本には数ヶ月前、ドイツからやってきました。右も左も分からない私に優しく接してくれたケイにはとても感謝しています」
落ち着いた口調でスラスラとそんな言葉を述べるアーデルに母さんは沈黙してしまった。まあ、突然、正体不明のドイツ人に電話を代わられたらそうもなるだろう。
というか、母さんが掛けてきたのが家電ではなくスマホで良かった。時刻は19:00頃。家電だと何故、こんな時間の俺の家に女子が居るんだという話になるが、まだギリギリ外に居ても可笑しくない時間なのでスマホなら怪しまれずに済む。
『は、はあ......』
「ケイにオオサカに帰れと言っているそうですが、考え直して貰えませんか?」
数秒の沈黙が流れた後に、母さんが反駁する。
『な、何で、アンタがそんなこと言うんよ』
「ええ。確かに私はフノボリ家の問題に首を突っ込むシカクは無いでしょう。でも、日頃からお世話になっているケイがあんなことを言われていたら流石に首を突っ込まざるを得ません」
アーデルは苛立った様子で話を続ける。
「ケイはご両親に言われ、お爺様のカイゴのために神奈川に来たと聞きました。ケイ、頼れる人も居なくて心細かったと思います」
『・・・・』
「ご両親が大変なのも、お爺様のカイゴが必要だったのも、全て分かります。ですが、そろそろケイを自由にさせてあげて下さい。ケイは神奈川で楽しく暮らしています。大学も行きたいと言っています。だから、これ以上、私の恩人の幸せを侵さないで」
『っ......』
スマホの向こうからは声を詰まらせたような音が聞こえて来る。
「貴方も親なら、子の幸せを奪わないで。それにケイの気持ちを勝手に決めつけるのも止めて。ケイの気持ちや考えは、貴方に推し量れるようなものじゃない」
普段から敬語を使っていないからか、アーデルの話し方からは完全に敬語が抜けた。
『......アーデルハイドさん、やったっけ』
「ええ」
『ありがとう。......ごめん』
「ケイに代わるので謝るならケイに謝って下さい」
そう言ってアーデルは俺にスマホを返してきた。
「もしもし。代わった」
スマホの向こうからは嗚咽のような音が聞こえて来る。
『私が悪かった。好き勝手言ってほんまごめん。店のことはこっちでどうにかする』
先程と母の態度の代わりように呆気に取られながらも、俺は
「分かった。ごめんな。お盆は帰っても良い?」
と、返した。
『勿論。どうせならアーデルハイドさんも連れて来て』
「......分かった。んじゃ、またな」
俺はそう言って電話を切った。何だか脱力して眠くなって来た。




